第25話 原作の強制力って奴なのかね……
「連絡……何だったの?」
「あ? ああ……」
心配そうに輝夜たちが尋ねてくるが、スマホをポケットにねじ込みながら、俺は瞬時に頭を巡らせる。
母さんからのメッセージは実に端的だった。
これは、大変な非常事態である事を物語っている。
俺の裏のお役目は晴飛の護衛だ。
そんな奴が、目の前で晴飛を誘拐されるなんて、大失態もいい所だ。
これじゃあ、俺の首と胴体が泣き別れエンドである。
あ、でも、休日の護衛は俺じゃなくて、別の警護班が担当だから俺の責任じゃない……。
って、アカン!
前夜に、母さんから晴飛が俺の家の前で待ってると連絡が来た時に『晴飛様と一緒に居る時はお前が警護責任者だ』みたいに言われてたんだった!
ちくしょう! 本来は担当外の仕事を臨時で受け持った時に限って大トラブルが起きるとか、仕事の神様はよっぽど俺の事が嫌いなんだな!
もう、この仕事向いてないので、辞めて故郷に帰り……いや、辞めておめおめ帰ったら、それこそデスエンドだから、辞めれねぇよクソが!
「ッスゥ…………。大丈夫! 連絡は晴飛からでさ! 急用が出来たから帰るってさ!」
努めて明るいフリをしながら、俺はウソをついた。
ウソつくのは性格的に苦手なんだけどな……。
「じゃあ、こんな事があったし、今日はもうお開きにしようか! ごめん三戸さん。2組の皆には、ゴメンって伝えておいて」
「う……うん分かった」
こういう時は勢いが大事だ。
その勢いに圧されてか、三戸さんは怪訝そうな顔をしつつも頷く。
「じゃあ鴨居さん達は俺が家まで送って行くよ。なぜなら、四葉ちゃんの誘拐未遂があったし、危ないからね! そして、鴨居さん姉妹と親しいのは俺だからです!」
「ちょっと、トモ君。なに? そのAI要約させたようなセリフは。貴方、もしかしなくても何か隠してるでしょ?」
「い、いや。何もーー?」
「じゃあ私もついて行く」
く……。
輝夜のかぐや姫な所が存分に発揮されちゃってるな。
こ奴を黙らせるには……。
「輝夜。ちゃんと俺の言葉を聞いてくれ」
「ふぇ⁉ は、はい……」
輝夜の手を取り真剣な眼差しで輝夜の顔を正面から見つめながらアゴくいすると、輝夜が珍しく動揺した表情を見せる。
「俺は、仕事に対して責任感を持って、誠実に向き合っている女性が好きだ。輝夜は有能で他の人に替えられない大女優だ。でも、だからこそ、輝夜には驕らず女優の仕事に向き合って欲しい。そうすると、もっともっと好きになると思う」
なお、これは別に輝夜に言う事を聞かせるためのおべんちゃらではなく、俺の本心である。
ウソをつくのが苦手な俺は、こういう時にも直球勝負しか出来ないんだから、我ながら不器用な男だぜホント……。
「トモくんがもっと私のことを好きに……。お父様にもご挨拶したし、これは最早、結婚秒読み……。ちゃんと撮影に戻って最高の演技を見せましゅ……」
よし。
これで、厄介だった輝夜を遠ざけられるぞ。
何か、色々と飛躍して都合良いように解釈している節はあるが、とっとと撮影現場に戻って欲しいので、特にツッコミはしないでおく。
「じゃあ、そういう事でよろしくー」
皆の気が変わらないうちに俺は、鴨居姉妹の背中を押して、遊園地の正面出口へと向かった。
◇◇◇◆◇◇◇
「地元の先輩たちの溜まり場の場所を至急教えて欲しい」
タクシーに乗り込んだ所で、俺はカモちゃんにそう告げた。
なお、四葉ちゃんは泣き疲れたのか、発着場でタクシー待ちしている時点で寝入ってしまっていた。
「はい……」
俺に聞かれるのが分かっていたのか、直ぐにカモちゃんは俺のスマホ端末に、場所を示した衛星地図画像を送ってくれる。
ここら辺の察しの良さや、事前に準備しておく処理能力の高さは、カモちゃんも流石はハニ学の生徒と言った所か。
めちゃくちゃ有能。
「すいません。場所の候補が幾つかあって、どこに逃げたかまでは……」
「いや、大丈夫。ここだ」
そう言いながら、俺は溜まり場の内の一つを指さした。
港湾の廃倉庫だ。
「どうしてここだと?」
「んー、勘かな。でも、ここだよ」
根拠をボカして言い切るが、情報がこれ以上ない状況でカモちゃんの方で反対する道理も無かった。
なお俺がこの廃倉庫を、晴飛を誘拐した一団の根城と断定したのは、原作での誘拐イベントの舞台がここだったからですね。
持ってて良かった原作知識。
──しかし、まさか晴飛の方が誘拐されるとはな……。
いや、原作通りと言えばそうなんだけど、今回の誘拐の大目的は俺のはずだった。
そのためのカモちゃんの傀儡化であり、そのための今回の四葉ちゃんの誘拐だった。
そういう意味では、明らかに晴飛を攫ったのは、実行時にたまたまフリーになっていたからという場当たり的な犯行だと思われる。
たしかに、四葉ちゃんという幼児が誘拐されるという、場のインパクトにやられてしまっていて、晴飛への警戒を完全におざなりにしてしまっていた。
その意識のエアポケットを的確に突くかのような結果となったのは、正直、その辺の不良の集まりに出し抜かれたというのは忸怩たる思いがあるが。
──それとも、原作の強制力って奴なのかね……。
クラス入れ替え戦が1組で未だ勃発していない所で原作は破壊されているが、クラス宿泊合宿での遭難イベントは相手が俺とは言え実現した。
原作再現の力と言うのは、思ったよりも強く、そしてその強引に辻褄を合わせようとするせいで、内容や時期がねじ曲がってしまうという事か……。
「私も行きます」
「いや、カモちゃんは四葉ちゃんに付いていてあげて」
「四葉は、先ほど他の妹たちに連絡したので大丈夫です。根城の場所については、私の地元なので私の案内があった方がいいです」
「いや、そういう意味じゃなくて。そうやってカモちゃんが表立って動くと、カモちゃんの家が地元での居場所を失くすでしょ。家族ごと」
「…………」
こういった地元の先輩との関係が厄介なのは、この手の上下関係という物は地元という狭い範囲に限って言えば、影響が絶大で深く根付いてしまっている点にある。
仮に俺たちが、晴飛の奪還に成功して、実行犯たちがお縄になったとしてだ。
この後に、地元に居られなくなるのは、加害者ではなく被害者側であるカモちゃんの家の方になる可能性が高い。
誘拐という犯罪を犯したのになぜと思われるだろうが、『地元の人間を売った』という烙印は、先輩後輩の上下関係が厳しい界隈では、何よりの大罪人とされる。
外野から見ればチャンチャラおかしいが、そもそもこういう大それた事をしでかす奴が地元でのさばって来れたのは、親族関係者が地元で発言力を持っているか、ヤバい家だから刺激しない事が暗黙の了解になり、いつしか刺激した家の方が周りから糾弾されるようになったからだ。
その力関係の前には法律すら無意味。
そして、加害者たちが刑期を終えて地元に戻ってきたら、事態はさらに悪化する。
最早、地元を離れるしか打つ手は無くなる。
「ってな訳で、水先案内人はしなくていいよ」
「で、でも……元はと言えば私のせいで……」
「それは違う。悪いのは地元の先輩でカモちゃんのせいじゃない。そういう調子こいてる先輩は、こっちできっちり型に嵌めとくから」
そう言って、俺はカモちゃんの頭を撫でる。
これから踏み込む現場に居ないのであれば、カモちゃんは妹を誘拐されかけたという事で、一方的な被害者の位置に居られる可能性がある。
まぁ、根城に俺が現れた時点で、カモちゃんがチクったという風に、向こう側に解釈されてしまったらどうしようもないが、直接対峙して決定的な敵対行動と見られるのは避けるべきだ。
「大丈夫。手勢にはちょっと当てがあるしね」
心配そうなカモちゃんをよそに、俺は車中でスマホの連絡アプリを開いた。
「お、荒崎さん。休日にゴメンね。ちょっと頼みが……え、そうじゃない? ああ……チッ……。おい豚、俺の言う事を聞け」
『ブヒッ♡』
電話の向こうでドMが嬉しそうな声を上げていた。
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良しなに。




