第24話 え、原因、俺⁉
「そういえば橘っちと、みな実っちが2人きりで観覧車に乗ってたの、みんな怒ってたよ~」
みんなと合流するために三戸さんと遊園地エリアへ向けて歩き出すと、ようやくいつもの調子を取り戻した三戸さんが笑いながら話してくる。
「あ、やべ、忘れてた。多々良浜さんと一緒に謝るつもりだったけど、ここは俺だけが生け贄か……」
観覧車に多々良浜さんと2人きりで乗って、その後、逃避行した事については説明が必要であろう。
いや、でも流石にあの状態の多々良浜さんを連れて行くわけにもいかないしな。
「フフフッ、ここは私がみな実っちの代わりにフォローするよ」
「そう言いながら、三戸さんは良い子だから、最初から俺たちのフォローしてくれるつもりだったんでしょ?」
「そうやって茶化す人にはフォローしませ~ん」
「ゴメンなさーい、許してー、助けてー」
2組の女の子たちはともかく、晴飛や輝夜、四葉ちゃんからの追及に俺一人で抗いきれる自信がない。
ここは三戸さんのフォローが不可欠だ。
「仕方ないな橘っちは。今度埋め合わせしてね」
「ありがと名参謀」
ギャルの名参謀に感謝しつつ、俺達は遊園地エリアのメインエリアに到着した。
「お、カモちゃん達だ。晴飛に輝夜も居るな。おー」
カモちゃん達の一団が遠目に見えたので、『おーい』と手を振って呼びかけようとしたその時だった。
「きゃぁぁあああああ! 待って! 先ぱ……」
悲鳴が響いた。
絶叫系アトラクションもお化け屋敷もある遊園地ならば、悲鳴自体が響く事自体はおかしくない。
故に、周囲も直ぐには反応できなくとも無理は無かった。
黒マスクにフード付きのパーカーを着た集団が、突如として四つ葉ちゃんを肩に担ぎ上げ、隣にいたカモちゃんを突き飛ばすシーンをちょうど正面から目にした瞬間、俺は四葉ちゃんの方へ全力疾走した。
先ほど、多々良浜さんを追いかけて、まだ乳酸漬けの足だが、この瞬間にはそんな事は忘れていた。
「こんのぉぉおお! 止まれぇぇえ!」
疾走した勢いそのままに、誘拐犯の背後にタックルをかます。
「ごふっ!」
背後から衝撃を受けた誘拐犯は、エビぞりのように身体を折り曲げつつ肺の中の息を吐ききる。
苦悶の声を上げ、そのまま進行方向に倒れる誘拐犯が手放し、上方に放り出されて落下する四葉ちゃんを、ダイブして何とか地面との間に自分の身体を割り込み、クッションとなって受け止める。
──ぐっ!
幼児で小柄とは言え、流石に無理な体勢で落下する四葉ちゃんを受け止めたので、胸に大きな衝撃が来て呼吸が一瞬できなくなり、その場に座り込む。
「うわーーん! お姉ぇちゃぁぁぁぁあん!」
「ゴメンね四葉……。お姉ちゃんのせいで……」
さっきまでの四葉ちゃんなら、男の俺の胸の中を堪能していただろうに、本当に怖かったのか四葉ちゃんが俺の元から、慌てて駆け寄ってきたカモちゃんに抱き着く。
取り敢えず、四葉ちゃんにケガは無いようで安心した。
「やべぇ逃げろ!」
誘拐が失敗した一団が仲間を置いて走り去って行くのがチラリと見えたが、こちらも直ぐに立ち上がって追いかけるのは無理そうだったし、たった今誘拐されかけた四葉ちゃんの元を離れるのも危険なため、深追いはしなかった。
「トモくん! 大丈夫⁉ すぐにドクターヘリを!」
「ケホッ……! 大丈夫だよ輝夜、そんな大したことない。むしろ、こっちのが重傷か……」
過剰反応な輝夜を制し、先ほどタックルした奴の方を見やる。
ゲホゲホ! と苦しみつつ咳きこんでいる誘拐犯だが、取り敢えず呼吸は出来ている様子。
四葉ちゃんを肩に担いでいたのでタックルは加減したつもりだったが、ちと強すぎたか。
「しかし、何なんだこいつらは? 完全に四葉ちゃん狙いだったみたいだし」
「咄嗟に大女優の私が狙いかもって思って身構えたんだけど、こっちには目もくれなかった」
たしかにこの場合、最も誘拐の可能性が高いのは、有名女優の輝夜だ。
まさか、幼児の四葉ちゃんを輝夜と間違えてなんて事は考えにくかった。
「おい、そこの庶民女……。その顔……何か知ってるって顔ね」
輝夜が凄むと、青ざめた顔で四葉ちゃんを抱きしめ地面にへたり込んでいるカモちゃんがビクッ! と身体を震わせる。
「な……何かって……」
「エロガキが攫われた時、このクソどもの事、先輩って呼びかけて、慌てて口噤んだよね?」
ゴミを見るような目で地面でもだえ苦しむ誘拐犯を一瞥した後に、より鋭い眼光を輝夜はカモちゃんへ向ける。
大蛇に睨まれたカエルのごとく、カモちゃんは身体をビクッ! と震わせた。
「そ……その……あの……」
「とっとと喋りなさい庶民女。愚図は嫌いなのよ」
「ふえっ……」
「まぁまぁ輝夜、そんな威圧したら話しにくいだろ。カモちゃん、何があったの? 俺になら話せる?」
一昔前の刑事ドラマでの取り調べで殺気だった若手刑事と、それを諌めるベテラン刑事のコンビよろしくカモちゃんに迫る。
責められて泣きそうになっている所で優しい言葉を掛けられると、無意識に相手を自分の味方だと誤認してしまう。
更に、この手の手練手管を希少な男の俺が行う事で効果は抜群だ。
「あ……う……。ご……ゴメンなさい! この人たちは、私の地元の先輩で……。先日、橘君の写真を送ったら、盛り上がっちゃったみたいで……。『また地元に連れて来い』って言われてて」
「で、橘っちを売った訳だー? 鴨居っちは。偶然迷い込んだ無力な子羊のフリして、護衛の要の久留和ちが離れてた手薄な瞬間を狙って」
相変わらず喋り口はフレンドリーな三戸さんだが、明らかに殺気立っている。
「ち、ちがっ……! ちゃんと断ったんです。でも、先輩たちは脅してきて……地元に居ると危険だと思ったので、今日はこの遊園地まで遠出して避難してたんだです。けど、どうやら尾行されていたみたいで……」
「え、原因、俺⁉」
怖い先輩を宥めるために送った、俺の写真だったが、まさかの逆効果を発揮していただなんて……。
にしても、昨日の今日で、誘拐を企てるみたいな大それたことを考えるもんなのか? 判断が早すぎるぞ。
「なるほど。庶民女にこちらの要求を呑ませるために、妹のエロガキを誘拐しようとしたって訳ね。従順な後輩から小出しにするより、完全に操り人形にしてでもトモ君を直接得るための手段を選んだか」
「橘っちにはそれだけの価値があるからね。そこは分かる」
──ええ……。なんでそこは分かるの⁉
得心顔で輝夜と三戸さんが頷いてるけど、全然分からんのだが。
「バカなりに考えた作戦だったんだろうけど、当のトモ君に阻止されるなんて想定してなかったんでしょうね。流石はトモ君♡ カッキョイイ♡ 流石は私の未来の旦那様♡」
「そんなくっつくな輝夜」
折角、四葉ちゃんの誘拐を阻止したんだから、メデタシめでたしで終わりたいんだから。
最近は、輝夜の身体接触が激しくて、その度に殺気が周囲で飛び交うんだから。
あと、何故か晴飛もヤキモチを妬いて……。
「って、あれ? そういや晴飛は?」
「あら? そう言えば……」
「さっきまで居たよね?」
四葉ちゃんたちに声を掛ける直前に、晴飛がこの一団にいたはずだ。
四葉ちゃんが目の前で誘拐されたという緊急事態で、自らその場を単独で離れるような真似はしない。
「もしかして……」
冷や汗が背中をつたうと同時に。
PiPiPiPi♪
スマホの通知音が響き、動悸を感じながらメッセージ欄を開く。
送り主は、予想通りに母さんからだった。
『観音崎晴飛様が拉致。至急、対応』
と短い文言が表示されていた。
──この短文……。マジでヤバい時の奴やん……。
緊急時想定で用意されている定型文メッセージではなく、事実だけが送られてきた母さんのメッセージに、胸がキュッ! となり、四葉ちゃんを受け止めた時よりも何倍も痛かった。
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良しなに。




