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【書籍化】貞操逆転学園で男友達が近すぎる  作者: マイヨ@貞操逆転男友達2【8/31発売】
第3章 お前……女の子だったの⁉

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第23話 もう出て来ていいよ

「ごめんなさい橘君……。服、濡らしちゃいました……」


 ようやく少し落ち着いた多々良浜さんが、俺の胸の中から離れる。

 体温の温もりが離れ、涙で濡れたシャツが、遊園地を通り過ぎていく風で少し冷える。


「大丈夫だよ。それにしても、ここはプールエリアもあるんだね」

「はい。どちらかと言うとここは、遊園地より夏季に開くプールの方が有名ですから」


「じゃあ、また夏に、クラスの皆で来ようね」

「はい」


 しばし、世間話を(くゆ)らせる。


「あ、でも……。やっぱり何でもないです」

「なに?」


「本当に何でもないです。ひどくワガママな話なので」

「女の子が泣いた後くらい、ワガママの一つや二つ、聞くくらいの甲斐性はあるつもりだけど?」


「え⁉ あ……その!」


 俺が笑いかけると、まごまごと逡巡した後に、多々良浜さんが決心したように口を開いた。


「今度は……2人で行きたいです」

「ん、オッケー。夏休みにね」


「随分と軽いですよね橘君って……。ゴリゴリ処女の私にとっては、初めてのデートのお誘いなんですけど?」


 照れ隠しなのか拗ねて見せる多々良浜さん。

 カワイイ。


「初めての相手に選んでいただいて光栄です」

「もうっ……。ああ、けど2人きりとなると私1人で橘君を護らなくてはならないですね。どうやって警護を……」


「ほらほら、学級委員モードが始まっちゃってるよ。今は、そういうのは忘れよ」

「はい。あの……今日は、もうこのまま帰ってもいいですか? その……。この泣きはらした目を、クラスの皆に見せると、心配をかけてしまうので……」


「うん。一人で帰れる?」

「大丈夫です。涙は全部、橘君が受け止めてくれましたから。それでは」


 そう言って、多々良浜さんは正面ゲートの方へ歩いて行く。

 その後姿を俺は無言で見送る。


 多々良浜さんの背中からは消え入りそうな雰囲気もなく、ホッと一安心する。


 ──さて。


 本来は泣いていた女の子を一人で帰すような非ジェントルマンな行いをしない俺だが、今回の場合は色々と理由があった。


「そろそろ出てきて良いですよ。一色会長」


 多々良浜さんの背中が見えなくなった所で、俺はベンチ横の物陰に向かって声を掛けた。


「……まいったな。いつから気付かれていたのかな?」


 バツが悪そうに、一色会長が姿を現した。


「ご家族の方はよろしかったんですか?」

「ああ。後輩の事が心配だからと抜け出してきた。お父さんを説得するのが大変だったけど」


「……ご家族、仲が良いんですね」

「そうだね。この格好も、本当は私の趣味じゃないんだけど、こういう女の子っぽい服を着てる方が、父が喜ぶからって。私には似合わないだろ?」


 そう自嘲しながら、一色会長がワンピースの裾をつまんで見せる。


「お父さんは、その家族愛のちょっとでも、貴女の妹さんに振り分ける事は出来ないものなんですか?」

「…………」


 一色会長の自虐ネタを拾わずに犬死にさせて、俺は直球を投げ込む。


「……すいません。ボクとしてはどうしても、クラスメイトの多々良浜さんの事が気になり、トゲのある言い方になってしまいました。後輩が生意気言ってすいません」


 一色会長の返事を待たずに、俺は謝罪する。


 あくまでこれは多々良浜さんや一色会長の父親の問題だ。


 その父の愛を一身に受けているからと言って、一色会長に苦言を呈するのは筋違いであり、単なる八つ当たりにしかなっていないと直ぐに気付いたからだ。


 ──泣いていた多々良浜さんの顔がよぎったから、思わず熱くなっちまった。俺もまだまだ青いな……。


「いや。妹の事を気遣ってくれて、ありがとう。君は男の子だけど、本当にこういう所に気が回るんだね」

「どうも。でも、そうやって男を褒めると、また森戸副会長に拗ねられちゃいますよ」


「……ああ。そう言えば、君と初めて話した時は1年3組男子の虎嶺くんとのケンカの事情聴取の時だったな」


 いきなり百合カップルで恋人の森戸副会長の名前を出されて、少し心拍数を跳ねさせるが、直ぐに平静を装おう事が出来るのは、流石はハニ学の生徒会長だ。


「それで、一色会長は多々良浜さんの事が心配で、後を尾けてたんですか?」

「君は、さっきから私の事をチクチクとイジメて来るな」


 苦笑いする一色会長。

 おっと、ついまた八つ当たりが出ちゃってたか。


 ──こんな風にいつになくイライラしちゃうのは、俺があの父親と同じ男だからだな……。


 あんな風に、娘を傷つけてしまう父親と、そんな態度を許容してしまう、この男女比が歪な社会。

 自分もああなってしまうのではないかという危惧が、よりあの父親に嫌悪の感情をおぼえさせるのだろう。


「私から掛けられる言葉は無いよ。そもそも、母様から多々良浜の家と関わる事は禁じられている。だから、学園でも他人の振りをしていた」


「一色会長のお母さんが、所謂、第一夫人という奴ですか?」

「ああ。母様と多々良浜の家は折り合いが悪いらしくてね。私も詳しくは知らないんだけど」


 家同士の争いか。

 そりゃ、夫を巡ってのトラブルなんて、この一夫多妻が当たり前な社会では数えきれないほどあるんだろうな。


「でも、良かった。妹の近くに、こんなにもあの子の事を思ってくれている男性が居てくれて。自分勝手なのは重々承知だが、私も少し救われた気分だ。ありがとう橘君」


「あくまで俺は多々良浜さんのために動きますからね。そこは重々承知しておいてください」


「ああ、それでいい。妹には良き伴侶が出来て、羨ましい限りだ」

「結婚は、妹の方が早いかもしれませんね。お姉さん」


「また、君はそうやって私をイジメる……。橘君は女の子に優しいと評判なのに、私にだけそうやって特別対応なのはいただけないぞ」


 ハニ学生徒会長という重責を担う凛々しい一色会長だが、こうして子供みたいに拗ねて見せる様は可愛らしく、先ほど別れ際に見せた多々良浜さんの拗ねて見せた時の顔が重なり、やっぱり姉妹なのだなと思わされる。


 多々良浜さんの姉であり、百合カップルに挟まる男は(メツ)! 派閥の俺でなければ、もっていかれてたかもね。


「肝に銘じておきます」

「じゃあ、そろそろ私は家族の方へ帰るよ。じゃあね」


 そう言って、一色会長はワンピースを翻して、遊園地の方へ戻って行った。

 その背中は、少し救われたと語っていた。


「去り際が姉妹でそっくりだな」


 ──そして、肝心の大事な部分は抱え込んだままな所とか特に。


 そう思いつつ、俺は一色会長の背中を見送り、ふぅーと息をつく。

 ったく、楽しい遊園地でとんだ修羅場に挟まれたもんだ。


 後は……。


「もう出て来ていいよ三戸さん」

「ギクーーッ! なんでバレたの⁉」


 先ほど一色会長がひょっこり顔を出した物陰から、バツが悪そうに三戸さんが顔を覗かせる。


「最初からバレてたよ。だから、先に一色会長を指名したんだから」

「えー、橘っち鋭ーい」


「ありがとね三戸さん」

「へっ?」


 唐突に俺に感謝されて、三戸さんが呆けた顔をする。


「多々良浜さんが俺と2人きりになれるようフォローしてたんでしょ?」

「えー、みな実っち、橘っちに話しちゃってたの? ほんと、真面目なんだからー」


 しょうがないなとばかりに、三戸さんがお道化て見せる。


「真面目なのは三戸さんの方でしょ。お化け屋敷の時に久留和さんの後ろに控えてたり、多々良浜さんの逃避行をサポートしたり」


「ちょ、ちょ! そういうのは私のキャラじゃないから! 私は、ギャルだけど智将参謀っぷりを発揮する頭脳キャラで……」


「友達思いだなって事だよ。そういうの、俺はちゃんと見てるから」

「あ……う……」


 褒められ慣れてないギャルの三戸さんは、顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

 うん、やっぱり友達(ダチ)のために頑張れるっていうのは良いギャルですわ。


「さて。2組のみんなや、晴飛や輝夜は怒ってるかな? どうやって切り抜けよう? 教えて名参謀」


「こういう時だけ、参謀扱いして……。いいよ、合流する前に何通りか考えよ~」


 そう苦情を言いながらも、頼られて三戸さんは嬉しそうなのが、皆の元に戻る足が少し弾んでいる所から丸わかりだった。

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良しなに。

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