第20話 ウサ公、お前、死ぬのか?
「わぁ、女優のかぐや姫だ!」
「周りに男の子が2人もいる」
「やっぱり大女優ともなると、侍らせてる男の子のレベルも高いね」
有名女優のくせに大騒ぎするもんだから、野次馬が集まって来てしまった。
っていうか、ゴールデンウィークの混んでる日に、わざわざ遊園地でドラマの撮影なんてするなよ。
「あ~、やっぱりそう見えちゃうか~♪ 仕方ないな~、ファンの皆はもう~。挙式はいつにする? トモくん♡」
「仕事中だろ。遊んでないで、はよ現場に戻れ」
「あ~ん♡ 仕事には手を抜かないプロ意識高いトモくん、カッキョイイ♡」
相変わらず人の話を聞かないなかぐや姫は。
なんか、俺に墜ちてからの方がより話が通じなくなった気がする。
「不入斗さん。1組のボクらは今日は2組の皆さんの集まりにお邪魔してる立場だから、あんまり無茶しないでね」
「はい、晴飛様。失礼いたしました」
おお!
ゴールデンウィーク開始直後にも思ってたけど、晴飛と輝夜がちゃんと対面コミュニケーションが出来ている。
出会った直後の晴飛と輝夜と言ったら、輝夜の猪突猛進に対して晴飛が引いて俺の背中に隠れるというのが日常の風景だったのに、人は変われるものなのだな~。
なんて、しみじみしていると。
「は~い、遊びに来てくれたみんな~。一か所に集まり過ぎウサよ~」
「あ、遊園地のマスコットのペーターウサ公だ」
騒ぎを聞きつけてか、さり気無く園のキャラクターが注意しに来た。
「わぁ~ウサ公だ! ぎゅ~っ」
そこは幼女な四葉ちゃんが、真っすぐにウサ公に抱きついていく。
「お~、良かったね四葉ちゃん」
「橘お兄ちゃん、写真撮って~」
「いいぞ~。ちょうど観覧車があるから、それをバックにして撮ろうか」
キャッキャとはしゃぐ幼女。
こういう無垢なかわいさって、やっぱり良いよね。
「む……。わぁ~、ウサ公だぁ~。トモく~ん、私も写真撮ってぇ♪」
「なんだ、輝夜。お前もファンなのか?」
「うん♡」
ウサ公の腕を掴んだ輝夜がニッコリスマイルをこちらに向ける。
「むむっ! 知己くん、ボクも撮って」
「晴飛もか。何か大人気だなウサ公は」
2Dイラストだとカワイイキャラなのに、着ぐるみにしたら、何考えてるのか分らない狂気の目をしていると話題になったという、どうでもいい裏話が公式ガイドブックに載っていたウサ公だが、中々どうして、ハニ学世界では人気があるじゃないか。
「んだよ。せっかく幼女の無垢なかわいさをアピールしようとしてんだから、入ってくんなや年増どもが」
「晴飛様。僭越ながら、着ぐるみに男性が抱きついてカワイさアピールするのは乙女だけです。男性が抱きつくと、着ぐるみの中の人がびっくりしてしまいます」
「不入斗さん。四葉ちゃんの前でそういう夢のないことを言っちゃダメだよ」
人気の着ぐるみと写真を撮りたいだなんて、みんな余程SNSとかに良い写真を上げたいのかな。
ウサ公との位置取りでなのか喧嘩し合っているようだ。
晴飛と輝夜は何でか分らないが、かなり打ち解けた関係になってきているようだ。
対多々良浜さんといい、晴飛はどうやら女友達として気の置けない関係を女の子と築いてから恋愛に発展するタイプなようだ。
良かった……。
俺の方で、ハニ学のシナリオを滅茶苦茶にしてしまってたと心を痛めていたが、方向性は違えど、着実に良い方向に向かっているのだな。
「ええと、ええと……。ちょっとウサ公にはやらなきゃいけない使命……っていうか脅されて……」
ウサ公のキャストさんも戸惑っている様子。
そりゃ、大女優の輝夜や、この世界では超貴重なイケメン男子の晴飛に抱き着かれたりしたら、平静では居られないよな。
──でも、あれ? ウサ公の声、どこかで聞き覚えがあるような。
「ほらほら皆さん。記念写真を撮ったら移動しますよ。ウサ公さんが困ってますから、」
そんな中、多々良浜さんだけが冷静に人を捌きつつ、こちらを窘めてくる。
たしかに往来が多い場所で人を集めすぎるのはよろしくないので、手早く撮影を済ませる。
「ウサ公さん。ちょっとこちらへ」
「ウ……ウサ……」
撮影がバラシになった間隙を縫うように、多々良浜さんがウサ公を手招きし、何故かウサ公もその指示にビクつきながら従い、多々良浜さんの言葉を拝聴するために少し着ぐるみの身体を屈める。
「想定外の邪魔が入りましたが、あなたのやる事は分かってますよね? 赤ちゃんの事を学園長にバラされたくなかったら……」
解散間際に、何事か多々良浜さんがウサ公のキャストさんに話しかけると、何故かウサ公がビクッ! と身震いさせた。
その後姿はまるで、いい加減中堅社員ポジションなのに、久しぶりに上司からガチ説教を喰らって凹んでいる社会人10年目のような哀愁が漂っていた。
「多々良浜さん、どうしたの?」
何だかその様子が気になった俺が、多々良浜さんとウサ公に近付くと。
「お、おめでとうウサー! 開園62年、累計来場者数3億7万1千人を記念して、お二人には観覧車へ特別招待しますウサー!」
突如、ウサ公が俺と多々良浜さんの手を握り、ブンブン振る。
その挙動は、どこかやけくそ気味だ。
「え、観覧車へ? っていうか、記念事業にしては随分と中途半端な周年記念と来場者数なような気が……」
「まぁまぁまぁ! ウサ公が社会的地位の死を免れるためにも、行っちゃってくださいウサ!」
何故か必死なウサ公に強引に背中を押されて、あっという間に2人は観覧車乗り場へ。
「なお、この観覧車は、お客様の乗るゴンドラが半周するまで、他の乗客は乗せないウサ。ええ……ウサ公が死守するウサ……」
着ぐるみで表情は変わらないはずなのに、まるで殿を務める武将の如き悲壮なオーラを発するウサ公。
──ウサ公、お前、死ぬのか?
っていうか、着ぐるみの中が誰なのか薄々勘付いてしまったのだが、言うべきか否か逡巡する間に、俺と多々良浜さんは観覧車のゴンドラの中に詰め込まれるのであった。
皆大好きウサ公の中身。果たして誰ちゃん先生なんだ?
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