第15話 コクコクッ
「あ~、ジェットコースター楽しかった。あの落差はエグい」
「楽しかったね橘っち~」
先発の俺と同行組のジェットコースターが終わって出口に出て、三戸さんと感想を言い合う。
この瞬間は、長々とした行列に並んだ甲斐があったという気分になり、一様にみなテンションが高い。
なお、一切行列に並んでいない我々にとっては、ワクワクからの即本番なので、余計にテンションはストップ高だ。
「そういえば、特に事前に確認してなかったけど、橘っちって絶叫系のアトラクション好きなんだね」
「ああ、こういうのは好きだぜ」
前世の俺も結構好きだったし、橘知己についてもどうやら戦闘訓練を積んでいるおかげなのか、大迫力の滑降に際しても、一切身体の強張りを覚えることは無かった。
「やっぱり変わってんね、橘っちは。って、そう言えば、つい私らもクラス全員で同じアトラクションに乗れる事が嬉しくてはしゃいでたから気づかなかったんだけどさ……」
「ん?」
「観音崎君って、こういう絶叫系のアトラクションって得意だったのかな?」
「あ……」
そういや、その点を何も確認してなかったな。
でも、晴飛は小柄だから、この手の絶叫系アトラクションで受けるGは相対的に弱いから得意な事が期待されて……。
そうこうしている内に、後発組が終わって出口から出て来た。
「や、やぁ知己くん。次に行こうか……」
「ちょ……大丈夫か晴飛? 足元フラフラじゃないか」
後発組の先頭を歩いてきた晴飛の足元はおぼついていなかった。
「だ、大丈夫だよ……。ただの男の子の日なだけだから」
え、男の子の日ってそんな、顔色が悪くなって足元ふらつくもんなの?
じゃあ、遊園地で遊んでる場合ではないのでは⁉
「おい晴飛。次も絶叫系アトラクションの予定になってるけど、行くアトラクションは変えた方が」
「だ、大丈夫だよ。ボクが一緒に乗らないと、2組の子たちが全員は乗れないでしょ?」
「いや、だけど……」
「2組の女の子たちには、今日のボクの飛び入り参加を認めてもらったんだから、これくらいは貢献しないと」
そう言って晴飛は、フンッ! と気合いを入れて、次のアトラクションへ歩き出す。
う~ん……。
大丈夫かこれ?
晴飛を護るべき裏ミッションを持つ俺としては、ここは無理をさせない方がと思っていると。
「わぁ! 久留和の姉御ぉ! 大丈夫ですかぁ⁉」
「白目剥いてるけど大丈夫なの、これ⁉」
「姉御がこのクラスで一番タッパがデカいから、ジェットコースターのGに耐えられなかったんだ!」
晴飛とは比較にならない程、絶叫系アトラクションが苦手だった様子の久留和さんが半死半生で出口から出て来たので、その場はつい、なぁなぁになってしまうのであった。
◇◇◇◆◇◇◇
「大丈夫か晴飛? ほれ、飲み物」
「う、うん。ありがと知己くん」
3個目のアトラクションが終わりベンチに腰掛ける晴飛の隣に座りペットボトルのスポーツドリンクを渡すと、晴飛はゴクゴクと一気に三分の一くらいの量を飲んだ。
まだ5月になったばかりだが、今日は結構気温が高い。
「俺の方が先発だから後発組の悲鳴がよく聴こえた」
「ボ、ボクは悲鳴なんて上げてないよ!」
「ああ。大概は久留和さんの悲鳴だったな」
デッカイ身体に似合わず、『キャ~~ッ!』って可愛い悲鳴を上げるんだよな久留和さん。
そしてデッカイ身体に似つかわしいデッカイ声量で、ジェットコースター付近を通りがかった他の来園者の耳目を独り占めしていた。
晴飛の事だから、必死に我慢してたんだろうな。
うん、全然大丈夫じゃなさそうだなというのが、晴飛の青い顔で強がっている様子から伝わって来る。
やはり、ここらで方針転換が必要だろう。
「多々良浜さん、次のアトラクションなんだけど」
「コースター系はこれで一段落ですね。ここからフリーフォールにスプラッシュ水浸し系のジャンルに入っていきます。私たち女子の勇猛さを見ていてください」
「ゆ……勇猛?」
なんだ、その遊園地デートに似つかわしくない猛々しいワードは……。
「男の子との遊園地デートでは、女子はとにかく男の子をリードして、カッコいい所を見せつけなきゃいけなきゃいけないんだよ橘っち。ちゃんと有名な恋愛指南書に書いてあるし」
「ええ……」
どこの誰だよ、そんな適当な事を書いてるエセ恋愛マスターは⁉
ペンネームを明かしていない自称プロ作家がSNSで語る創作論並に怪しいな。
いや、友達カップルで、彼氏彼女ともに絶叫系が好きで意気投合するという感じならアリだが、こちとらそういう所を女の子との遊園地デートには求めていないのだ。
「正直言って、そういうのは女の子に求めてないな。な? 晴飛」
「う、うん。そうだね」
「「「え! そうなの⁉」」」」
今日はちょうどいい事に、俺以外の男子の、それも学年筆頭男子である晴飛も居るのだ。
この機会に、正しい男性論をいたいけな女子たちに講義するのも悪くない。
「そもそも俺たち男は、女の子と遊園地デートする時に求めるのは可愛さだ」
(コクコクッ)
隣で晴飛が無言で頷き援護射撃をしてくれる。
「普段の学校の制服ではない可愛らしい私服。『今回のデートのために必死に選んでくれたのかな?』という所に男はキュンとします」
(コクコクッ)
「遊園地のキャラの着ぐるみにはしゃいだり、つい童心に帰って風船やぬいぐるみをお土産に欲しがるのも良いですね」
(コクコクコクッ!)
晴飛の頷きに勢いが出て来た。
これは良い講義ができている証拠だ。
よし、この調子で。
「デートでは寧ろ、コーヒーカップや観覧車など、ゆったりと時が流れるようなアトラクションが良いでしょう。たくさんの人が遊んでいる遊園地で、2人だけの時間は、きっと特別な思い出となるでしょう」
「うん、いい……ボクも知己くんと……」
とうとう頷きだけでなく、言葉に出して同意を示す晴飛。
だが、俺と一緒にコーヒーカップや観覧車に乗ってどうする……。
そこは、女の子とのデートで想像しろよと後で晴飛には個別に説教だな。
「え……。女は絶叫系アトラクションでカッコいい所見せて包容力を見せた方が良いんじゃないの?」
「コーヒーカップって女友達と一緒に限界まで回して遠心力で吹っ飛びそうになってゲラゲラ笑うアトラクションだと思ってた」
「しかし、橘君の言ってた遊園地デートプランって、かつて人間界が男女比1:1だった神話時代の話では?」
「古事記に載ってたよね。その時代の男女比1:1物ジャンルの同人誌はたしなんでおりました」
「それにしても、橘君ってああ見えて男女観が古風だよね」
「幼少期の教育が影響してるのかな?」
「気さくな性格なのに育ちが良い箱入り息子って、あらためて最高過ぎんか?」
この男女比1:99の世界では斬新に映る俺の講義内容に、2組の女子たちは戸惑っている様子。
ここまでは俺の前世的感覚を一方的に話しただけだった。
いくぜ、ピリオドへの向こう側へ!
「その上で、絶叫系アトラクションもやはり良い。普段強気な女の子が可愛く悲鳴を上げて抱き着いて来るのはやはり良い」
だが、男女比1:99の世界を生きる者として、きちんと目の前の現実も尊重する必要がある。
斬新さをアピールしつつも、現実との調和を果たして新たな価値を生み出す。
「抱き着いてきた際に香る女の子の良い匂い。身体接触により感じるたわわな胸のふくらみ。思わず抱き着いてしまった羞恥で赤らめる頬。『あ……ゴメ……ン……』と離れて感じる名残おしさ。リフレインされる、大きなたわわが触れていた感触。これこそが至高!」
これこそが有意義なプレゼンである。
あとは、ここでダメ押しだ。
「晴飛も、そう思うよな?」
ここまで優秀な援護射撃を放ってきた相棒だ。
俺の持論に対して完璧な追撃をして。
「イタタタッ! なんで頬をつねってくるんだ晴飛⁉」
「そういうエッチぃのはダメ! あと、女の子は胸の大きさだけが魅力の全てじゃないから」
まさかの相棒の離反に狼狽える俺
でも、晴飛の発言内容は最もだ。
たわわな果実も、慎ましくつけた実も、等しく果実。
スイカとイチゴに優劣なんてつけられない。
全方位に配慮が行き届いているとは、流石は1学年筆頭男子である。
だが、一つ解せない所がある。
──なんで、晴飛は自分の胸のあたりを手で隠しながら、力説してるんだ?
そこだけは、本当に分からなかった。
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