第13話 とんでもない化物が目を覚ました
「ゴメンみんな! 遅れた!」
ゴールデンウイーク2日目。
待ち合わせ場所に到着すると、すでに2組の女子達は全員集合していた。
「わぁ。みんな可愛い私服だね」
恐らくは皆、一張羅を纏い、髪型のセットにも気合いを入れ、足元にカバンも含めてトータルで気合いを入れたであろうという気迫が、女性のファッションの事には大して明るくない俺にすら伝わって来る。
「お褒めいただきありがとうございます」
「実は、前日に2組のみんなでファッションチェックしたんだよ。久留和っちはスカジャンしか持ってなかったから、みんなでトータルコーデしたんだよ~」
「お、おい三戸! それは言わない約束だろ!」
慌てて三戸さんの口を塞ぎにかかる久留和さんの事を、周りの皆が微笑ましく見守っている。
このクラスは、本当に仲が良いな。
「ほら、久留和さん。そんな始まる前から、はしゃがないの」
「ふぇ⁉ 橘君……。見ないで……この格好は、普段の私じゃないみたいで……」
そう言って、大きな身体を縮ませる久留和さん。
紫紺に黒い刺繍で白い襟がアクセントのワンピースを着ている久留和さんは、ハニ学の制服のスカートよりも短い丈で落ち着かないのか、スカート部分の裾を押さえて恥ずかしがっている。
「なんだかダークエルフのお姫様みたいで可愛いよ」
「お姫様……きゅ~~」
「久留和の姉御ぉぉおお! しっかりぃぃいいい!」
そして、相も変わらず男の子にはヨワヨワな久留和さんである。
ちょっとヒールがあるパンプスだから、いつもより高い位置からぶっ倒れた久留和さんだが、周りの皆も支える際の筋力を鍛えていて備えを怠っていない様子。
「あら、橘君? そちらの方は?」
ノースリーブセーターに薄手のカーディガンを羽織るお姉さんスタイルな多々良浜さんが、俺の後ろに隠れた人影に気付く。
「あ~、それはだな……。先に謝っとく、みんなゴメン! ちょっと一人、クラスメイトじゃないんだけど一緒にいいかな?」
「は、はぁ……って、え⁉」
「どうも2組の女子の皆さん」
ちょっとバツが悪そうに自己紹介する晴飛。
その私服姿はというと。
「うぉ……オーバーサイズのシャツに、これまたサイズの合わない大き目ハーフパンツのウエストを絞って、サスペンダーで吊り下げる、お兄さんから服をおさがりしてもらいましたスタイル!」
「そして、変装のためのキャスケット帽子で靴はローファー」
「これは、ショタっ子が最も輝く、名探偵の助手スタイル!」
何も着替えを持ってきていなかった晴飛に、急遽家にある中で工夫して着れる服を着せたのだが、どうやら女性陣にドストライクなファッションコーデが出来たようだが。
「これ絶対、知己くんの服着てるよね……」
「お泊まり匂わせとかキッく~~!」
「もしかして、マーキングなのか……」
「これは垂涎もの……。涎が止まらず、たまった涎はいずれ女の川となる……」
「水の無い所でこのレベルの水遁の術を! 信じられん‼」
何やら、晴飛の格好から、色々とバックグラウンドを想像する子も居るようである。
「という訳で1組男子の晴飛くんです。ゴールデンウィークで遊べるのが今日しかないらしくてな……」
「ごめんね2組の皆さん。クラスの集まりにお邪魔しちゃって」
ペコリと頭を下げる晴飛。
「そ、そんな……。観音崎君、頭を上げてください」
「1組の男子がそんな」
「これ、1組の女子どもに見られたらマズくない?」
「大丈夫です! ご一緒できるなんで望外の喜びです!」
ハニ学一学年の筆頭男子である晴飛に頭を下げられてしまえば、男女比1:99の世界で男子最優先の教育を受けて来た女子たちは、慌てふためくばかりで、異を唱えるなんて不可能だ。
「ありがとう、お邪魔します。今日一日よろしくね」
「ぐっは! ショタっ子イケメンのはじける笑顔だ!」
「これが1組男子の力……」
「これは効くぅ~」
「橘君で耐性できてなかったら、意識を刈り取られている所だった」
ダメ押しするかのように、晴飛がニッコリと皆に微笑みかけると、2組の女子たちもすっかり篭絡してしまった様子。
ニッコリ笑ってお礼するだけで女の子を墜とせるんだから、ほんとイケメンはズルい。
──それにしても、良かった。晴飛の機嫌が直って。
今朝の晴飛は、突如として怒りや悲しみを超越した無の状態に陥っていたからな。
流石にそんな状態の晴飛を、これからクラスの女子たちとデートだからと言って、家から放り出すことは出来なかった。
まぁ、叱咤したり激励したりしても何も響かなかったのに、『晴飛も遊園地行くか?』と聞いたら、『行く~♪』と一気に機嫌が良くなったのだが。
で、急いで家にある服で、何とか晴飛が着れる物をと見繕ったのだ。
「じゃあ早速、遊園地に行きますか」
「うん」
そう言うと、当たり前のように晴飛は俺の腕に自分の腕を絡める。
「「「「へっ?」」」」
晴飛の行動に、俺含めた一同は呆けた声をだしてしまう。
「あの……晴飛? 今日は別に女の子の格好してる訳じゃないから、そんな俺にくっつかなくても、いいんだぞー?」
「ん~? でも、知己くんは、ちゃんと見てないと直ぐに迷子になっちゃうから。ちゃんとこうやって捕まえておかないとね」
そう言って晴飛は抱え込んでいる手に力を一層込めた。
どうやら、離す気は無いらしい。
「何でしょう、この感情は……」
「本来は、橘っちと観音崎っちが仲睦まじいシーンを特等席で眺めていられる幸せな瞬間のはずなのに……」
「何やら、とんでもない化物が目を覚ましたような、そんな悪い予感がする……」
晴飛の行いに対し、何か不穏な物を感じている2組女子と俺だったが、この時の俺たちはそれが何なのか、うまく言語化出来ないのであった。
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