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女神教と悪魔教ー3

  ――クローディア王国、王都アシュレイ、大聖堂

「おい、これはどういうことだ」

 御琴から許可が取れたと連絡を受けたシュヴェリアは、パーティーの面々とともに指定された場所に集まった。しかし、そこにいたのは御琴ではなく、『女神教』の司祭。彼に案内され、やってきた、『女神教』本拠地の大聖堂。そこで御琴の姿を見つけ、放ったシュヴェリアの一言目がこれだった。

「あ、いや、申し訳ない。何故か、妙な方向に話が進んでしまったようで……」

 宿屋でのびくびくした感じも、ギスギスした感じも消えて、元通りに戻った御琴。頭を書きながら、目線を泳がせる。

「妙な方向とはどういうことですか?」

 シルビアが尋ねると申し訳なさそうに話始める。

「いや、アシュレイ王の所に行って、経緯を説明して、許可証を発行してもらったのだが……」

「ふむふむ」

「その際に『女神教』の大司祭殿にばったり会ってしまい――」

「それでそれで~」

「“そういうことなら、是非、大聖堂に寄ってください、女神教を上げで見送らせていただきます”と言われてしまいまして~」

「断ってくださいよ!!」

 かわるがわる合いの手を入れる女性陣、最後を締めたのはメルの叫びだった。

「正直、本当に杖を持って帰られるかどうかは解らないんだ。あまり盛大にやられても困るよ」

 カルナが真っ当な意見をぶつける。その通りだ、こっそり行って、こっそり帰って来ようと思っていたのにそんなことをされては嫌でも何か成果を出さねばならなくなってしまう。

「ふふ、そんなに肩肘を張らなくても大丈夫ですよ」

 大聖堂の奥から、司祭服を纏った女性が歩いてくる。若く見えるが、その声は落ち着いている。年齢不詳の美女だ。

「あ、皆、紹介しよう、『女神教』の大司祭、オリビア殿だ」

 慌てて紹介する御琴、オリビアが頭を下げ、他の面々も会釈する。

「大司祭ということはこの方が、『女神教』で一番偉い方なんですか~?」

 ステラの疑問に頷く御琴。

「うむ、この方こそ『女神教』を率いている存在だぞ。こう見えて、なんと御年――」

 瞬間、御琴の背後に冷たく、とげとげしい殺意のようなものが湧き上がる。

「御琴ちゃん、女性の年齢はトップシークレットだって言ったでしょう?」

「ひぃぃぃ!! しゅ、しゅみましぇん!」

 いつの間にか御琴の背後をとっていたオリビアに極端に委縮する御琴。笑顔が怖かった。

「まったく、巴にも困ったものね、後進に余計なことまで吹き込んで――」

 そういうオリビアの後ろで、御琴がカタカタ震えていた。なんとなく、この2人の関係性が見て取れた。

「それはそうと、黒き英雄の一団ですねお会いできてうれしいです」

 震える御琴を放っておいて、シュヴェリアの方に向かってくるオリビア。手を差し出される。握手を求めているようだった。

「黒き英雄ではなく、シュヴェリアだ。今後はそう呼んでもらえるとありがたい」

 いいながら、手を握るシュヴェリア。瞬間、何かを悟った様にオリビアが眉を動かす。

「なるほど、噂は嘘ではないようですね。相当に腕が立たれるようです」

 ハッとして手を離すシュヴェリア。そのまま剣に手をかける。周りの教会騎士が一斉に剣を抜いた。

「おやめなさい!!」

 オリビアの一言で、教会騎士が剣を鞘に戻す。あまりの事態に右往左往するクレハ達。

「失礼しました。ずいぶん慎重なお方なのですね。もう少し、考えて行動すべきでした」

 謝罪するオリビア。シュヴェリアも剣から手を離す。

「こちらこそ失礼した。まさか、手を握られただけで相手の技量を図れるとは思わなかった」

「ふふ、私の特性の1つです。詳しくはいえませんがおおよそ予想されている通りですよ」

 オリビアは含みのある笑いでそういった。

「特性の1つ、ということは複数あるのかな、君の特性は?」

 カルナがいうと不敵に笑うオリビア。

「珍しい話ではないでしょう? まあ、賢者様ならそんなこととっくにご存じかもしれませんが」

(カルナが賢者だと知っている? カルナと知り合いなのか?)

 シュヴェリアは疑問を浮かべた。まあ、良好な関係ではなさそうなので、あえて触れないほうがいいのだろう。

 仲間たちの様子を見るシュヴェリア。なんだか、オリビアに圧倒されてしまっているように感じる。

(これはよくない、彼女のペースだ)

「――ゴホン」

 シュヴェリアはあえて聞こえるように咳ばらいをすると話を切り出した。

「このように出迎えてくれるのはありがたいが、残念ながら我々はあてがあってミルタビアに行くわけではない。聖環の杖を持ち帰れるかは解らない。このようなことをされても困るのだが……」

 いうと、口元に手を当てて笑うオリビア。

「ふふ、大丈夫ですよ。あなた方を見送りたいなんて、ただのこじつけですもの」

「こじつけ?」

 シュヴェリアが尋ねると、にこやかに微笑むオリビア。

「はい、別にただ皆さんを見送りたいと思ったわけではありません。皆さんに会ってみたかったのです。数々の修羅場をくぐってきた皆さんがいかほどの者か知りたかったといった方がしっくりきますか?」

 気品がありながらどこか親しみやすい口調で話すオリビア。聖母という言葉がよく似合う。

「……そうか。で、会ってみてどうだった?」

 表情を崩すことなく尋ねるシュヴェリア。「そうですねぇ」オリビアは少し迷いながら答える。

「英雄御一行というにふさわしい方々だと思いました」

 オリビアの言葉に眉をひそめるシュヴェリア。その様子にオリビアは「気に入りませんでしたか」と苦い笑いを浮かべる。

「私は英雄などという、大したものではないさ」

 オリビアに背を向け距離をとるシュヴェリア。

「あらあら、機嫌を損ねてしまいましたかね」

 その様子にオリビアは困った様な声を上げた。

「大司祭、どうされましたか?」

 そんなやり取りをしていると、1人の少女が大聖堂の奥からやってきた。

 ドレスのような、御琴とはまた違う巫女服を纏った少女。

「あら、リディア」

 オリビアは少女の名前を呼ぶと、こっちに来るよう手招きする。

「紹介します、『女神教』の巫女リディアです」

 リディアはシュヴェリアたちの目の前まで来るとスカートの端を持ち上げ挨拶する。

「巫女リディアです。大司祭、こちらの方は?」

「ふふ、あなたの大好きな、黒き英雄様ですよ」

 と、シュヴェリアのことを紹介する。

「え!? では、この方がシュヴェリア様ですか? あ、初めまして、リディアと申します。お噂はかねがね伺っております」

 いいながら両手で、シュヴェリアの手をとるリディア。

「「ちょ!!」」

 クレハとステラが反射的に声を上げた。

「ふふ、この娘、シュヴェリア殿の大ファンなんですよ」

「だ、大司祭、やめてください」

 照れたように怒るリディア。いいながらもシュヴェリアの手を離さない。

 クレハとステラがじっとりとした目で見つめてくる。

(待て待て、悪いのは私ではないだろう!)

 このままにしておくと後で、いらぬ問題を起こしそうだ。シュヴェリアは断りを入れ、リディアに手を離させる。

「すみません、私ったら、興奮してしまって――」

 リディアが手をつかんでいた理由を話す。「ああ、いや、大丈夫だ」いいながら、クレハ達の方を見る2人そろってそっぽを向かれてしまう。――あまり大丈夫ではなさそうだ。

「ですが何故、シュヴェリア様たちがここに?」

 リディアが問うと、

「これからミルタビアに向かうので、その挨拶だ」

 御琴が答えた。「ミルタビアに行くんですか!!」驚くリディア。

 やはり御琴が話していた通り、『女神教』いや、クローディアの人間からすると、ミルタビアに向かうというのは大事のようだ。

「まさか、聖環の杖を取り戻しに――」

「一応、そのつもりだ」

 シュヴェリアがいうと、申し訳なさそうにうつむくリディア。

「すみません、私たちの管理が至らないばかりにご迷惑をおかけしてしまって」

 うつむくリディアを慰めるように両肩に手を置くオリビア。

「そうですね、その謝罪もしなければいけないと思っていました」

 オリビアはそういうと、リディアと並びたち、頭を下げる。

「この度は私共の不手際のせいで手間をかけさせてしまい申し訳ありません」

 ざわつく大聖堂。これはこれでまずい気がした。

「気にすることはない、逃がしてしまったのは私たちにも責任があるからな」

 後方にいるシルビアと目を合わせ、頷きあう。

「そうだ、それがしたちが、しっかり取り戻してくるから心配するな!」

「いや、取り戻す以前に、そこに本当にあるのかも定かじゃないんだから安請け合いしないほうがいいと思いますが」

 勝手に締めくくろうとする御琴に、注意を促す様にいうメル。実際その通り、軽はずみな事はいうな、と非難の的になった。

「では、そろそろ我々は行く」

「はい、お気をつけて」

 シュヴェリアの言葉に礼を返すオリビア。

「御琴、気をつけて。杖よりも皆さんの無事な帰還を願っています」

 リディアの言葉と、大聖堂中の礼を受けてシュヴェリアたちは大聖堂を後にした。

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