女神教と悪魔教ー4
「巫女様、『女神教』の巫女様とは仲がよろしいんですか?」
大聖堂を出ると、シルビアが尋ねた。
「うむ、『八雲』と『女神教』は協力関係にあるからな。そのおかげで、巫女同士、仲良くやらせてもらっている」
「そうですか」どこか含みのある返しをするシルビア。
「どうかしたんですか?」
メルが疑問に思い尋ねる。
「いえ、以前の『八雲』は独自の思想とその独立性から、他の組織と親しくするような組織ではなかったと記憶していたので、少し違和感を持っただけです」
「昔はそうだったようだな。しかし、オリビア殿が大司際になってからは『女神教』との関係性が変わり仲良くなったようだぞ」
「他の組織の考え方にまで影響するとは相当やり手だねあの大司祭」
どこか他人事のように会話に参加しているカルナだが本当のところはどうなのだろう。疑問に思っていると、御琴が何やら考え込んでいた。
「どうした?」
「いや、大したことではないのだが、オリビア殿が大司祭になったのはずいぶん前の事だ。そ
れなのにそんな昔の『八雲』のことを知っているって、シルビア殿は一体いくつ――」
再び、御琴の背後にとげとげしい殺意が渦巻く。
「巫女様、先ほど、教わったばかりでしょう? 女性の年齢はトップシークレットなんですよ」
「ひぃぃ、も、もうしわけありましぇん」
殺意のこもった笑顔に、またしても悲鳴を上げて怯える御琴。先ほど見た光景に、うちにもいたなぁ……、とシュヴェリアは息をつく。
「どうしたんですか? シュヴェリアさん『女神教』の話なんかして~ 今度は『女神教』に鞍替えするんですか~」
「かわいかったですもんね、リディアさん!」
こっちはこっちで笑顔が怖い2人組がそんな風に声をかけてきた。見てはいないが絶対にそうなので、あえて目線を彼方に向けている。
(私がやったわけではないだろう? 理不尽ではないか?)
いってもしょうがないが、いわなければやっていられない。――本当に発言すると倍返しを食らいそうなので胸の内にとどめておく。
かくして、シュヴェリアたちはアシュレイを旅立つこととなった。
アシュレイを出て数日後、シュヴェリアはいつものように御琴に訓練をつけていた。
シュヴェリアが『悪魔教』を押している事は気にしている様だが、それはそれ、学べるものは学ぼうということらしい。少しの間にずいぶん変わったものだ、出会った当初であれば、「そんな者の手ほどきなど受けられるか!」と突っぱねられていただろう――
まあ、目まぐるしく状況が動いた時期だ、適応しなければやっていけないというのもあるのだろうが。
岩場に腰かけ周りを見てみる、カルナとメルはテントの設営。ステラはクレハに魔力を使った戦い方を教えているようだった。――重要な案件ではある。狙撃手が機能するかしないかで戦況は大きく変わって来るからだ。
残念ながら、クレハが銃以外の武器をまるで使えないせいで訓練はなかなか進んでいないようだが――
シルビアは――
「賢者さん、お水汲んで来ましたよ」
水汲みをやっていた。うむ、解る、女性に力仕事させるなよ、というのだろう? ちゃんと説明するから少し待て。
当初の予定ではシュヴェリアが訓練がてら御琴を携え水汲みに行く予定だった。だが、シルビアが「私なら水だけ大量に運んで来れますよ」と言い出したのだ。方法はというと盾を扱っているときと同じだ、盾を魔法でコントロールするのと同じように、水だけをコントロールし、大量に移動させる事ができるのだ。この辺の魔獣はそれほど強くないため、シルビアなら1人で何の問題もない。本人が水浴びもしたいというので、いってもらったわけだ。
どうだ? これなら問題ないだろう?
「なんか、こういう生き物見たいですね」
メルがシルビアの運んできた水をみてそんなことをつぶやいた。確かにうねうねしていてこういう生き物だといわれれば信じてしまいそうだ。
「水は運ぶと揺れてしまうのでこうなってしまうのです。動かないようにも出来ますが疲れるので」
なるほど、それにしても大量の水だ。人間の身体でこれだけ運ばされたなら、いったい何往復しなければならないのだろうか――いや、持ってきすぎではないか?
「ありがたいけど、こんなにはいらないかな」
シュヴェリアがいう前に、カルナがいった。
「いえ、そんな事はないと思いますよ――皆さん、シャワーを浴びたくないですか?」
シルビアがいうと、女性陣が目を輝かせた。
「いいんですか!?」
「はい、そう思って多めに持ってきました。さすがに1人1人は無理なので、皆さんまとまってですが――」
「僕は遠慮しておくよ」
「私も大丈夫だ」
シルビアの視線に返すように答えるカルナとシュヴェリア。
「え、えっと……」
私も行きたいとばかりにこっちを見てくる汗まみれの御琴。
「今日は終わりだ、行ってこい」とばかりに手を軽く上げるシュヴェリア。御琴は「やった」と小さくいうと、シルビアのもとにかけていく。
「では、女性陣の皆さまはこちらにどうぞ。――覗いちゃだめですよ」
シュヴェリアの方を見てそんなことを言うシルビア。覗くか! 心の中でそういうと、シュヴェリアはカルナを手伝うべくテント設営にとりかかった。
遠くの岩場から、女性陣のキャイキャイいう声が聞こえてくる。非常に楽しそうで何よりだ。
ふと目の前の賢者に視線を送る。一切興味がなさそうにキャンプの準備を進めている。こういうシチュエーションは男なら多少食指が動きそうなものだが……
(あっちも賢者何のか? 賢者だけに)
くだらないことを考えたと自省するシュヴェリア。
(男ではないのか? ならば、何故シルビアの誘いを断った? 性別がばれたくないため? う~ん、弱いか……)
もともとは動く食指を抑えるために、気を紛らわす目的で考え始めた事だったのだが、だんだん本気で気になってきた。
(かといって、聞いても答えないだろうしな……)
賢者といえど、元は人間、必ず、男か女のどちらかなのだ。どちらかはっきりさせたい、という思いがだんだん強くなってきた。
(かくなる上は強引に――だめだ、50パーセントの確率でシュヴェリアは終わる。さすがにそんな終わり方は許容出来ん!)
うんうん、悩んでいると、女性陣が戻ってきた。気持ちよかったとか、さっぱりしたとか、思い思いのことを言っている。
「どうしたんですかシュヴェリアさん」
ふと、猛烈に悩んでるシュヴェリアを見て、クレハが声をかけた。
「あ~、もしかして嫌らしい想像でもしてたんですか~」
ご機嫌なステラがそんなことをいう。
「…………そっちの方が幾分かましだったな」
「「はい?」」
顔を見合わせるクレハとステラ。メルが彼方を見ながら「この人、また失礼なことを言ったな」と頭を拭きながら考えていた。




