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異教徒ー5

「…………逃がしたか」

「そのようですね」

 魔術とスキルによる煙が晴れ、誰もいない街路があらわになった。

「まさか、私とシュヴェリアさんの包囲からも逃げられるとは――」

「ああ、想像以上の手練れのようだな」

 シュヴェリアの言葉に返事を返さないシルビア。彼女の方を向いてみると、片目を閉じて。

「そうですね、シュヴェリアさんが手を抜いていなければ」

 と悪戯っぽくいう。顔を引きつらせるシュヴェリア。

「手など抜いてはいないぞ、考え方はどうあれ、捕まえると決めた以上はそれに従う!!」

 内心を見抜かれたようで焦ってしまった。だが、実際手を抜いていないのは事実、あのブリッドという人物は相当な手練れのようだ。

(それはそうと……)

 シュヴェリアは周囲を確認する。当然、杖は落ちていない。

(杖は奪われたか。私的にはよかったが、この国としては大事だな)

 シルビアを見ると浮かない顔をしていた。

「ここにいても始まらない。ひとまず報告に戻ろう」

「そうですね」

 シュヴェリアはシルビアと共に宿へと戻った。




 宿へと戻ると先ほど助けた兵士が状況を聞きに立ち寄っていた。

 事の経緯いきさつを話したシュヴェリアたち。敵の名前がわかったのはよかったが、肝心の杖が盗まれてしまったことは問題だ。案の定、大騒ぎとなることになる。兵士や教会の騎士だけでなくギルドにも依頼が出され一般冒険者も杖の捜索に乗り出すことになる。

 「『聖環の杖』を盗み出した異教徒ブリッドを探せ」

 そんな見出しの新聞が何日も出回るくらいにアシュレイは大騒ぎとなる。

「まあ、どこにいるのかは大体皆わかっているんですけどねぇ……」

 紅茶の入ったカップを口から離すと方杖をついたシルビアが溜息交じりに言う。

「え?」

 クレハの声に合わせるようにその場にいた6人全員が振り返る。ここはアシュレイの宿屋、女性陣が泊っている大部屋だ。今後の方針を決めるためパーティーメンバー全員がこの場に集まっていた。その中で、ブリッドの話題が出て、シルビアのつぶやきにつながる。

「え、わかっているって何がですか~?」

「いや、ブリッドって人の居場所でしょう」

 別にとぼけたわけでもないステラがそんなことをいうと、メルが突っ込むようにいった。

「わかって……わかっているなら何故その場所が明らかにされんのだ?」

 御琴がシュヴェリアの視線におびえながら意見を上げた。殴られたのがよほど堪えたのか、あれ以来御琴はシュヴェリアを見るだけで言葉を詰まらせている。――出会った頃以上に怯えられている。

「簡単です。アシュレイ内では簡単に名前を上げられない国にいるからです」

「それはどういう……」

 クレハが尋ねると、シルビアは周囲を確認し、窓を閉じた。

「皆さん、サルフェースが複数の国で出来た国家の集合体ということはご存じですね?」

「はい」

「それはもちろん~」

 クレハとステラの声にうなづくように全員が目線を送る。

「では、サルフェース内の国家間のいがみ合いについてはどうです?」

「え、中悪いんですか~?」

「連合を築くぐらいだから仲いいのかと思ってました」

 いい反応をするクレハとステラに満足そうに話し出すシルビア。

「おおよそはそうですが、すべてではありません。残念ながら仲が悪くて戦争一歩手前の冷戦状態の国もあるのです」

「戦争とは穏やかではないな」

「はい、ですが残念ながら事実です。さてここまで話せば、賢者殿や、巫女様はわかるのではないですか?」

 カルナと御琴に視線を送るシルビア。

「ミルタビアか」

「ミルタビアだね」

 御琴とカルナが声をそろえていう。

 「よくできました」といわんばかりに笑みを浮かべるシルビア。

「なるほど、確かにあそこなら『女神教』もそう簡単に手出し出来ないね」

「だが、そうなると、あの噂も真実味を帯びてくるが……」

「あの噂?」

 シュヴェリアが尋ねると、御琴は身体をびくつかせる。毎回これではさすがにストレスがたまる、いい加減慣れてほしい。

「あ、いや、その、ミ、ミルタビアには『悪魔教』の本拠地があるという噂が――が」

 シュヴェリアに怯えながらもなんとか言い切った御琴。「よくできました」とその頭をクレハが撫でていた。

「ミルタビアはサルフェースに所属していますが、ルーフェス王国意外とは仲が悪く、特にクローディア王国とは犬猿野中です。おまけにクローディア王国が『女神教』の本拠地となってからは『悪魔教』に力を貸すようになり、より溝が深まりました」

「なんで『悪魔教』に力を貸したりなんか……」

 クレハが少し声のトーンを落として、言った。シュヴェリアのことを気にしている様だった。

「さあ、国の中枢に『悪魔教』の信者がいたとか国力増強のためとか、クローディア王国に対する嫌がらせだとか、いろいろ推測はあります。『悪魔教』はミルタビアが布教を始めた、ミルタビアが開祖だなんていうのまで」

「本当なんですか~」

「あくまで噂だよ、信じちゃだめだよ」

 シルビアの言葉を鵜呑みにしようとするステラを注意するカルナ。

 カルナの言葉でステラは平静を取り戻した様だった。

「あの~」

 いつになく申し訳なさそうに手を上げるメル。

「ずっと、気になっていたんですけど、『女神教』とか『悪魔教』ってなに?」

「!!」

「!?」

 声なき驚きが周囲に響く。まさかわからないものがいたとは予想外だったようだ。

「…………」

「すみません、なかなか知らないって言い出せなくて……」

 申し訳なさそうに頭を下げるメル。

「いえ、すみません、こちらこそ気をつけるべきでした。しっかりされているので勘違いしがちですが、年齢を考えれば知らなくて当然です」

 シルビアが笑顔でそういい、軽く会釈した。

「そっか、そうだよね~」

「メルちゃんだもんね」

「子供らしいところがあって、それがし安心したぞ」

 一旦は驚愕したものの相手がメルだったことでその驚きは一過性のものとなった。

(よし、よくやったぞ、メル!!)

 この中でもう一人、知らなかったシュヴェリアは心の中でガッツポーズを決める。いつかは聞かねばならないと思っていたが、聞かなくて正解だった。

 後でたらふく食わせてやろう、そうしよう。一人満面の笑みでメルを見つめていた。

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