異教徒ー4
「さて、目的は見えましたね」
シルビアの声に頷くシュヴェリア。
「ああ、強敵のようだが――」
「私とシュヴェリアさんなら敵ではないでしょう?」
自信満々のシルビアの笑みを頼もしく感じるシュヴェリア。短い付き合いで、その実力から誰より警戒しているが、何故かその笑みは信頼できてしまう。不思議なものだ。
(しかし、『聖環の杖』か、どうしたものか……)
前を行くシルビアに遅れぬよう走りながら、シュヴェリアは思考を回す。
『聖環の杖』単独なら、放置しても問題ない。現にこの100年何も起きなかった。だが、今代の『女神教』の巫女と掛け合わされると、とんでもない脅威になりうる。魔王アトライアスとしては危険な芽は早めに摘んでおきたい。だが、無理やり接収するとなると、反発を産むだろう。
(ここはこのまま行方知れずになってもらった方が良いのではないか? 『悪魔教』とやらがどういうものか解らないが、少なくとも『女神教』の巫女とは距離を置けるだろう)
シルビアには申し訳ないが……
シルビアの背中を見つめるシュヴェリア。つい先ほど、自分たちの敵ではないといっていた手前申し訳ないが、ここはアサシン側に立たせてもらうのが良さそうだった。
「……そろそろ街の端ですが」
シルビアが呟く。どうやら手助けするまでもなく、アサシンは逃げおおせたようだった。
「逃げられたか……」
余計な手間がかからなくてよかったと息を吐く。直後――
「!!」
シュヴェリアは慌てて剣を抜き、降りかかるナイフを弾く。
「シュヴェリアさん!!」
近寄ろうとするシルビアの周囲を囲むように投げられるナイフ、次の瞬間地面に突き刺さったナイフが魔法陣を描き、シルビアの動きを封じる。
「!! これは――」
「結界か!?」
「そうだよ、流石に鎧姫のシルビアと黒き英雄、同時に相手は出来ないからね」
驚くシュヴェリアたちの前に降り立つ影はそういうと、くるくると手先で杖を回す。
「狙いは勿論これだよね、黒き英雄?」
黒いマントに黒いフード、男の声で語り掛けてくるそれは何本ものナイフを身体に仕込んでいるようだった。
「お前が、『悪魔教』のアサシンか?」
「Yes、そっちは黒き英雄でいいよね?」
「ああ、シュヴェリアだ」
いうと、口笛を吹いて、驚くアサシン。
「まさか礼儀正しく名乗ってくれるとは思わなかったよ。“死にゆく者に名乗る名はない”って奴なんじゃないの?」
「フッ、私だって名乗る価値のある者にはちゃんと名乗るさ、例え“死にゆく者”だとしてもな」
「ふーん、なるほど、僕には名乗る価値があると思ってくれたわけだ。これは嬉しいね」
アサシンはシュヴェリアの安い挑発には乗ることなく、自分を評価してくれたことを素直に喜んでいた。
「これは何かお返しをしないとな――本当は名乗っちゃダメって言われてるけど、特別だ。僕のことはブリッドと呼ぶといいよ」
いうと、ブリッドは丁寧に頭を下げて一礼した。構えを崩さないシュヴェリア。
シルビアはその隙に結界を破壊しようと工作するが――
「ああ、やめた方が良いよ、それはいわゆる奥の手だからそう簡単には破れない。下手すると、自分に返って来るよ」
「クッ」
ブリッドにいわれて手を止めるシルビア。それを見て、ブリッドはシュヴェリアとの会話に注意を戻す。
「君の噂は色々聞いてるよ、是非とも手合わせしてもらいたいな」
「丁寧な物言いだが、拒否権はあるのか?」
「ふふ、ないね!!」
いうと同時にナイフを投げつけてくるブリッド、2本のナイフがシュヴェリアに向かう。
「フン!」
2本のナイフを叩き落すと、駆けだしたブリッドが投げた次のナイフが迫る。
目前に迫る8本のナイフ、シュヴェリアならば剣1本で事足りるが――
「――は!」
シュヴェリアはあえて2本目の剣を抜き、8本を即座に叩き落す――
「うおりゃ!!」
目前に迫ったブリッドを切り払うために、
「いいねぇ、いい反応速度だ。状況判断も申し分ない。剣1本で弾いてたら、間に合わなかったのにね!」
楽しそうに舞う、ブリッドを見てシュヴェリアは叫ぶ。
「お前の目的はなんだ、何故逃げずに待っていた!」
聞かれて足を止めるブリッド、ナイフで、シュヴェリアを指した。
「何故って? 決まってるだろう? 君を待っていたのさ」
「……私を? 何故だ!」
「君の実力を図るために決まってるじゃないか」
ブリッドはさも当然のようにいうと、街の中を舞い、とある家の屋根の上で腰を落とした。
「ゾルト大陸に現れた救世主、サダムスト軍相手に引けを取らない戦いを繰り広げ、村を護った。こんな快挙を成し遂げる奴を放置しておけないでしょ、『悪魔教』を崇拝する者として!」
(また『悪魔教』か)
さっきから『悪魔教』だの『女神教』だのもううんざりだ。
「宗教同士ののいがみ合いなら、よそでやるがいい!!」
――風花一閃
シュヴェリアの一撃が闇夜を切り裂く。
「おっと」
シュヴェリアのスキルを飛んで回避するとそのまま、地面に着地するブリッド。
「身軽だな!!」
――砂刃・風双波
スキルを連続使用し相手を一気に追い詰める。シュヴェリアが飛ばした斬撃をブリットが回避したのを確認し距離を詰めるシュヴェリア。そう、斬撃は囮だ。
「はぁあ!!」
渾身の力をこめてブリッドめがけて剣を振り下ろすシュヴェリア。
慌てて身体強化を自分に施し、両手のナイフで剣を止めるブリッド。
「あれれ、なんか怒らしちゃったかな、ずいぶん早急じゃない?」
余裕な物言いだが内心は焦っているのだろう、わずかに見えるブリッドのほほを水滴が滴って行くのが見えた。
「宗教問題など趣味ではない。多種多様な考え方がある以上考え方が会わず、平行線をたどる相手がいるのは当然なことだ。そんなことにいちいちかまってはいられん」
シュヴェリアの返答に、確かにとはにかむブリッド。
「でも意外だな、そんな肯定的な意見が聞けるとは思わなかった。てっきり、『悪魔教』は悪ださっさと消えろ、的なことをいわれると思ったのに」
「そんなことは――」
「そんなことは言いませんよ」
シュヴェリアが言いかけた言葉をシルビアが先に言い切った。
「なにせ、その方は『悪魔教』に近い思想を持っていますからね」
「!!」
シルビアの言葉に驚くブリッド。そういえば、以前、悪魔教の信奉者だなんだと言われたことがあったのを思い出した。
「はは……なんの冗談だ、鎧姫?」
「冗談ではありませんよ。以前、3魔性を前にシュヴェリアさんがはっきり宣言しました。今この安寧があるのは魔王のおかげだと」
「さ、3魔将!?」
こいつ、魔将だけでなく、3魔将とも接触して生きてるのか!? 的な視線をむけられ、じろじろ見られた。
「あ、いや、そうじゃない……黒き英雄が『悪魔教』支持者? そんなことあるわけが……」
「この世界、いや人間社会は魔王の働きがあって形成されていると思っているが、なにか?」
「…………」
言葉を失うブリッド。想像もしなかった事態にあっけにとられているようだった。
目線をシルビアに送るシュヴェリア。シルビアがうなづいたのを確認し――
「紅蓮!!」
シュヴェリアがスキルによる攻撃でブリッドに襲い掛かる。同時に結解を破るシルビア。
「しま――」
紅蓮を回避したブリッドにシュヴェリアの剣とシルビアの魔法が迫る。
――爆音が夜の街に響いた。




