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異教徒ー2

  ――二―ベルン城、格納庫

 カエリウスは先日持ち帰ってきた黒龍の死体を調べていた。

「どうだ?」

「は! 調べてみましたが、やはり普通の黒龍の亡骸ですね。何もおかしいところはありません」

「……では、何の問題もない死体が勝手にドラゴンゾンビになって暴れまわったと?」

「申し訳ありません、ですが現状、これ以上のことは……」

 唸るカエリウス、部下たちが肝を冷やしていた。

「カエリウスちゃん、あんまりうちの子たちをいじめないであげてよ」

 格納庫のドアが空き、一体の悪魔が格納庫の中に入って来た。

 白衣を着た人型の悪魔だ。髪が長く、しゃべり方から女性かとも思えるが男性のようだ。

「アシュバーン……!」

 カエリウスが声を上げると、片目を閉じて返事をする。

「うちの子たちの実力はあなたも良く知っているでしょう? 彼らが調べて何も出てこないのなら、これは何もないただの死骸、そういうことよ」

「だが、この個体の出現状況は何から何までおかしい。そもそも、我々に気づかれることなく、黒龍の卵を人間界に持ってくることだって至難の業だ」

「それは、そうなのよねぇ」

 口元に手を運び考えるアシュバーン。

「まあ、解決策はあの祭壇の方にあるんでしょうね」

「! 何か、見つかったのか?」

 アトライアス軍は一連の事件を重く考えていた。地上に黒龍が出現するなどかなりのイレギュラーだからだ。ゆえに、黒龍が出現したと知るや否や、即座に3魔将の翁姫を送り、現場の保存をした。現場からは黒龍の亡骸は勿論、祭壇や卵のカラも回収されていた。

 そして、それらは今、アシュバーンによって解析されていた。

「祭壇からも痕跡はほとんど消えていたわ、多分、私じゃなきゃ見逃してたでしょうね」

「では――」

「ええ、微かだけど、何者かの痕跡を確認したわ。これを仕組んだものの足跡を多少なりとも探れると思う。今、魔力分析をしている最中よ」

「そうか!」

 これで多少は相手のことを知れる、カエリウスは一先ず安心し、胸を撫で下ろした。

「随分、神経すり減らしてるようね、大丈夫?」

「問題ない、陛下のいない分、私が頑張らなくては――」

「陛下が休みを取られたとたん、妙なことが起こり始めたものね。謎の悪魔の無許可での地上滞在、黒き英雄とやらの出現、おまけに今度は黒龍の地上出現だなんて……」

「ああ、どれも重要な事案だ解決せねばならない」

 意気込むカエリウスを見て、アシュバーンは続ける。

「ねぇ、陛下戻ってきてもらう訳にはいかないの?」

「…………」

 カエリウスはしばし沈黙する。そして――

「それは陛下がお決めになることだ。私が決めることではない」

「はぁ、まあ、そういうと思ったけど……」

 アシュバーンはそういうと白衣のポケットから瓶に入った栄養ドリンクのようなものを取り出した。

「飲む?」

「ああ、もらっておこう」

 カエリウスに1つ渡し、もう1つをポケットから取り出すアシュバーン。

 カエリウスと共に栓を開けると、中身を飲み干す。

「そういえば、翁姫ちゃんは大丈夫だったの? 黒龍盗伐後、寝込んだって聞いたけど?」

「ああ、それは――」

「ホッホッホ、呼んだかの!」

 声が聞こえて振り返ると、入口の辺りの1体の悪魔が居た。来崩した着物に、狐の耳と尻尾、振り回される扇子は間違いなく翁姫だった。

「あら、翁姫ちゃん元気そうね」

「無論、元気じゃぞ!」

「――風邪をこじらしていただけだからな」

 カエリウスが呟くと、翁姫は顔を赤くして耳を垂れ下げる。

「あの日は雨が降っていたからの、あんなにびしょびしょで動き回ったら、風ぐらいひくわい」

 コンコンコンと笑う翁姫。恥ずかしいのか頬は赤いままだ。

「なるほどね、“寝込んだ”っていうのはそういうこと」

「ああ、だから、心配は要らない」

 カエリウスは下がった眼鏡を上げると、手元の資料をめくった。

「で、どうだった?」

「何がじゃ?」

「とぼけるな、シュヴェリアについてに決まっているだろう?」

 カエリウスがいうと、翁姫は「解っておるわ!」焦ったように取り繕う。別にとぼけたわけではなく本気で忘れていただけだったようだ。

 ――全く。カエリウスは息つくと、ずれた眼鏡を直しながら、手元の資料に目を落した。そこにはカエリウスが集めたシュヴェリアの情報が載っていた。

「一応、一通りの情報は聞いたが、直接戦ったものの感想を聞きたい」

「と、いわれてものう。お前さんの言う通り、大体の内容は報告を上げたぞい」

「解っている、その上で何かないかと聞いている」

「むぅ~」

 眉間にしわを寄せ、何かをひねり出そうと懸命に頭を捻る翁姫。

「なんかどこかで見た顔だとは思ったがのう」

「何処かとは何処だ?」

「そう言われると思い出せんのじゃ、どこじゃったかのう?」

 頭を左右に振りながら「う~ん、う~ん」唸る翁姫。カエリウスはもういいと言わんばかりにため息を着いた。

「翁姫ちゃん、そんなに難しく考えなくても、感想的なものでいいと思うわよ。カエリウスちゃんが聞きたいのは多分そういうことだと思うわ」

 アシュバーンが翁姫に意見を出しやすくなるよう促した。するとひらめいたとばかりに手を叩く翁姫。

「あれは多分、人間ではないぞい」

「!?」

 翁姫の意見に言葉を呑むカエリウス。何かサーチできたのか? そう聞くと首を振る翁姫。

 ではどういう? カエリウスが首をかしげると、翁姫はゆっくりと口を開いた。

「魔力をサーチしても確かに人間じゃった。悪魔を始めどの種族の痕跡もない。だが、あの気配は明らかに人間のものではない。勇者アルビオたちを持ってしてもたどり着けないものじゃ。

あの気配、むしろ、あれは、わらわたちと同じ匂いがする」

「悪魔の気配だと?」

「わらわたちより格上のな」

「……根拠は?」

「ない――わらわの勘じゃ」

 深刻な表情から一変、笑顔をになった翁姫はそう言って扇子を閉じた。

「勘か……」がっかりした様子で頭を抱えるカエリウス。しかし、そこでハッとする。シュロウガも同じようなことを言っていた。自分が思っただけで、根拠はないが――と。

(翁姫にもこのことは伝えていない。示し合わせでないとしたら、そんな偶然あるのか?)

 シュロウガも、翁姫も、どちらもこのアトライアス軍の誇る魔将だ。その感性は他の者よりも信頼出来る。

「まさか、有り得るのか? だとしたら目的は一体……」

 考え込むカエリウス。その様子を見て、アシュバーンと翁姫が顔を見合わせる。

「なんか考え始めちゃったみたいね。まあいいわ。それより翁姫ちゃん、聞きたいことがあったのだけど」

「何じゃ?」

 耳をピコピコさせながらアシュバーンの言葉に意識を向ける翁姫。

「黒龍のこの目の傷どうやってつけたのかしら?」

「目? ああ、初めからついておったぞ、大方あの人間たちが付けたものじゃろう」

「それは――あり得ないわ」

「うん?」

 考え込み始めたアシュバーンの顔を覗き込む翁姫。やがて口を開いた。

「あの傷は超高濃度の魔力体で打ち抜かれているわ。黒龍の回復力が及ばないくらい高濃度な力でね」

「なんと――」

 耳をそばだて驚く翁姫。その様子を見てカエリウスが思考の海から帰還する。

「翁姫ちゃんがやったのだとしたら、まだ説明がついたけど、そうで無いのだとしたら……」

「生まれつき、こんな傷かあるはずがない。となると――」

「シュヴェリア……か」

 シュヴェリアの知らぬところで、シュヴェリア一行への関心が高まっていた。

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