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異教徒ー1

 雨の中、傘も差さずぐったりとして数分、シュヴェリアが重い腰を上げ、メンバーは帰路に着いた。

ギルドに着き報告を上げたが、面々のあまりの状態にそのまま、宿に押し戻され、治療を受けることとなる。

 ――クローディア王国、王都アシュレイ

 翁姫襲来から2週間、シュヴェリアたちは王都アシュレイに足止めされていた。理由は色々あるが、一番の原因は、御琴が目を覚まさなかったことだろう。

 流石は翁姫、あれだけタコ殴りにされたにもかかわらず御琴は骨や内臓に異常は見られなかった。が、意識はなかなか戻らなかった。意識が戻ったらやらねばならぬことがあったシュヴェリアは御琴を置いて戻る選択はせず、回復するのを待った。そして、今日ようやく御琴が目を覚ました――

「それで、シュヴェリア殿話とは一体?」

「ああ、話は――」

 御琴が目を覚ますなり外に呼び出したシュヴェリアは御琴がどこにも異常が無いのを見ると――

「ふん!!」

 思いっきりグーで御琴の頬を殴り飛ばす!!

「グヘッ――」

 変な音を立てて、御琴が宙を舞い、数メートル吹き飛んだ後、地面を滑り転がる。

「シュ、シュヴェリアさん!!」

 事の次第を見ていたクレハが慌てて御琴の側に駆け寄った。

「な、何を……」

「何を? お前は自分のしたことが解っていて、そんなことをいっているのか?」

 険しい面持ちでにじりよって来るシュヴェリアに御琴は怯えて後ずさる。

 御琴に手を伸ばすシュヴェリア、クレハが止めようとするが止めるつもりはない。

 御琴の顎を掴み持ち上げると、無理やり自分の方を向かせる。

「お前の命知らずな行動の所為で、仲間が危険にさらされた。それも命の危険だ! 私はいったはずだ、共にいる間は誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けるような真似はするなと」

「――! 相手は魔将だぞ!?」

「同じだ! 私はそれで仲間が不利益を被らないかを心配している!!」

「不利益って、相手は人類の敵だ、それを――」

「もし、翁姫の手で死者が出ていたらどう責任を取るつもりだ!!」

「!! それは翁姫が――」

 言いよどむ御琴、ようやく事態が解ってきたようだ。

「翁姫は初めこのまま戦わず、去るといっていた。それをお前が止めたから戦いになった。結果、死んだ者が出たとして、その責任は誰にある? 翁姫か? 都合の悪いことは全て敵の所為か? 私は違うと思うな、殺した翁姫にも勿論、非はあるだろう。だが、開戦の口火を切ったお前にも同じだけの非があると考える」

「…………」

「お前にはお前の事情があるだろう、それは考慮する。だから、1発で勘弁してやる。死者が出なかったことを幸運に思うのだな」

 そもそも、私しか殴られてないじゃないか!? こう返されるとまずいのだが、流石にそんな気分ではないらしい。うつむいている御琴を、支えるクレハに任せてシュヴェリアは宿へともどった。




 夜、宿屋のロビーでくつろいでいると、クレハがやってきて隣に座る。

 無言の時間、なんとなく怒っているのだと思ったのだが――

(特に何も言ってこない……怒っているわけではないのか?)

 前にも言ったが、シュヴェリアは女性の扱いというものがうまくない。よって、何を考えているのかまるで解らない。こういう時は一体どうすればいいのか、本当にクエスチョンだ。

 しばらくして――

「あんなに怒ってるシュヴェリアさん、初めて見ました」

 そう切り出してきた。そうだっただろうか――

 思考を巡らせてみたが、確かに怒っているところはあまり見せてはこなかったかもしれない。

(件の領主の館など、見せられないほどの顔だっただろうからな……)

「でも、あれは少しやりすぎだったんじゃないですか?」

「……そうか?」

「はい、街中で巫女様を殴るのは問題だと思います。大勢には見られてませんけど、見られた人には説明が大変だったと、カルナさんとシルビアさんが言ってました」

「…………」

 そういうことか、確かに、サルフェース領内で刀剣の巫女様をぶっ飛ばすのは良くない。

「カルナとシルビアには後で礼をいっておかないとな」

「そうですね」

 苦笑いをするクレハ。なんだか機嫌がよさそうだった。

 ええい、考えてもしょうがない。直球勝負で聞いてみることにした。

「なんだか機嫌がいいな?」

「え? そうですか?」

 驚くクレハ。不味い、誤ったか? 仲間の男に友達をぶん殴られて機嫌がいいわけがないか……

 取り繕おうとしていると――

「そうだとしたら、シュヴェリアさんの所為ですね」

 そんなことを言うクレハ。私の所為? シュヴェリアは疑問を浮かべる。

「シュヴェリアさんが私達のことをあんな風に考えてくれているとは思いませんでしたから」

 クレハにいわれ、昼間のことを思い出す。シュヴェリアとしては自分の価値観に従い、無茶苦茶なことをしたものに制裁を下しただけなのだが、クレハの目には仲間を本気で心配する仲間思いの剣士にでも見えていたのだろう。

(魔王――いや、王として、配下の者を叱っただけなのだが……)

クレハの反応に困ったように頬を掻くシュヴェリア。

「――でも、あそこまで強く、殴らなくても……、とは思いましたけど」

 機嫌が良さそうだったクレハの顔が、じっとりとした目つきになる。

「御琴ちゃんの頬っぺた腫れてますよ」

「あ、あのくらいでなければ、自分の犯した罪の重さに気づけんだろう!」

 シュヴェリアがいうと、クレハは「そうかな~」とシュヴェリアを追い込んで来る。

「嫁入り前の女の子の顔にあんなことして、怒られないと良いですけど」

「……君は意外と性格が悪いな」

「? そんなことないと思いますけど?」

 にこやかに答えるクレハ。やれやれと、シュヴェリアが息を吐いた時だった。

「向こうだ、逃がすな!!」

 どこかから声が聞こえた。

「ん?」

 シュヴェリアが立ち上がり、窓の向こうを確認する。数人の兵士が血相を変えて走りまわっていた。

「何か、あったんでしょうか?」

 クレハの問いに頷くとシュヴェリアは側においていた大剣を背負い、宿の出口の方に歩いて行く。

「シュヴェリアさん!」

「君はここに居ろ、私は少し様子を見てくる」

 銃を取に戻ろうとするクレハに釘をさし、シュヴェリアは大通りへと繰り出した。

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