不穏な影ー4
シルビアに言われて吹っ切れた。
「そうだよ、私だってみんなと一緒に戦ってるんだ」
皆もそれを解ってくれている、なら、自分がすべきことは後ろめたさを感じる事じゃない。
「私に出来ることをやる、それだけだ!!」
クレハはシュヴェリアたちと戦っている黒龍にある程度、近づくと竜の左目に銃口を向ける。
無駄でも構わない。自分に出来ることがあるのなら――
クレハは銃のトリガーを引く。
やはり――強い!
黒龍を相手にして数秒で、力の差を理解させられた。今のシュヴェリアでは到底太刀打ちできない相手だ。
(アクティムを使っても殺しきれるかどうか……)
左手人差し指に付いた指輪を見る。ヴァルヴェロにもらった指輪が怪しく輝いていた。これまでか――
指輪を外す決意を固めた時だった。
ヒュン!
何かが黒龍の左目に命中した。
クレハか? しかし、今の黒龍相手では銃弾など……
黒龍もそう思い、防御しなかったようだ。その銃弾は眼球に当たり――
「ギヤァァァァァァァ!!」
激しくもだえる黒龍。何が起きた?
シュヴェリアが顔を上げると――
「まさか、打ち抜いたのか!?」
黒龍の左目を見ると血が滴っていた。
「クレハ!?」
振り返ると、クレハも驚いて、腰を抜かしていた。
フッ――
怪しく笑うシュヴェリア。
「よくやった!!」
シュヴェリアは黒龍の身体を走りながら登り、一気に、頭まで到達する。
黒龍は左目を打ち抜かれたことでよほど動揺していたのだろう、妨害を受けることはなかった。
「これで――」
シュヴェリアはワームホールを開くと、中から1つの魔具を乱暴に取り出した。そのまま、ワームホールを閉じ、黒龍の左目付近に取り出した魔具を取り付ける。すぐに飛び退け、――起爆。
黒龍の頭に大爆発を起こす。
(うちのマッドサイエンティスト、アシュバーン、特性の魔石爆弾だ、これは効くだろう?)
爆風に呑まれながら、黒龍が苦しんでいるのを確認し、後衛へ指示を出す。
「これで死んでくれないと――」
「――困るんだけどね」
メルとカルナ、2人の想いを乗せた魔術が、黒龍の頭に直撃する。
「ディープブリザード」
シルビアの唱えた魔術が黒龍の四肢を凍らせ、その場に動けなくする。
「御琴、奴の首を落せー」
落ちながら叫ぶ、シュヴェリアの声に応える様に八方之御珠の力を開放する御琴。
そうはさせまいと氷漬けの腕を無理やり動かす黒龍。
その一撃を止めるステラ。
「御琴ちゃん!!」
「相解った!!」
八方之御珠を振り抜く御琴
「おおぉぉぉぉ!!」
「ギヤァァァァァァァ」
御琴の唸り声と黒龍の悲鳴が交差する。しばしの間、拮抗し、そして――
「ギヤァァァァァァァアアアアア!!」
一際大きい悲鳴を上げ、黒龍の首が落ちる。
…………
静まり返る一同。
しばらくの間、雨の音だけがその場に響いた。しばし、時間を空けたのち。
「……も、もう……もう嫌ですからね、こんなの絶対!!」
メルの叫びが静かに響いた。
「メル君、こんな、ジャイアントキリングしといて、最初にいうことがそれかい?」
メンバーの失笑がその場に漂う。
シュヴェリアは立ち上がると――
「皆、よくやってくれた、我々の勝利だ!」
勝どきを上げた。
「皆無事で良かった~」
「それがし、本当に終わったかと思ったぞ……」
それぞれ、その場にへたれ込む。
「よくやりましたね」
銃撃の反動で倒れてしまったまま、座り込んでいたクレハの元にシルビアがやってきて手を差し伸べる。
「あ、有難うございます」
その手を掴み立ち上がるクレハ。
「でも、私は何も……」
クレハが言うと、シュヴェリアがやってきていう。
「そんなことはない、君が奴の目を打ち抜いてくれなければあんな戦法は使えなかった」
「えっ、その、あの……」
シュヴェリアが面と向かって褒めるとクレハはもじもじしていた。
「ふふ、いいじゃないですか、シュヴェリアさんがこういってるんですから」
「……はい、そうですね」
シルビアの言葉に、クレハは嬉しそうに頷いていた。
「あー、もう疲れました。びしょびしょですし、もう帰りましょう」
そうこうする間にメルとカルナがこちらに戻って来た。
合流するなり駄々をこねるメルに手を焼きながら、シュヴェリアは、戦利品の回収に向かう。
「何処に行くんですか~」
「ああ、奴の頭を回収しようと思ってな」
「黒龍の頭? 何に使うのだ?」
「別に何に使う訳でもないが――」
「ドラゴンを倒したという証明が必要ですからね」
その通り、シルビアの言葉に相槌を打ちながら、黒龍の頭を拾い上げる。
――もっとも、黒龍の亡骸など悪魔からしたら宝の山だ。後で、カエリウスに連絡して回収させようと思っている。本当なら頭も残していきたいくらいだ。
「ん?」
頭を掴んだ瞬間、違和感を覚える。何かおかしい。黒龍の頭を天にかざす。何やらよくないオーラを纏っている。――これは!
「不味い、シルビアあの死体を凍らせろ!!」
「え?」
とっさのことに対応できないシルビア。
「チィ――」
すぐさま黒龍の頭を放り投げるシュヴェリア。
その動きに合わせる様に――
ドスン、ドスン――
骸となったはずの黒龍の身体が頭を追った。
「う――」
「動いた――!!」
全員が驚愕する。
「え、ちょ、まさか、まだ――」
絶望したようにいうメル。残念ながらその通りだ。まだ、終わっていない。
「恐らく、ゾンビ化している!」
シュヴェリアの言葉に全員が戦慄した。
「ゾンビ化って――ドラゴンゾンビですか!?」
震えるメルの言葉に頷くシュヴェリア。
「そ、それがし、幽霊とかそういうのはちょっと――」
「いってる場合じゃないよ、どうするの?」
そうこうする間にドラゴンゾンビと化した黒龍は頭を装着したらしい。
ドラゴンゾンビは頭を手に入れると再誕の咆哮を上げた。
(まずい、どうする――)
シュヴェリアが二の足を踏んだ時だった。
「よいこら――せ!!」
何かが、黒龍を蹴り飛ばした。吹き飛ぶ黒龍、ふきとばしたものは見事に着地すると自身を分身させた。
「雨降りは嫌いじゃ、さっさと済まして帰らせてもらうぞい」
分身と共に黒龍に襲い掛かるそれはすさまじい戦闘力で黒龍を追い詰めていく。
「――あれは」
シュヴェリアの脳裏に危険を知らせるアラートが鳴り響く。
「これは、不味いですね」
シルビアの言葉に頷くカルナ。どこか顔色が悪い。
カタカタ震えるメル。彼女も答えに気づいているようだ。
「あの人、すごいです~ 獣人のように見えますが――」
「ウム、シュヴェリア殿以上の実力者に見える」
「シュ、シュヴェリアさんだってすごいですよ」
あの人物の正体に行きついていない面々はずいぶん余裕な会話をしていた。
「あは、終わった、今度こそ、終わった――」
メルが口から魂半分出したような顔で呟く。
「メルちゃん!!」
「し、しっかり」
ステラとクレハが介抱するがメルは自分を失ったままだ。
そうこうするうちに、黒龍と謎の人物の闘いは佳境に入る。
「妖狐式巫術、封式」
まかれた札が魔力の糸で結ばれ、黒龍を拘束する。
「グルオオ」
「妖狐式巫術、爆式」
黒龍の身体に張られた札が一斉に爆発。黒龍の身体を吹き飛ばす。
そしてトドメ、無数の札が集まり刀となって一閃、瞬く間に決着はついた。
「ふむ、思うたより強かったのう。幼体とはいえ、流石は黒龍というところじゃな」
さて――
その人物は、番傘をさすと踵を返して戻るのかと思いきや、こちらに向かって歩いて来た。
遠くで見た時点で解っていたが、近くで見て確信する。着物姿に、狐の耳と尻尾を持つ妖狐。
そう、彼女は、亜人ではなく、悪魔だ。
「そなた、わらわの名前が解るか」
――ああ、勿論、シュヴェリアは息を呑んでその名を呼ぶ。
「魔王、アトライアス軍3魔将が1人、翁姫!」
静寂がその場を支配していた。




