不穏な影ー3
砂煙が舞い上がる中、全員が臨戦体制で、その先を見つめていた。
砂煙の中、起き上がる影、まあ、死んでいないのは解っている。問題はどれだけ効いているかだ。
起き上がるドラゴン、咆哮を上げる。
「……思ったよりも元気そうだな」
シュヴェリアが舌打ちをすると、ステラと御琴が残念そうな顔をした。
再度後衛に魔術の準備を頼むシュヴェリア。
「何ですか、死んでないんですか!?」
忌々しそうに叫ぶメルの声が聞こえて来た。
叫び、自己再生を始める黒龍。そうはさせまいと駆けだすシュヴェリアたち。
「チィ――視界を取り戻したか」
左側から強襲したのだが、しっかり対応されてしまった。左目の回復は終わったようだ。
黒龍の動きでそれが解ったクレハ。
「もう一回!」
中距離にいたクレハが射撃体勢に入る。発砲。黒龍の右目に命中しようとして――
「!?」
思わず驚くクレハ。銃弾が命中直前でその手に阻まれ弾道を変えた。
流石、黒龍、学習が早い。
「くっ、なら当たるまで打てば――」
再び、クレハが黒龍を狙った瞬間。黒龍が飛び上がった。
「! 不味い!!」
シュベリアが声を上げた時には遅かった。
「ギィヤァァァァァァァ」
咆哮を上げて突撃してくる黒龍。狙いは―
「!!」
「クレハ、逃げろー!!」
ドーンという衝撃音がその場に響き、砂煙が舞う。
「クソ!!」
奥歯を噛み締め、黒龍が落ちた場所に駆けだすシュヴェリア。
クレハにはシュヴェリアが渡した魔具がある直撃を受けただけならまだ息はあるはずだ!
剣を構え、飛びかかろうとするシュヴェリア。しかし――
「ギャルルル!!」
「……残念でしたね」
砂煙の先の光景を見て思わずその足を止める。
空中に浮く巨大な2つの盾が黒龍の身体を止めていた。
「ご存じ無いでしょうからお教えしましょう。私の二つ名は鎧姫、鎧姫のシルビアそれが私の通り名です」
2つの巨大な盾の後ろで、杖を構えたシルビアが黒龍に向かい言い放つ。
「シルビアさん!」
シルビアの後ろで尻餅をついているクレハの声が聞こえた。無事を確認し、ひとまず安堵するシュヴェリア。
「クレハさん、私がいいというまで動いてはいけませんよ!」
シルビアはそういうと、2つの大盾を魔力でコントロールし、黒龍を押し返す。同時に詠唱を開始、黒龍が盾と押し合いしているうちに――
「グランドダッシャー!!」
魔法による攻撃で強引に押し返す。
――この女!? あまりの手際にシュヴェリアが呆けていると。
「シュヴェリアさん、お返ししますね」
盾の向こうでウインクしながらシルビアが語りかけて来た。
ハッとして落ちてくるドラゴンを回避、黒龍が落ちたところで、御琴、ステラと挟み撃ちにする。
(黒龍をこうも容易く押し返す。あの盾もそうだが魔法もかなりのものだ。間違いなく、危険因子としてリストに名が乗るはずだが、私の知る限り覚えがない。何者だ?)
シルビアの実力に疑問を抱きながらも、黒龍との間合いを謀り斬りかかるシュヴェリア。
「ふう、どうにかなりましたね」
シルビアは息を吐くと倒れるクレハに手を伸ばす。
「大丈夫ですか?」
「は、はい、有難うございます」
その手を取って立ち上がるクレハ。ちょうど背後から魔法が飛んでいくところだった。
――2つの魔法が黒龍を焼く。
「皆すごい……」
その様子を見てクレハが呟く。あの危険なドラゴンと真っ向から戦っている姿に関心をしてしまう。と、同時に自分だけ足を引っ張っていることに後ろめたさを感じていた。すると――
「あなたも」
とシルビアに笑いかけられた。
いえ、わたしは―― と返すと、シルビアはそんなことはないと慰めてくれた。
慰めてくれるのは嬉しいが―― いうと、シルビアは優しい顔でこういった。
「仲間のために命を張っているのはあなたも同じはず。ならばそれは評価されるべきことですよ」
「あ――」
顔を上げるクレハ。シルビアは再び笑い。
「少なくともあなたの仲間で、それを解っていない方はいません」
そう言い切る。クレハは銃を持つ手を強くした。
「さあ、遊んでる暇はありません、皆さんを援護しますよ」
「はい」
クレハは言い切り戦闘に戻る。
「はぁ!」
剣を振りかぶり一撃を入れる。スキルを使用していない攻撃では弾くことしか出来ない。
(――チィ、固いな)
体制を整え、スキルを発動、真・紅破!
金属がぶつかり合う感覚が剣から腕に伝わってくる。
(スキルも無限に打てるわけではない。おまけに毎度毎度、スキル使って攻撃するたびに伝わって来るこの感覚)
腕への負担が多く、このままでは剣を握られなくなってしまう。
(アクティムを使うか? しかし――)
相手は黒龍、部下ではない、全開のアクティムで斬れば、問題なく倒せるだろう。だが――
(なんだかわからないが嫌な予感がする。アクティムを使うべきではないと、直感が告げている)
アクティムの鼓動を感じない。起動することを恐れているようだ。
このままやるしかないのか――
仲間の負荷を確認する。全開で何発も打たせているため、魔術師の疲弊度はMAX、攻撃を受け流し続け、合間を見て攻撃を加えている前衛はそれ以上の疲弊度だろう。
この辺りが限界だ――
(やはり――)
シュヴェリアが背中の剣に手を伸ばそうとした時だった。
「!? 何!?」
魔術結界が突如解除された。まるで吸い込まれていくように、結界が中心部へ向けて吸い込まれていく。
結界がなくなり雨の中にさらされたシュヴェリア一行。何が起きたのかと戸惑っていると――
「シュヴェリア様、黒龍が!!」
今まで目の前で、ステラたちと戦っていた黒龍が急に飛び上がり、結界中心部、自身の卵のあった場所まで飛び去った。
「な!?」
黒龍の行方を追う、シュヴェリア。その行動を見て驚かされる。
黒龍は卵の元まで行くと、すぐ隣で収束している魔力――結界を張っていた魔力――に食らいついたのだ。
「奴め、何を――」
「――!! 不味い! 奴を止めろ!!」
慌てて走り出すが後の祭りだった。魔力を食い、成長を始める黒龍。その身体は倍ほどの大きさになり、牙も爪も鋭く育ち、体表の鱗もより硬く、黒くなる。
――最悪だ。
「げぇ、な、何してるんですか!!」
たまらずメルが罵声を飛ばす。
反論できずに黙るシュヴェリア。この展開は予想できなった。
「一度結界に使った魔力をまた魔力に戻すなんてそんな芸当出来るものなのか?」
シュヴェリアの聴力が遠くで冷静に分析するカルナの声を拾う。解らないが、実際目の前で起きてしまった以上、出来るのだろう。
「シュ、シュヴェリア殿――」
「ど、どうしましょ~」
御琴とステラが動揺しながら尋ねて来た。
幸い、結界は消えた。逃げることは出来る。だが逃げれば――
「引いてもいいですが、引けば、この辺りの町は蹂躙されるでしょうね」
シルビアの問いに頷き返すシュヴェリア。さらに言えば、黒龍はより力をつけ、強固になる。
「――戦いましょう」
クレハが力強く言い放つ。頷く一同。
「なんか戦うみたいだよ」
遠距離からシュヴェリアたちを眺めていたカルナはメルに状況を伝える。
(No――あの馬鹿たれ共ー!!)
メルの声なき叫びが響いた。
「パラメーターオールリビジョン」
シルビアが自身を含む5人にステータスアップの魔法を付与する。それと同時に走り出す前衛陣。
「シルビアさん」
自身も黒龍打倒のために動こうとしていたシルビアをクレハが止める。
どうしたのか尋ねるシルビア。
「有難うございました」
クレハが頭を下げる。
「? 私、何か、しましたっけ?」
顎に指をあて首をかしげるシルビアにクレハは満面の笑みを返す。
「はい!」
そのまま戦闘配置につくクレハ。シルビアも笑顔を残して移動を開始する。




