刀剣の巫女ー1
「よ、よかったよ~」
「はい、よかったです」
「「殺されなくて~」」
声をハモらせて叫ぶステラとクレハ。王城を出て緊張の糸が切れたのだろう。街中の壁にへたれこんでしまった。
「そんな大げさな、ただの謁見で命を取られることなんてあるわけないじゃないですか」
シグルドが呆れた様に言う。
「ん? しかし、以前サダムストから来た大使を殺して送り返したのではないのか?」
シュヴェリアが問うと、シグルドは「ああ」と頷き、話始めた。
「あれは大使ではなくスパイでした。大使のふりをした工作員だったのです」
「何?」
詳しく話してほしいというとシグルドは続きを話してくれた。
「彼は大使として王城内に入り込み、様々な諜報活動をしていました。我々の知らぬ間に多くの重要な情報を手に入れられてしまい。結果、生きて返すことが出来なくなり処刑して送り返しました。こちらとしてもやむなく行った処置でした」
「……なんかサダムストで聞いた情報とずいぶん違いますね」
メルが珍しく興味あり気に話しに参加してきた。
「多分だけど、そのころからサダムストはサルフェースとの戦争の意思があったんじゃないかな。だから、スパイを送り諜報活動をさせ、失敗したらサルフェースの所為にして幕引きをした。こうしておけば、戦争の火種として使えるからね」
「あ~ なるほど」クレハとステラが声をそろえて納得していた。
「後は、我々のような存在に二の足を踏ませられるか」
「二の足ですか?」
「ああ、普通は君たちのようにサルフェースを恐れて協力を求めに行こうなんて思わないだろう?」
「た、確かに……」
クレハが引きつった笑みを浮かべていた。
「なんだ、ただの取り越し苦労でしたね」
「お前、何か心配してたのか?」
「いいえ」
メルがそれぽいことを言ったので聞いてみると、案の定の回答が返って来た。
――聞くだけ無駄とはまさにこのことだ。
「さて、では誤解も解けたことですし、早速向かうとしましょうか」
シグルドはそう言い、皆を立たせようとする。
「行ってどこに?」
「無論、クローディアです」
「シグルドさんもいくんですか~」
「はい、皆さんの案内役を仰せつかっていますので」笑顔でそういうシグルド。
案内してくれるのはありがたいが、ルーフェスの方は大丈夫なのか、これからサルフェースの意見をまとめなければいけないというのに騎士団長が出払っては進む物も進まない。
「はい、私もその点は危惧していますが、ですが他に適任者がいなく……」
「他の兵士さんじゃダメなんですか~」
「ダメではないですが……」
「仮にも僕ら盗伐任務だからね。下手な人員じゃ足手まといになるよ」
「あ、そっか~」カルナの言葉に頷く、ステラ。
「フム、我々としては案内よりも、会合の進行の方が大切なのだが……」
どうしたものか、と悩んでいたその時――
「ん? シグルド殿こんなところでいかがされた」
どこか聞き覚えのある声が聞こえて来た。
見ると、そこには巫女装束に身を包んだポニーテールの少女がいた。
「「「あ!?」」」
目が合うなり声を上げるシュヴェリア、クレハと巫女服の少女。
「貴公はあの時の!!」
刀に手を走らせる少女、その背後を取るシュヴェリア。
「ここで合ったが――」
「百年目、とでもいうつもりか」
刀を抜こうとする少女の手を掴み、強引に刀を鞘に戻す。
「な!?」
いつの間に!? 仲間たちにも見えない速度で移動し、刀を止めたシュヴェリアに少女は異常性を感じた。――が、同時に。
「……」
何か底知れぬ気配を感じ、後ろを振り返れない少女。構えたまま沈黙してしまう。
「シュヴェリア殿、これは一体」
シグルドが一連の動きを見て声を上げる。
「失礼した、問題ない、この少女が刀を抜かなければな」
引き出す力と抑える力がぶつかり合い、鞘に入ったまま震える刀。まだ抵抗するかと力を入れようとするシュヴェリアだったが。
――む?
少女の身体が小刻みに震えているのを見てやめた。力を抜き、落ち着けるようにゆっくりと手を離す。すると、少女も刀から手を離した。
(この娘、私を本能的に恐れているのか)
流石というべきだろう。巫女とまでなると、ここまで正体を隠しても本能的に危険な存在というのが解るらしい。
(実に興味深いな)
シュヴェリアが一考していると、少女は振り返り再び刀に手をかける。
「貴様は――貴様は一体何者だ!!」
危険を感じていたのだろう、鬼気迫る表情で尋ねてくる少女。
「ふむ、一応聞く耳は持っているようだな、ここで刀を抜けば敵視されると解っている。先ほど私がいったことを聞いている証拠だ」
シュヴェリアは呑気に少女を観察していたわけだがその余裕が少女の気に障ったようだ、少女は刀を持ち深く構えると、前傾姿勢になる。恐らく攻撃のモーションだ。面白い、シュヴェリアは人差し指を動かし少女を挑発する。
「いけません巫女様!!」
シグルドが叫ぶと同時に鬼の形相になった少女がシュヴェリアに切りかかる。
「閃刃――」
刀を抜き飛びかかる少女、シュヴェリアはその動きを観察しながら腰の剣に手を伸ばす。
「――光牙」
多くの者には一瞬で抜かれ、振られたように見える刀。しかし、シュヴェリアにはずいぶんと余裕のある速度で見えていた。
自身の短剣で刀を止めるシュヴェリアは、フム、聞いた通りまだまだだな、と少女の動きを採点していた。
「と、止めた!!」
「八方之御珠を!?」
驚く少女とシグルド。短剣に止められた刀を弾き飛ばし、刀を懐に戻すシュヴェリア。
ぽいぽい投げてはいるがシュヴェリアの装備はどれも1級――どころか特級品だ。使い手が未熟な八方之御珠で折られるようなことはない。
「貴様は――貴様は一体!?」
今の一撃に全力を込めたのだろう少女は刀を握りしめながらもその肩は上下に揺れている。
もう少し遊んでやっても良かったのだが――
「黒き英雄殿ですよ、巫女様」
シグルドが正体を明かしてしまったのでそれまでとなった。
「!? 黒き英雄!? この方が」
驚く少女、シグルドが頭を抱えながら説明を続ける。
すでに国王陛下と面会も終えて、今はこの国の賓客です。それを――
「あ、あわわわわわ――」
自分のしでかした失態にようやく気付いた巫女殿は目を丸くしてあわあわし始めた。
「紹介が遅れ申し訳ない、黒き英雄と呼ばれているシュヴェリアだ。で、こちらは、私の仲間の――」
「クレハです」
「ステラです」
「メル」
「東の賢者のカルナだよ」
それぞれが自己紹介する。狙っていた相手が黒き英雄の一行だというのもそれはそれでショックだったようだ。あわあわが全身に広がり、カタカタし始めた。
「……自分で紹介出来なさそうなので、私から、彼女は第57代目刀剣の巫女、御琴様です」
「……スミマセン、ドウゾ、ヨロシク」
カタカタしながら絞り出した言葉は片言で妙に耳に残った。




