サルフェースへー5
――謁見の間。
そこに入ると空気が一変した。中にいる全ての視線が自分に向くのを感じた。
(これは……王は勿論、近衛兵や騎士団の幹部、そしてあれは恐らく大臣たちだな。勢ぞろいとは痛み入る)
おそらくルーフェス王国の重要人物すべてがその場に集まっていた。
背後に意思を向ける。メルとカルナはいつも通りだが案の定、クレハとステラはカチコチだった。
シグルドの案内で、王の正面まで進むシュヴェリア。仲間たちが横一列に並んだ。
さて、どうするか。王の御前、他の面々が膝を折り、頭を下げる中、シュヴェリアは膝を折るにとどめる。
案の定、偉そうな男に頭を下げるよう注意を受ける。が、無視……というのは流石にまずいので、理由を告げる。
「失礼、しかし、私は自らが崇める王以外に頭を下げないようにしている。他国の王に頭を下げるわけにはいかない」
別に、頭を下げるのが嫌なわけではない。必要とあれば頭くらいいくらでも下げよう。それで話がうまく進むなら安いものだ。ではなぜ下げないのか、答えは簡単、黒き英雄の値段を吊り上げるためだ。
シュヴェリアの言葉にざわつく城内。メルが「私でも下げてるのに、問題起こすなよ」的な視線を送ってきているが知ったことではない。クレハとステラが表情を曇らせていてもだ。
「もう一度いう、頭を――」
「良い」
偉そうな男が叫んでいたのを王が止めた。
「しかし――」「良いと言っている」というお決まりのやり取りをやった後、王はシュヴェリアに向き合った。
「この状況でそんなことを言えるとはな、中々骨のある御仁のようだ」
作戦成功、シュヴェリアが視線を泳がすと、「やれやれ」と言った表情の賢者と目が合う。
「それで、黒き英雄殿がわざわざ我が国まで来てどのような御用かな」
おそらくなんの用かなんてわかりきっているだろう。それでもあえてそう聞くのは、あまり歓迎されていない証拠だ。
(だが、話を聞く気はあるはずだ、そうでなければここまで人をそろえてこないだろう)
シュヴェリアは懐からフェルティナの書いた親書を差し出す。
シグルドが受け取り、王の元まで運ぶ。
「ほう、狂気に染まった父や兄を打つか、中々刺激的な手紙だな」
手紙を一通り読んで、ルーフェス王は手紙を側の家臣に渡す。
「つまり、貴公らの来た目的はサダムスト討伐の支援を依頼するためだな?」
「そう思っていただいて構わない」
「ふむ」
どうしたものかともったいぶるルーフェス王。周囲がざわめきだした。
「この感じ、どうやらまだ意見が固まってないみたいだね」
カルナがシュヴェリアに耳打ちしてきた。概ね同意だ、さてどうしたものか。考えていると、カルナが動いた。
「よろしいでしょうか?」
「貴公は?」
「賢者殿です」
王の質問に答えるシグルド。賢者の姿を確認してまた周囲がざわついた。
「サダムスト帝国がアストヴァイン王国と手を組もうとしているのはご存じかと思いますが――」
空気が凍り付いたのを感じた。静まり返る城内。あ、これはまずい。流石のシュヴェリアも肝を冷やす。恐らくアストヴァイン王国の件は情報統制されまだ伏せられていたのだ。
どうするつもりかと、カルナを見る――シュヴェリアは見逃さなかった、賢者が笑みを浮かべたのを。
「アストヴァイン王国は強力な魔術兵器を多数所有しています。この兵器がサダムストに渡り、協力して攻めてくれば、サルフェースの土地はたちまち廃墟となりましょう。そうなる前に、我々と手を組んで、サムダストを打った方がサルフェース側としてもいいのではないかと思います」
かつてない程にざわめき出す城内。政府高官たちはあたふたしていた。
(カルナめ……やってくれる)
おそらくカルナはルーフェス側がアストヴァイン王国の情報を隠していると踏んで、あえてこの場で暴露したのだ。理由は勿論、危機感を煽り、サムダストに出兵させるため。
(なるほど、サルフェースは私たちが戦って敗れた後にサダムストを倒し占拠しようとでも考えていたのだろう。故に、アストヴァインの存在は伏せていた。そこまで読んでの一手か)
流石は賢者、たいしたものだと称賛する。
ざわめく場内を押さえようとする政府高官たち、だが一度火が付いてしまった以上そう簡単には沈静化出来ない。ざわめきは大きくなるばかり。
「クク、ハッハッハ」
突然笑い声が響いて、城内が静かになった。
「流石は賢者、そして黒き英雄か」
笑い声を上げたのはルーフェス王だった。彼は豪快に笑うと、
「良かろう、フェルティナ王女に協力しよう」
と、言い切った。
「王!?」
あの偉そうな男が声を上げた。
「ここまで場を荒らされては小賢しい策など無駄だ。アストヴァインの存在を軽く見るのも危険だろう、あわよくばゾルト大陸を手に入れようという考えは悪くないが、このような者たちがいるのでは無理だ。おとなしく自衛に専念すべきだろう」
ルーフェス王はシュヴェリアの方を向くと。
「我々は大人しく、自衛のためにフェルティナ王女と共にサダムストを打つ、これでいいか?」
再び、はっきりと言い切った。
(豪胆な男だ、先ほどまでの策に準じていた姿は偽りのものだったらしい)
まあ、こちらの方がシュヴェリアとしては好みだが。
「まあ、そうはいってもルーフェスだけで言っていてもな、サルフェースとして動かなければ意味がない」
「会議か何かあるのだろうか? 必要であれば我々も――」
そこでルーフェス王が手で制止した。
「そちらは我々に任せてもらおう、その代わり一つ頼みがある」
嫌な予感がしたが――
「頼みとは?」
聞かないわけにはいかなかった。
「ここから北西に行ったところにクローディアという国がある」
「クローディア……」
「サルフェースの一国だね」
呟く様に言うクレハに、カルナが説明を付ける。
「このクローディアに最近高位のドラゴンが出現するらしいのだ」
「高位のドラゴン?」
ルーフェス王の言葉に首をかしげるシュヴェリア。
確かにドラゴンは地上にも存在しているが、どれも低位、魔界に居るものとはくらべものにならないほど弱い個体ばかりだ。――人間にとっては脅威だろうが……
(いや、たまに高位の存在が居たりもするな。だが、そんなのは大抵ヌシと化していてほとんど動いたりしないはずだが……)
何かドラゴンの領域に手を出すような真似をしているのか尋ねると、そういう訳ではないらしい。ただの山道に突然、ドラゴンが出現するのだそうだ。
「すでに何人もの被害が出ている。また悪いことに、その道は物流の要所でもあってな。その道が使えないと、更に奥にあるペタゴンタに物資が届かなくなる」
「なるほど、問題を解決すればクローディアとペタゴンタからは感謝され、こちらの意見が通りやすくなる、と」
その通りだ。ルーフェス王は頷き、笑う。
「ついでに、僕たちの実力も見れるって寸法ね」
賢者の言わなくていい一言に、過敏に反応するクレハとステラ。
ルーフェス王は苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。
「了解した、そのドラゴンを何とかして来よう」
嫌そうな顔をするメルを尻目にシュヴェリアはルーフェス王に約束を取り付けた。




