サルフェースへー4
封剣・八方之御珠は刀剣の巫女にしか扱えない刀だ。先ほど腕を締め上げ、落ちた刀を見たとき、シュヴェリアはすでに少女の正体を見抜いていた。
まさか来て早々、こんな形で会うことになるとは思わなかったが――
いや、それはいい。気になるのは彼女が自分を見て驚いていたこととだ。自分に一体何を見たのか? 悪魔であることはバレてはいないはずだが……
そんな思考をしているさなか現れた高位の冒険者シルビア、対応が2手3手遅れてしまった。
おかげで会話の主導権を完全にシルビアに奪われていた。
「え、じゃあ、さっきの刀は……」
「封剣・八方之御珠ですね」
「ええー!?」慌てて銃を持ち上げ、御琴に斬られた部分を見るクレハ。一応彼女も、八方之御珠がどういうものかは知っているようだ。こすったり、光に照らしたりして、傷ついていないことを確認する。
「どうやら、まだ完全に力を使えてはいないようだね」
クレハの銃の状態を確認してカルナが言った。
「フム、おかしいですね、少し前に力を使える様になって、なんでもかんでも両断する厄介者として認知されていたはずですが……」
片目を閉じ、顎に手を運んだシルビアは不可思議気に首を傾げた。
「なんでもかんでも両断って……」
クレハが引きつった笑みを見せた。
「困ったことに事実なんですよ。強いと見るや勝負を仕掛け、何でもかんでも一刀両断、今や国内でも有名なトラブルメーカーで――
ほら、周りのみなさんの騒ぎに対する反応もドライじゃないですか」
そういえば、と思い周囲を見る面々、あれだけの騒ぎがあったにも関わらず、港の者たちはすでに何事もなかったように日常に戻っている。
「巫女様関連の話だと解れば、あの程度些細な事なんでしょう」
「とんでもない話ですね……」
メルが堪らず口を開いた。
「まあ、だからと言って治安が悪いわけではありませんので安心してくださいね」
(悪魔すらたやすく両断する刀を振り回す巫女のいる国、もはや治安も何もないだろう……)
にこやかに言う、シルビアにシュヴェリアは心の中で反論する。
「さてでは――」
シルビアは一礼すると一歩下がった。
「私はそろそろお暇するとしましょうか」
「えっ」
「行っちゃうんですか~」
残念そうな声を上げるクレハとステラ、シルビアはにこりと笑うと。
「これから大事な仕事があるのでしょう? 出来れば力になりたいですが、黒き英雄さんはそう思ってはいないようなので――」
「…………」
シルビアの言葉に、振り向くステラとクレハ。シュヴェリアはただ沈黙だけを返した。
「残念です……」
「せっかく知り合えたのに……」
「ふふ、そんなに残念がる必要はありませんよ、近いうちにまた会うことになるでしょう。そんな気がします」
おしとやかに笑うシルビアからは考えを読むことが出来ない。どこかミステリアスだった。
「それってどういう?」
「ただの勘ですよ。まあ、私の勘はよく当たるんですが」
「それでは良い旅を――」一礼して去っていくシルビア。
「シュヴェリアさん、シルビアさんに協力してもらった方が……」
シルビアが居なくなるなりクレハが口を開いた。ステラも同じようなことを言いたそうにしてこちらを見ている。
「気持ちは解るが今は駄目だ、我々はこれから敵に包囲されに行くのだぞ? そんな危険に彼女を巻き込むわけにはいかない」
と、口では言ってみるが本音は別だ。あのシルビアという女性、どう見てもただ者ではない。
ただでさえ危険なところに行くのに余計な危険は抱え込みたくないというのがシュヴェリアの本心だった。
「そうですね~……」
「解りました……」
ステラとクレハの言葉を聞き、シュヴェリアは号令をかける。
「少しばかり道草を食ったが――では行くぞ! 皆、心の準備は出来ているな?」
シュヴェリアの声に頷く一同、それを見てシュヴェリアは歩み始めた。
サルフェースの玄関口であるエランバからルーフェス王国の首都パラディンには海路で行くルートと陸路で行くルートがあるがシュヴェリアたちは陸路で行くこととなった。
これはエランバ領主の屋敷に寄った際、相手方が陸路を使うと決めたためである。
第一関門であるエランバ領主邸では驚かれこそしたが戦いになるようなことはなかった。無事馬車の手配をしてもらい、護衛付きで護送される運びとなった。
前の大使とやらがどの時点で死体となったかは分からないが、とりあえずは幸先のいいスタートだ。
そして、数日かけ、馬車で移動し――
――ルーフェス王国、首都パラディン、王城前
「着いたな」
馬車を降りる5人は思い思いに目の前の城を見上げる。
「大きいですね~」
「綺麗」
城の感想を言う、ステラとクレハ。
「ここで眠るならそれはそれでありだね」
「これから殺戮が起る場所としては不適切ですね」
物騒なことを言う、カルナとメル。
「扉が開いていないが、いれてはもらえないということか?」
固く閉じた鉄格子の扉を前にシュヴェリアは護衛の兵士に尋ねる。
「まもなく迎えがまいりますので――」
エランバからここまで護衛してくれた兵士はそう言って頭を下げた。やがて去っていく馬車と護衛兵。シュヴェリア一行だけがその場に残された。
「……この感じ、なんか本当に殺されそうですね」
メルがそんなことを言い始め、ステラとクレハが身体をびくりと震わせた。
「メルちゃん、不吉なこと言わないで!!」
「そうだよ、私たち、遥々やって来たんだから~」
「はっはっは、遥々殺されに来るなんて奇特な連中だ、とか思われてないと良いですが」
明らかにお姉ちゃんたちを怖がらせようとしているメルの頭を軽く叩いた時だった。
ギギという音を立てて鉄格子の扉が開く。
1人の騎士らしき男が中から出て来た。
「ようこそおいでくださいました黒き英雄」
その人物はシュヴェリアを見ると、深々と頭を下げた。
どうやらいきなり切りかかられるということはない様だ。剣から手を離すシュヴェリア。
「私の事を知っているのか?」
「はい、勿論、サダムストの悪政から民を護るために立ち上がった英雄の話は、ここルーフェス――いえ、サルフェースでも有名ですよ」
握手を求める様に手を伸ばしてきた騎士、その手を取るシュヴェリア。
「紹介が遅れました。私はルーフェス王国騎士団長、シグルドです」
「シュヴェリアだ」
名乗りを上げ手を離すと、シグルドは後ろの仲間たちの方に視線を送った。
「一行には、賢者様が同行していると聞いていたのですが――」
そんなことまで伝わっているのか、シュヴェリアが振り向くと、当の賢者はにこやかに、
「あ、それ、僕、僕」
と自分を指さしていた。
「これは失礼を、もっとお年を召していらっしゃるとばかり……」
シグルドは頭を下げると賢者に謝罪をする。
(騎士団長という割には腰が低いな)
シュヴェリアはその様子を見てシグルドという人物を分析した。
「今回、我々がここに来たのは――」
「はい、その話は王自ら伺うそうです」
シグルドはいうと、シュヴェリアたちを王城の中へと誘う。
シュヴェリアたち5人は互いに目を合わせると、頷き、シグルドの後を追った。




