サルフェースへー3
「シュヴェリア君、向こうで誰かが戦って――」
「ああ、クレハかもしれん、急ぐぞ」
食べてすぐ走ると、気持ち悪い。と込み上げてくるものを抑え込みながら走っているメルを尻目に、シュヴェリアたちは先を急いだ。
目指すは――
「ちょ、ちょっと何なんですか!!」
御琴の斬撃を躱しながら叫ぶクレハ。御琴は楽しそうにクレハに襲い掛かる。
「どうした、背中の物は飾りではあるまい? 遠慮せずに撃ったらどうだ!?」
「こんなところで打てるわけ――」
下手に打てば周囲の人に命中、跳弾などすればどこに行くか解らない。ここに居るのは敵の兵ではない、ただの一般人だ。その人たちがいるのに、クレハが銃を撃てるはずはなかった。
(ど、どうすれば……)
一応、シュヴェリアに言われてナイフも隠し持っているが、クレハの腕では意味をなさない。
悩んでいるうちに追い込まれていた。
「その銃もらった!!」
「!? しま――」
銃を切り落とそうと刀を振り上げた御琴、クレハは反応が遅れ銃を護ることが出来ない。
斬られる! そう思った。
キィィィン
金属音が響き――
「な!?」
驚いたのは御琴の方だった。クレハの銃が御琴の刃を止めていたのだ。
「き、斬れて……ない?」
「馬鹿な、それがしの刀で切れないなど……」
相当に驚いたらしい御琴は攻撃の手を止めていた。
「よ、よかった、斬れなくて……」
ほっとしたように息を吐くとクレハは強い視線で睨み返す。
「何するんですか!! 斬れなかったからよかったものの、斬れてたらもう使えないじゃないですか。父の形見なんですよ!!」
叫ぶクレハにハッとしたように刀を構えなおす御琴。
「貴公こそどういうつもりだ! 銃使いが、一度も弾を撃たないなど、本気でやっているのか!?」
「はいぃ? 本気もなにも、こっちはなんで戦いを始めたのかもわかってないんですけど!?」
距離を取ったまま口論する御琴とクレハ、少しして、御琴の後ろに見知った人影が来たことでクレハが安堵の笑みを浮かべる。
「? 何を笑って――」
背後から腕を掴まれ驚く御琴、何の気配もなく背後を取られたことに驚いて身動きが取れなかった。
「私の仲間が何かしたかな?」
落ち着いた口調で刀を持つ手を絞り上げる男。あまりのことに脳が事態の対処に追いつかない。刀を持っていられず放してしまう。
「く、なんだ貴様、どうやっ――」
背後の黒い剣士を見てハッとする御琴。なんだか得体のしれない強大なオーラを黒い剣士に感じた。
「な、貴様、一体、何……!?」
恐怖に引きつったような顔を見て黒い剣士はハッとした。
落ちた刀を見る。そういうことか――
黒い剣士は顔を近づけ聞く。
「お前には何が見えている?」
「――ひぃ!」
聞かれた御琴は必死に腕を振りほどきどうにか抜け出すと、刀を回収して走り去っていった。
(……逃げたか)
シュヴェリアは御琴が走り去ったのを確認すると、クレハの元に駆け寄った。
「だ~か~ら~ 本当なんですって、いきなり勝負しろって言われて」
どうにか騒ぎを沈静化した後、シュヴェリアはクレハから事情聴取を始めた。
クレハの言い分はこうだ。買い物していたら突然あの御琴という少女に声をかけられ戦いを申し込まれた。何を言っても聞いてもらえず、危うく父の形見の銃を斬られそうになった。以上。
これに対し、シュヴェリアを除くほぼ全員が“それはない”と返した。
クレハが何かしたのではないか、相手の気に障ることをいつの間にかしていたのではないか、そんな意見が次々上がった。
「違いますって、本当の本当に、私何もしてないんですってー シュヴェリアさんは信じてくれますよね」
クレハにねだるように言われ頷く。実のところ相手の正体について検討が付いたシュヴェリアはそれどころではなかったのだが、上の空の返事でもクレハは嬉しそうだった。
「その娘の言うことは本当だと思いますよ」
その後も仲間たちが言い争いをしているとどこかからそんな声が聞こえた。
やって来る1人の女性に全員の目が釘付けになる。
ドレスと魔術師の服を混ぜたような服を着たミディアムヘアのスレンダーな女性、彼女は現れるなり「初めまして冒険者のシルビアと言います」と名乗った。
「冒険者?」
はてなを浮かべたステラに、カルナが教えに入る。
「アースガルド大陸にゼノって国があるだろう? あそこが始めた制度さ。身分に関係なく強いものは優遇されるシステム、10段階の……あー、ブラックダイアがあるから11段階になるのかな? 評価段階で冒険者を分けそれに合った依頼や報酬をするシステム。依頼と金次第で何でもやる傭兵ってところかな」
「へ~」メルとステラが声をそろえて頷いた。
「少し訂正をさせてもらいますと、確かに冒険者は依頼と金銭によって動きますが、いくら実入りがよくても依頼内容が納得いかなければ受けることは致しません。したくない仕事はしなくてもいい職業だと私は思っています」
「フム」
カルナはシルビアの話を聞いて、言い得て妙と言いたげにしていた。
「あの、ところで、どうして私の言ったことを信じてくれるんですか?」
クレハの問いに、シルビアはにこりとほほ笑む。
「それです」
シルビアの左手で差されたのは御琴がアメジストリングと呼んでいたリングだった。
「あなたも冒険者何でしょう? 冒険者は右手の薬指にそれぞれの階級に合った鉱石で作った指輪をはめる規則になっていますから」
全員の視線がクレハに向いた。しばしの沈黙――そして、
「あ、あはは、そうでした、私冒険者資格持ってました……」
すっかり忘れていましたとばかりに頭を掻くクレハ、「えへへ」と頭を掻く仕草はかわいいが――
「……」
すぐに周囲から冷たい目線を向けられ戸惑うことになる。
「フム、確か冒険者資格はゼノに行かないと取れなかったはずだけど……」
「ええ、ですがブラックダイアが追加されたときに記念としてゼノが世界全土を回り冒険者資格を発行しました。ゼノに行ったことが無いのならその時に取ったのでしょう」
「そうだ、だんだん記憶が蘇ってきましたよ」
クレハがいう横で――
「普通忘れないよね、そんな大事な事~」
「忘れませんね、普通は!」
ステラとメルがひそひそ話していた。
「うう、だって仕方がないじゃないですか、資格を取ったはいいものの、サダムストでは使う機会なんてなかったし――」
「!? 待て、クレハ!」
止めたが――
「あら、貴方方ゾルト大陸からいらしたの?」
すでに遅かった。シルビアには自分たちの素性がバレてしまった。しかも――
「へぇ、もしかして貴方が黒き英雄」
(チィ――)
やはり知っていたか、ただ者ではないと思ったがやはり予想は正しかったようだ。あっという間に正体までバレてしまった。
「あわわわわわ――」自分の所為でシュヴェリアの正体までバレてしまい。クレハは右往左往していた。
「もしかして、サダムストを倒すためにサルフェースに協力でも頼みに来たのですか?」
(この女、一体どこまで――)
殺すか、いや、この女実力が計れん、もしかすると、もしかする。
地上にシュヴェリア以上の実力者がいる可能性はゼロではない。計り損なうと大損害だ。
どうする――
シュヴェリアたち全員に緊張が走った。
「ふふ、いやですわ皆さん。ご心配なく私は貴方方の敵ではありませんので」
息を吐く、クレハとステラ、しかし、シュヴェリアはまだ肩の荷を降ろせないでいた。
「ご不安でしたら、皆さんの仲間になってもよろしいですよ。港に居るということは着いたばかりでしょう? 案内して差し上げますが――」
カルナに視線を送る、まだ危険だと視線で伝えられた。
「……ありがたい申し出だが、これから死線をくぐらないといけないのでな」
「あら、残念。これでも腕には自信があるのですが」
そう言って右手の薬指を見せるシルビア、その手にはダイアモンドで出来た指輪がはまっている。
(やはり、最高位の冒険者か――)
息を呑むシュヴェリア、カルナも同じように息を呑んでいた。
「ああ、そうそう、何故、彼女が狙われたかでしたね。
簡単な話です、巫女様は強くなるために強いものを探しているのですよ。アメジストは第7位の冒険者、強敵だと思ったのでしょうね」
話を聞く限り、試験一発でアメジストなんて、中々優秀なんですね。とシルビアはクレハをほめていた。初めは照れていたクレハだが――
「え、巫女様?」
「はい、先ほどの方が現、刀剣の巫女です」
「え、ええーー!!」クレハたちの驚く声は港中に響き渡った。




