刀剣の巫女ー2
刀剣の巫女とは国の組織体系には組み込まれず、独立した機関、確か『八雲』とかいう機関に属する存在で、そこのトップである。国の組織体系では王と同格とされそれぞれが拮抗することで良い国が生まれるとされている。
当然、騎士団長などでは手の届かない存在で、騎士団長に怒られるなど普通はあり得ない。
――が。
「スミマセン、スミマセン、本当にごめんなさい」
何度も何度も頭を下げる御琴、頭を下げている相手は小言を言っているシグルドだ。
騎士団長が、刀剣の巫女を凌駕する光景をまじまじと見せられている。
退屈なのでその内容に耳を傾けてみるが「いつも誰彼構わず戦いを挑むなといっている」とか「常に巫女らしい対応を」とかそんな言葉が聞こえてくる。
(そういえば、シルビアがトラブルメーカーだと言っていたな)
あちこちで問題を起こすものだから、いろいろな人に迷惑をかけ、結果、巫女の地位が地に落ちてしまっているのではないだろうか。何ともいたたまれない。
シュヴェリアはシグルドが一通り話終えたところで「それぐらいにしてやれ」と助け船を出した。黒き英雄の言葉を無下にできず、シグルドが引き下がると、御琴は「なんとお優しいお方」と目を潤ませて感謝された。
(さっき貴様呼ばわりされたんだがな……)
それはそれと話を流して、本題に戻す、シュヴェリア。えーと、ドラゴン退治の案内役の話だったか?
話を切り出すと、シグルドがいい案を思いついたと言い出した。
「いい案?」
「はい、御琴様これからどこへ行かれるのですか?」
「それがし? それがしはこれからクローディアへ向かうつもりだが」
「……何しに行くつもりだ?」
「無論、最近、街道を脅かしているというドラゴンを――」
この時点で、答えが解ったシュヴェリアは頭を抱える。
「ダメでしょうか?」
申し訳なさそうにいうシグルドに、いや、恐らく最良の案だ、と伝える。
「では、巫女様」
「ん?」
「巫女様はドラゴン退治に行く仲間をお探しで、こちらに来たのでしたよね?」
「うむ、流石に1人で行くのは許可出来ないと『八雲』からも言われておるからな」
「では、こちらが、そのお仲間です」
満面の笑みで言うシグルドに沈黙を返す御琴。
「ん?」
「はい、皆さんと頑張ってきてください」
冷汗が止まらない御琴、無情にもその御琴の背中を押すシグルド。
「シグルド……いや、シグルドさん、なんか話が違う気がするのだが?」
シグルドの腕をつかむ御琴なんだか時間がかかりそうだ。なので――
「……行くぞ」
シュヴェリアは御琴を担ぎ上げると、さらう様にその場を立ち去る。
それに続く仲間たち。
「待って、待ってくだされー」
手を振るシグルドに、手を伸ばし続ける御琴。その手がシグルドを掴むことはなかった。
巫女というのはずいぶん活動範囲が広い仕事らしい。御琴によると国を出ることもしょっちゅうあり、サルフェース内であれば遠方だろうと派遣される、そういう仕事のようだ。
御琴は巫女になりたてとはいえ、巫女見習いとして、前任の巫女について歩いていたようでクローディアへの道も迷うことなく進めている。
(意外だったな、巫女は社に籠って大事にかくまわれているものだとばかり思っていたのだが……)
御琴の話はシュヴェリアの想像していた巫女像を壊すものだった。故に面白くもあったのだが、どこか自分と似ているところもあり、親近感を持ってしまった。
いかん、いかん、相手は強敵になりうる存在、あまり感情移入をしてはいけない。
自分に言い聞かせる。
「なんか、巫女様って大変なんだね」
クレハが言う。あれだけの騒ぎを起こしたにも拘らず、2人はすでに仲良さげだった。流石はクレハと言ったところだろう。
「でも、いろんなところに行けるのは楽しそうですね~」
「いろんなところ行って戦わなければいけないんですよ、観光なんてしてる時間はないでしょ」
「解ってるけど、ご飯ぐらいは楽しめるでしょ~」
「飯の心配ですか!?」
ステラとメルはこれまた楽しそうに話している。まあ、仲がいいのはいいことだ。
最後尾のカルナを見る。親指を立てられた。しっかりとしんがりの仕事をしてくれているようだ。
このパーティならよほど問題ないと思うが一応、陣形というものを保って行動している。まあ、陣形と言っても、シュヴェリアが先頭に立ち、カルナがしんがりをするだけだが、これだけでも何かあった際は大分違うだろう。
「ところで、1つ聞きたいんだけど――」
「何かな?」
御琴の苦労話が大方終わったタイミングでクレハが声を上げた。何を言い出すのかと耳をそばだてていると――
「クローディア行きが私たちと一緒と聞いてなんで嫌そうにしたんですか?」
ぶぅー 思わず吹き出すシュヴェリア。見ると、他の面々も同じような顔をしていた。
青ざめる、御琴。
クレハ、一体どういう心境で―― 見るとクレハは満面の笑みを浮かべていた。――逆に怖い。
「えっと、いや、その……」
胸の前で組んだ手をもじもじする御琴。気のせいかちらちら見られている気がした。
「いや、問題起こしたばかりだったので気まずいなぁ……と」
「他には?」
まだ行くか!? もう許してあげて、周囲からそんな目線が集まっていたがクレハは譲る気が無いらしく、笑顔で催促する。
「他には?」
ないです、と言えればどれだけ楽だっただろう。しかし、そんな嘘を言える空気ではない。
御琴は息を呑むと、意を決したように口を開いた。
「シュヴェリア殿が……その……怖くて……」
絞るような声でそう言った。
なるほど、と納得したシュヴェリア。本能的に恐れている、それはつまり、“なんだかわからないけどあいつ怖い”となるわけだ。下手に本質が見えていない分、その恐怖は大きいだろう。道理であれだけいやがるわけだ。
「やっぱり」
クレハはそれを聞くと頷く様にそう言った。なんとなく解っていたようだ。
クレハは御琴の手を両手で囲み、彼女の目を見ると、
「大丈夫だよ、シュヴェリアさん、見た目はちょっと怖いけど、中身はとってもいい人だから」
そんなことを言っていた。気恥ずかしくなり、遠くを見る。何やらにやついている後ろの数人の視線が背中に刺さる。
「そ、そうなのだな」
「うん、だからゆっくりでいいから御琴ちゃんにも解って欲しいな」
語り掛ける様に言うクレハに頷く御琴。2人は本当に仲良くなったようだった。
そういえば、シュヴェリアも御琴に聞きたいことがあった。少し空気を悪くするかもしれないが、今すぐにでも話題を変えたい気分だったのでそのまま突っ込むことにした。
「私からも1ついいか?」
「は、はい!!」
流石にすぐに克服とはいかず、過敏な反応を示す御琴に苦笑いするクレハ。
「何故クレハに戦いを挑んだのだ? 強い冒険者だからと聞いたが」
「あ、それはだな」
御琴が自信満々に説明を始めた。
「それがしが強くなるためだ」
「強くなる?」
「左様、それがしはまだ弱い。先代である巴殿の足元にも及ばないだから――」
「強くなるために強い相手に誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けていたわけですね。その被害をクレハさんも被った、と」
メルが冷たい視線を御琴に送っていた。「うう、申し訳ない」とうなる御琴。
「なるほど、話は解った。しかし、我々と共に行動している間はそれはやめてほしい。強くなるために手ほどきが欲しいなら私が代わりにしてやろう」
「はい…………え?」
思わぬ提案に、目をぱちくりさせる御琴。
「だから、誰彼構わず喧嘩を売るのは――」
「本当か、シュヴェリア殿、それがしの稽古をつけてくれるのか!?」
目を輝かせて迫ってくる御琴、恐怖心は何処へ行ったのか、抱き着く勢いだ。
「……共にいる間だけだぞ?」
「うむ、それでいい。シュヴェリア殿に稽古をつけてもらえるのならそれがしは間違いなく強くなれる!!」
うきうき気分で飛びまわる御琴。やれやれ、と息を吐くと、妙にニコニコしているクレハと目が遭った。
「……なんだ」
「いえ、なんでも」
なんだかむず痒くなった。
(まあ、話を聞いた限り、巫女が弱いままではこの地方の安定に関わる。巫女が弱くなったのは最終的には私の所為だ。多少手を加えるのは問題なかろう。もし強くなり過ぎたらその時は責任もって――)
シュヴェリアの葛藤をよそに、御琴は嬉しそうに飛び回っていた。




