サルフェースへー1
「何か見つかると良いのだが――」
サルフェースに向かう船の甲板に立ち呟くシュヴェリア。出立前にクロスに頼んできたことに思考を費やしていた。
何を頼んだのかというと、遺物への道を開く秘石、その使用履歴を調べる様に依頼したのだ。
何者かが持ち出した遺物、そこへ至るためにはあの秘石が必要不可欠だ。ならその利用履歴を調べることで、遺物の行き先を知ることが出来る、そう考えた。
あの秘石はクロスの家に伝わっているもの、つまりクロスの家の資料をあさればその答えを知ることが出来る可能性がある。
「解りました」とクロスも力強く返事をしてくれたのだが……
見つかるかどうかは未知数だ。いい結果が出る様に祈るしかない。
「せめて形状だけでも解ればな……」
船の欄干に頬杖をつき、ため息を吐く。
「シュヴェリア君がため息とは珍しい」
声をかけられ、振り返る、飄々とした様子の賢者が居た。
「こう問題が立て続けに起こるとな、私でもため息の1つもつきたくなるさ」
少し皮肉ったように言うと、カルナは眉を引きつらせた。
「そうだね、でも、退屈はしないよ。僕なんか、一人でのんびりしてた時より生き生きしてる」
「フッ、それはそうだ」
魔王として城にこもっていた時よりも今の方が面白いと思うのだから困ったものだ。
「ところで――」
賢者の方を向くシュヴェリア。何故か微妙に空中に浮いている賢者に疑問を覚えた。
「何故お前は、飛行魔法を使って浮いているのだ?」
言われて頬を掻くカルナ。
「はは、実は僕船は苦手なんだ。普通に乗ってると気持ち悪くなっちゃって……」
まさかの船酔い体質とは、賢者にも苦手なものがあるのだなというと、そりゃあね、と返された。
「そういえば、他の面々はどうしたのだ?」
「クレハ君とステラ君は多分船内を見学しているよ、2人とも船は初めてみたいだったから目を輝かせてたよ」
クレハはともかく、ステラもか、と思い考え直した。エルフは元来、閉鎖的な種族だ。村の外に出るのも珍しい。確かに、船が珍しくても仕方がないかもしれない。
(まあ、正確にはさらわれてこの大陸に来た時に乗っているはずだが、流石に拘束されて乗るのとは話が違うだろうからな)
エルフのいるアースガルド大陸はゾルト大陸から見て西北方向に位置し、渡るには海路か空路しか存在しない。現在の人間の技術では空路を使うのは無理なため、ステラも間違いなく船で運ばれたことになる。
「まあ、結構なことだが、あまり羽目を外さないように言っておくか」
「大丈夫じゃない、メル君も一緒だから」
気になって詳細を聞くとどうやらメルはクレハとステラに連れまわされているらしい。よほど2人に気に入られているようだ。うんざりしているメルの顔が目に浮かぶ。
(あれでメルはしっかりしているからな、2人のことを任せても大丈夫だろう)
きっと心の中で“シュヴェリアさん、なんとかしてください!!”と叫んでいるであろうメルを偲ぶようにシュヴェリアは心の中で手を合わせた。
――サルフェース諸国連合、ルーフェス王国、エランバ
一週間後、ようやく港町に付いたシュヴェリアは船から降りると伸びをする。
「久しぶりの陸地だな」
「揺れてない地面、なんだか懐かしいです~」
「ほんとですね、なんだか変な感じがします」
シュヴェリアに続き、ステラ、クレハがそんなことをいっていた。
メルはというと――
「――つ!!」
ものすごい形相でシュヴェリアのことを睨んでいた。この一週間、女子2人に振り回されていたことに大変ご立腹されているようだ。そして、それを助けなかったシュヴェリアに怒りの矛先を向けている。
――そのぐらい、自分で何とかしてくれ、というのがシュヴェリアの言い分である。
「ふう、ようやく陸地だね」
カルナは息を吐くと、飛行魔法を解いた。ずいぶん久しぶりに、自分の足で立っているカルナを見る。この賢者、本当に四六時中魔法を解かなかった。部屋が違うため寝ているときはどうしていたのかはわからないが、本当にずっと飛行魔法を使っていた。
(本当に、船が苦手なのだな)
そう思う反面、そこまでして何故こんな危険な案件について来たのかとも思った。
「旦那」
仲間たちの様子を確認していると、後ろから声をかけられた。
「これは船長殿、どうされた」
シュヴェリアたちを送って来た船の船長は左右を確認しながらシュヴェリアに近づくと、
「悪いが、俺たちはこのままとんぼ返りさせてもらうぜ」
小さな声で囁いた。
王女から聞いていた通りだ、長時間この国に停泊していればどうなるか解らない。船の船員はシュヴェリアたちを降ろし、出港準備を整え次第、直ちにサダムストに帰還する。――これには、自分たちの出国をサダムスト側に知らせないようにする意味合いもある。
「ああ、解った、出来るだけ早く行ってくれ」
シュヴェリアとしてもその方が気が楽だ。船まで守ってはいられない。悪いな、と言って出航準備に戻る船長の背中にシュヴェリアはそう声をかけた。
「ここがサルフェース諸国連合」
「フム、間違ってはいないがその言い方はどうなのだろうな」
呟くクレハにシュヴェリアが告げる。
「サルフェース諸国連合はいくつもの国が集合して出来た組織だ。君の周辺でいうと、ゾルト大陸という呼称に近い」
フムフム、と頷きながら話を聞くクレハ。いつも一生懸命な彼女にはどこか好感が持てる。
「サルフェース諸国連合にはいくつもの国があって、その中に町がある。
ここはサルフェース諸国連合、ルーフェス王国のエランバって港町だね」
賢者が会話に入り込んできた。特に問題はないので後は任せる。クレハに混ざり、ステラもその話に聞き耳を立てていた。
「ちなみにルーフェス王国はサルフェース諸国連合のリダー的国で、刀剣の巫女がいるのもこの国だよ」
「刀剣の巫女……確か魔王軍との戦いで亡くなられたんですよね?」
「先代の巫女はね。王女殿下の話によると、『封剣』は持ち帰られたそうだから今は新たな巫女が誕生しているはずさ」
「歴代最強に並ぶとも言われた巴様が戦死されたなんて……」
カルナとクレハの話に加わるステラ。そのステラの発言にシュヴェリアは驚いたように声を上げる。
「ん? ステラ、君は先代の刀剣の巫女と知り合いなのか?」
「え? あ、はい。知り合いというほどではないですが、一応知っています。『封剣・八方之御珠』は世界樹とかかわりの深い宝具ですので」
「そうか……」
何となく罪悪感が沸き、目線を泳がせた。
「シュヴェリア様?」
ステラがどうしたのかと見つめて来たがそれには答えなかった。
「あの~、こんなところで立ち話してるくらいなら何か食べに行きたいんですけど」
若干不機嫌な声が下から聞こえて来た。
向くと、メルが不機嫌そうな顔でこっちを見ていた。
「メルちゃん、ちゃんと朝ご飯食べないから……」
「だって、あの船のご飯まずいんですもん」
確かに船の食事はまずかった。緊急用の携帯食の方がまだましだろう。こういうものと割り切って食べていたが正直、口直しはしたい。
「メルちゃん、そんなこと言っちゃだめだよ、作ってもらってるんだから~」
「解ってますよ、だから今まで黙ってたじゃないですか。文句も言いませんでしたよ、子供なのに」
た、確かに……
クレハとステラが頷いていた。
シュヴェリアとしては最後の一言が限りなく引っかかったがあえて言わないでおく。
「私は我慢しました、した上で訴えています。お腹がすきました。
お・な・か・が・す・き・ま・し・た!!」
腹の虫を鳴らしながら、メルが圧力をかけてくる。
ええーい、うっとおしい!!
近づいて来るメルを押し返しながらシュヴェリアは頷く。
「解った、食事にしよう、皆も文句はないな!?」
皆、呆れたような、困ったような顔をしていたが、ひとまず話は落ち着いた。




