新たな旅路ー2
――数日前、ウンブラの拠点
「あ、シュヴェリア殿、戻られたんですね?」
ウンブラの拠点前で、深冬に会い、挨拶された。それとなく挨拶を返すシュヴェリア。
「もういいのか?」
「はい、フェルオン遺跡では散々な目に遭いましたが……もう大丈夫です」
シュロウガとの戦いはあれ程過酷なものだったにも関わらず、大けがをしたものは居なかった――シュロウガを除く。
奇跡的な結果だ。それだけ日々鍛錬しているということだろう。結構なことだ。
「皆は?」
「クロードとステラさんは砂漠のどこかで手合わせしてるんじゃないですかね?」
「2人で?」
なんだか意外な組み合わせに思え問い返した。苦笑いをする深冬。
「はい、2人とも武器が壊れたじゃないですか。シュヴェリア殿が留守の間に新調したんですが、そしたら、2人とも早く使ってみたいって言って……」
「なるほどな」
「王女が気を聞かせて高級なのを仕入れてくれたみたいで、それがよくなかったですかね」
深冬につられて苦笑いするシュヴェリア。一応、ステラの槍はあの領主の館の宝物庫に眠っていた、一番いいものを与えたのだが……
(フム、王女が用意した槍か、少し興味があるな)
そうだ、武器と言えば……
シュヴェリアは、深冬の腰にある刀に目を向ける。
「そういえば、君の刀は名刀か何かなのか? あのシュロウガの攻撃を受けても破損がない様だが……」
「え、はい。名刀だとは思います。代々、家に伝わっていた剣なので。――恐らくですが」
「恐らくか……確認はしないのか、自分が使う武器だろう、不安ではないのか?」
「そうなんですが……確認のしようがないんですよ。サダムストがリーゼロットに侵攻する際に私の実家も家族も皆無くなってしまいましたから――」
「! それは、失礼した……」
「いえ、良いんです。もう、終わったことですので」
気まずそうにうつむくシュヴェリアに、深冬は続ける。
「カルナ殿は多分資料室ですね。ここにある情報を読破したいといっていたので。メルちゃんはどこかでお昼寝でもしてるんじゃないですかね。クレハさんは――」
特に気にしてない素振りで説明を続ける深冬を見て、聞かなかったことにしようとするシュヴェリア。彼女の説明する仲間たちの話に耳を傾ける。
「あ、シュヴェリアさん」
拠点のドアを開けて中に入ると声をかけられた。見ると、そこには元気そうな笑顔でセミロングの少女が立っていた。
「あ、と、噂をすればですね」
「クレハもういいのか?」
「はい、ご心配をおかけしました」
シュヴェリアが尋ねると、後ろで手を組んだクレハは満面の笑顔で答えた。いつも通りのクレハだ。いつも通りのクレハなのだが……
ふと、不安になる。いつも誰にでもこんな感じだから、勘違いしてしまう男が出てきそうだなと。まあ普段は自分が側にいるから問題ないだろうが、今回みたいに、側を離れる際は注意した方が良いかもしれない。
この笑顔を見ていると、何故かそんなことを考えていた。
(どうした、私、なんだかずいぶんと気の抜けた思考をしているではないか)
何故こんな思考をしているのかと、経緯をたどる。思えば、シュロウガの命を危険にさらしてまでアクティムを使ったのは誰のためだったのか――
「…………」
「シュヴェリアさん?」
急に考え込み始めたシュヴェリアに首をかしげる、クレハと深冬。
しばらくすると、ブンブンと勢いよく首を振り、思考の海からシュヴェリアが帰還する。
「す、すまない、少し考え事をしていた」
そういう言うシュヴェリアの頬は少し赤いようだった。
「えーと……」
「何でもない、何でもないぞ、君が考えるようなことは何もない! それより、いきなり倒れて心配したぞ、一体どうしたのだ?」
話をはぐらかすように別の話題を滑り込ませる。シュヴェリアの思惑は成功し、クレハたちは話の話題をそちらに移す。
「それが、その、すみません、私もよくわからなくて……」
「今までこういうことはなかったのか?」
「ありません。初めてです」
「うーん、うちの医師の話でも過労じゃないかってことでしたけど――」
過労、か。深冬の言葉に、口元に手を運ぶシュヴェリア。
「シュロウガを打ち抜いた一撃についてはどうだ?」
「そっちについても良く解りません。というか、本当に私が打ったんでしょうか? 私の銃弾はあの悪魔にはまるで通用しませんでしたけど……」
しょげた様にうつむくクレハ。
それはシュヴェリアも確認している。クレハの銃弾はシュロウガの装甲に弾かれていた。
では、あの一撃を打ったのは本当にクレハだったのかという問いだが、そこははっきりしない。シュヴェリアの危機に気を取られ、仲間たちも目撃していないし、シュロウガも良く解らないが、そうだと思ったという程度の認識でクレハを狙ったと言っていた。
あの一撃は一体何なのか、クレハが打ったとするならば、その後に倒れたことも関係性がありそうだが――
(結局、今は良く解らないままか)
あれだけやって抜けなかった硬化したシュロウガの装甲を打ち抜いたのだ、出所を明らかにしたかったのだが……
仕方ないと、シュヴェリアは息を吐く。
「すみません。もっとはっきり解ればよかったんですけど……」
「いや、気にすることはない。世の中、解らないことだらけだからな」
俯いたクレハの頭をポンポンと叩く様に撫でる。クレハが頬を赤くしていた。
「では、私はリーダーに話しがあるのでここで――」
深冬が会議室の方に歩いて行った。
「ああ、我々も後から向かう」
その背中に声をかけるシュヴェリア。
さて、自分たちはどうするか。クレハに問うと、クレハは耳まで真っ赤にしてもじもじし始める。
「あ、あの、シュヴェリアさんさえよかったら」
(!? 何だ、この娘、何を言うつもりだ!)
突然のことにシュヴェリアは身構える。
「あ、あの――」
「ん!?」
「もしよかったら、ここで――」
「お、おう……」
一歩、もう一歩とにじり寄るクレハ。
「せ――」
「せ――せ!?」
「せ」から始まる言葉を想像して言葉に詰まる。この娘正気か!? 倒れた拍子に頭が沸いてしまっているのではないかと言葉のんだ。
「背中の剣を見せてもらってもいいでしょうか!!」
「――は?」
クレハは目を輝かせて言った。
「だって、あの一撃、シュロウガを倒した一撃って、その背中の剣を使ったんですよね! 私、一瞬ですけど、確かに見ました。シュヴェリアさんが背中の大剣使ってるところ!!」
「…………あ――ああ」
そういえばこの娘はそう言うところがあった。
自分が生きるか死ぬかのときに、何を見てるんだ。とか、顔を真っ赤にして言うことか。とか、色々思うところはあったが、まあ、それはそれ、ひとまずは自分の予想した答えでなくてよかったとほっとするシュヴェリア。
これはシュヴェリアにとって奥の手で何度も使えるものではないし、見せることも出来ない。
と、クレハを説得するのに多少時間を費やしたシュヴェリアだった。




