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新たな旅路ー1

  ――辺境の村パグウスト

「村狩りだ!! 逃げろー!!」

 叫びを上げて走る村人たち、命がけで走る彼らを追うのは魔獣ではない、人間だ。

 帝国軍の鎧に身を包んだ男たちが村人たちを殺すべく、村の中を走りまわる。

「さっさと、狩りつくせ――女は殺すなよ」

 下卑た笑みを浮かべた指揮官風の男が馬に乗りながら笑っていた。

「なんで、なんでこんな……」

 目の前で起きている残虐の数々が信じられず、1人の少年が声を上げた。

「――早く!!」

 少年の姉が少年の名を呼び、手を差し出す。少年はその手を取れなかった。

 昨日まで当たり前にあった、貧しくも幸せな世界が一変してしまったことが信じられなかった。――それも、自分たちの所属する国の兵によって壊されるなど……

 ――こんな地獄があっていいのか? 少年は尋ねる様に叫んだ。

「お前ら、この国の兵士だろ! なんでこんなことするんだよ!!」

 少年の叫びは響いた。が、その叫びに答えを返すものは居なかった。村人は命がけで逃げまどい、兵士は聞く耳を持たず襲い掛かる。ただそれだけだった。

 やがて少年の前に2人の兵士が現れる。

少年は叫んだ、「お前ら、それでも人間か!!」と。

兵士は答える代わりににやりと笑う、そして――

「――!!」

 兵士は剣を振りかぶった。少年の足は恐怖で動かない。駄目だ、殺される、少年は目を強く閉じた。

 振り下ろされる剣、しかし、それは少年を切り裂くことはなかった。

「姉ちゃん!!」

 少年の姉が少年を庇ったのだ。少年を抱きしめる彼女は背に大きな切り傷を負っていた。

「おい、女には手を出すなと言われてるだろう!」

「すまん、この女が急に飛び出してきたもんだから……」

「あーあ、勿体無い、まあ、ギリ、なんとかなるか? 背中だし」

「傷跡は残るだろうがどうにかふさがるだろう、とっとと運ぶぞ」

 兵士たちはそんな身勝手なことを言って、少年からその姉を引きはがそうとする。

 そうはさせまいと抵抗する少年。

 「このクソガキ!!」頭を鎧の拳で強く殴られ成すすべなく姉を渡してしまう。

「たく、手を煩わせやがって!!」

 殴り飛ばされた少年の前には先ほど姉を斬った兵士がいた。

「畜生!!」

 これまでと悟った少年は拳を地面にぶつけた。何故、こんなことが、こんな悪魔の所業が許されるのか?

 力が欲しい、目の前の人の皮を被った獣どもを屠る力が!!

 何も出来ない自分への怒り、目の前の兵士への怒り、起った理不尽への怒り、少年は怒りで頭がおかしくなりそうだった。

 “神様、いや、誰でもいい、もし助けてくれるのなら僕は例え、悪魔にでも、魔王にだってこうべを垂れます。”

 少年は心の底からそう願った、そして――

「死ねぇ!!」

 兵士の剣が少年めがけて振り下ろされたとき――――――それは降臨する。

「――風花一閃」

 強風が少年の背後から吹き付ける。どうにか風に耐え、目を開けた。目の前の兵士の身体が上下で別れ、崩れ落ちていく。

「――な!!」

言葉を失う少年、何が起きたのか解らず、ぼーっとしていると、姉を連れ去ろうとしていた兵士が姉を降ろし、剣をこちらに向けていた。なんだか震えている。

「やれやれ、どうしてこう命知らずな奴が多いのだろうな、貴様らの国は」

 声の聞こえた方を振り返る少年、砂煙の中から誰かがこちらに向かい歩いて来る。

 大きな剣を背負い、左右長さの違う剣を装備した、黒い剣士。

「く、黒き英雄!!」

 兵士の叫びを聞いて、少年は自身の前に舞い降りた勇者を見つめる。

「あ、あの人が――」

 黒い剣士は少年の横を通り抜けると震える剣士に向かい歩みを進めていく。

「まあ、私が相手と知って逃げないのは評価してやろう」

剣を手に駆けだす剣士、兵士が叫びを上げ、やけくそ気味に駆けだした。

勝負は一瞬、すれ違う瞬間に全てが決した。

剣に付いた血を払い、死体となった兵士の側でうずくまっている女性に目を向ける剣士。

「姉ちゃん!!」

ハッとしたように少年は声を上げ、姉に近寄った。

「ごめん、ごめんよ、俺の所為で……」

ぐったりとする姉に寄り添う少年、剣士はしばし、それを眺めた後。

「息はあるか、これを使うがいい」

懐から青い液体の入った瓶を取り出す。

「これは?」

「む? 回復薬ポーションを知らんのか? これを飲ませればその程度の傷なら回復するはずだ」 

 聞くなり、その瓶の中身を姉の口に注ぎ込む少年。

 飲み干した女性の苦悶の表情はやわらぎ、背中の傷も回復し始める。

「問題なさそうだな」

 剣士はそう言うと、その場を去ろうとした。

「あ、あの」

 呼び止める少年。剣士は振り返った。

「あ、有難う御座いました!!」

 少年は直角に腰を曲げると勢いよく言い放った。

「フッ、ついでだ、気にするな」

 それだけ言うと、剣士はまた砂煙の中へと消えていく。

 ――彼らがシュヴェリアの名を知るのはずいぶん先の事であった。




「シュヴェリアさん!」

クレハたちは村に着くなりシュヴェリアを探し、声をかけた。

ちょうど、村狩りをしていたサダムスト兵を全滅させたシュヴェリアは村の入り口に集まっているウンブラの一団に合流する。

「シュヴェリア殿、状況は?」

「見ての通りだな、サダムスト軍は殲滅したが少しばかり到着が遅れた。多少は被害が出たようだ」

深冬の問いに、的確に答えるシュヴェリア。クロードが驚いていた。

「マジか、村狩りの部隊を1人で殲滅って……」

「まあ、魔将シュロウガを追い返したぐらいですしねー」

馬車荷台から顔だけ出したメルがそんなことを言っている。

「1人で先行するって言い出した時はどうなる事かと思いました」

「シュヴェリア様が強いのは重々承知していますが、無理はなさらないでくださいね~」

クレハとステラに心配され頬を掻くシュヴェリア。

「賢者殿もすごいと思ったが、シュヴェリア殿もシュヴェリア殿だな。俺らいらなかったんじゃねえ?」

軽口をたたくクロードの頭を叩く深冬。ちなみにカルナは別行動中だ。

何故このようなことになっているのかというと、話は、シュヴェリアがシュロウガの件を終えて再び休暇に戻った時までさかのぼる。

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