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魔王としての職務ー2

「解りました。では陛下の言う通り、シュヴェリアについては様子見とします」

 いやいや、全然わかってないんだが、私は無害と言ったんだが?

 まあ、慎重な性格のカエリウスだ、正体がアトライアス自身だとわからなければ手を引いてはくれないだろう。この程度で済んだのだと思うことにしよう。

(さて次は――)

 シュロウガの方に目を向けるアトライアス。どのような裁きが下るのかと身を小さくしているシュロウガに目線で意見を送る。「安心しろ、悪いようにはせん」と。

(いや、やめておこう、今は間違いなく逆効果だ……)

 シュヴェリア=アトライアスであることを知らないシュロウガにとってはそんなの死刑宣告だ。気付いてやめた。

「さてでは――」

 カエリウスが話始めたときだった。

「陛下、カエリウス様、オ願イシタイコトガアリマス」

 シュロウガが口を開いた。まさかの事態に静まり返る一同。

「私ヲ魔将ノ位カラ廃シテシテイタダキタイ」

「は?」

(はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?)

 固まるカエリウス、アトライアスも固まっていた。

「……何を言っているシュロウガ!」

 おそらく何かしらの罰を与えるつもりだったカエリウスが声を荒げた。

 跪いたままのシュロウガ、意見を言う気配はない。

「な、何故だ? 意見を聞かせてもらえるか、シュロウガ?」

 アトライアスの問いに頭を上げるシュロウガ。

「ハ、今回ノコトデ思イ知リマシタ、イカニ自分ガ未熟デアルカ。ソシテ自問シマシタ。コノヨウナモノガ将トシテ立ツコトガ許サレルノカト」

 息を呑むアトライアス、シュロウガは力強く言う。

「答エハ否デス。最弱ノ魔将デアルコトスラオコガマシイ」

(いやいや、強かったではないか。正直、あんな強いと思わなかったから感動したのだぞ!!)

 ふと、腰元のアクティムを見る。強くなったと思っていたシュロウガの鼻っ柱を折ってしまった罪の重さを自覚した。

「は! いい判断だ、下級悪魔にゃお似合いの結果だな」

 どこかから声が上がり眉を顰めるアトライアス。「またあいつか」頭痛がした。

「そもそも下級悪魔が魔将なんてやってるのがおかしいんだ。何が最弱の魔将だ、ふざけんな」

 シュロウガへの暴言が止まらない魔将。たまりかねてカエリウスが注意する。

「レキウス、お前に発言許可は下りていない。その場で平伏していろ」

「ヒュー、そういやあ、そもそもシュロウガを魔将に押したのはカエリウス様でしたよね。なんでこんな下級悪魔押したんですか~」

「レキウス、立場をわきまえなさい!」

カエリウスまで飛び火した暴言にカレンツィアが声を上げた。

「皆だって思うよな、なんでこんな雑魚が魔将なのかってさ~」

 沈黙を返す一同、誰一人賛同していないにも関わらずレキウスは続ける。

「そもそもハエ族なんて――」

「レキウス、黙れといったぞ!!」

 声を荒げるカエリウス、レキウスは相変わらずの様子でこちらに話しを振って来た。

「陛下、丁度いい機会だ、この辺りで――」

「レキウス、私の意見は――」

 アトライアスはレキウスに普通に答えるふりをして――180度様相を変えてやった。

「――カエリウスと同じだ、黙っていろ、クズが!!」

「ひぃ――」

 アトライアスの本気の睨みで萎縮したレキウスはそのまま跪く。

 それを見届け、一息。「お見事です、陛下」とカエリウスが小声で称賛してくれた。

(ええい、いらぬ労力を、それよりも――)

 慌ててシュロウガに目を向ける。レキウスの暴言などどこ吹く風と言わんばかりにシュロウガは何食わぬ様子で鎮座していた。

(シュロウガは強かった、ここまで想像も出来ない努力をしたのだろう。それがようやく実を結んだのだ、なんとしても魔将の座に残ってもらわなければ――いや、残すのだそれがシュロウガのプライドをへし折った自分の役目だ)

 実際、今のシュロウガよりも強い悪魔は自軍に30体もいないだろう。あの未知の硬化能力はそれほどに価値がある。ただし――

(あの硬化能力のことは知らぬふりをしなければ、最悪正体がバレかねん)

 シュロウガの今の実力は知らないふりをしながら、シュロウガが魔将にふさわしいことを証明しなければならない。アトライアスの腕が試されるイベントが始まった。

 いっそ、「陛下、私ハ力不足デハアリマスガ実ハコンナ能力ガアリマス」と言ってくれないかと期待したが、やめるといってる奴がそんなこという訳もなく、説得するにはそれはそれは長い時間を要した。




  ――二―ベルン城、アトライアスの執務室

「つ、疲れた。まさか、シュロウガがあそこまで頑固だとは……」

 結果的に言うと、あの場では話が終らず、いつまでも他のメンバーを拘束しておけないのでシュロウガとアトライアスは2体で面談することにした。が、一向に話しは進まない。

 シュロウガは“やめる”の一点張り、命令したらどれだけ楽だろうと思いながら、どうにか説得を続ける事、数時間「陛下ガソコマデ仰ルノデシタラ、モウ少シ続ケテミヨウト思イマス」という、仕事をやめそうな新入社員の一言を何とか導き出した。

(くそ、こんなことなら、やはりアクティムなんて使うんじゃなかった……)

 うんざりした様子で自室の机に俯せになる。

(しかし、まあ、結果からすればこれでよかったのだろう。シュロウガも無事だったし、仲間たちも皆生きている)

「苦労はしたが何とかなったな……」

 息を吐くと急に睡魔が襲って来た。ほっとしたのだろうか。部屋の外に待機しているメイドたちに食事の催促をし、今日はもう寝ることにした。

(明日から、またシュヴェリアだな)

寝所の脇に置いたアクティムを見つめ眠りについた。




  ――二―ベルン城、カエリウスの執務室

「陛下はああおしゃっていましたが――」

ソファーに腰かけ紅茶をすするカレンツィア、執務机に向かいサインをしているカエリウスに問いかける。

「ああ、このままには出来んな」

 サインの手を止め、カエリウスは顔を上げた。

「以前のシュロウガならともかく、今のシュロウガを撃退するなど――」

「やはり気付いていましたか」

「ああ、あいつは格段に強くなったもはや最弱の魔将など過ぎた呼称だ」

カップの紅茶を一口すすり、再び問いかけるカレンツィア。

「そういえばシュロウガはどうなるのでしょうか?」

「陛下がどうにか説得したそうだ、本人も魔将を継続するといっている」

「お咎めは?」

「するつもりだったがもう無理だな、してやられたか?」

「そういうタイプではないでしょう。彼はいつも真直ぐですから、誰かと同じです」

クスクスと笑うカレンツィアに息を吐くカエリウス。見透かされているようで何とも気恥ずかしかった。

「陛下は強者を求む傾向がおありになる。さんざん人間に退屈にさせられたからなのだろうが――」

「はい、ご自身ではあまりご自覚がないようですが」

「ああ、だから我々で事前に摘んで行かねばならない陛下の手を煩わせることが無いよう!」

 100年前の失態は二度としない。カエリウスの目には確かな決意があった。

「シュロウガの敵は取らせてもらうぞ、シュヴェリア!」

 静かな決意が二―ベルン城の一室に響いた。




  ――二―ベルン城、カエリウスの執務室前

 暗い静かなその空間でその人物は聞いていた、カエリウスの決意を。

 そしてほほ笑む、自身の思い通りに事が進んでいることに――

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