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魔王としての職務ー1

 ウンブラの本拠地に帰ったシュヴェリアは戦果を報告した。まあ、報告したのは深冬だったが、それは些細な問題だろう。

フェルティナもクロスも大層驚き、大層感謝していた。が、シュロウガの生存についてはほんのり空気が悪くなった。だが、これは深冬が悪い。

「シュヴェリア殿の活躍で魔将シュロウガを瀕死の重傷にまで追いつめたのですが――」

 といって、クロードとシュヴェリアを見る、何かあったとまるわかりなのだ。

 まあ、構わない、このころにはシュヴェリアの機嫌は直っていた。何より、シュロウガが無事だったとカエリウスから報告を受けて後でもあった。――正確にはシュロウガが重傷を負ったという報告だが。

 いつものように冷静に返す。「あそこで、魔将を殺していたらどういう事態になっていたと思う?」と。

 魔将を殺す→魔王が怒る→殺した奴を特定→報復に来る→最悪、人類滅亡

こんな未来を避けるために魔将に止めを刺さなかったのだと主張した。ついでなので、自分は魔王と事を構えるつもりはない。賢者も同意だ。ということを伝えた。

これを聞いてフェルティナは少し難色を示した。何か考えていることに抵触する部分があったのだろう。クロスは相変わらずのポーカーフェイスだったが――

まあ、遺物なんてものを探しているくらいだ、魔王軍との小競り合いくらい考えていてもおかしくはないが――

ともあれ、最終的には納得してくれたようだ。シュヴェリアの毅然とした態度もよかったのだろう。特に小言も言われなかった。

クロードはまだ納得いっていない部分はありそうだったが一応、納得したことになっている。

 何にしても解決した、と思ったら今度はいきなりクレハが倒れた。ウンブラの医師の話では過労だそうだ。シュロウガを打ち抜いた一撃について聞きたかったのだが仕方ない。彼女が回復するのを待つとしよう。

 ――で、これにより、数日休みをもらうことが出来た。皆各々時間を過ごす中、私、シュヴェリアは外出許可を得た。何故かというと――

「各員、平伏せよ」

 ――魔王、アトライアスに戻るためである。




  ――二―ベルン城、謁見の間

 集まった30の魔将が頭を下げる。

何とも壮観な光景だ。王座に座り、部下たちを見下ろしながらそんなことを思うアトライアス。

「面を上げよ」

アトライアスの言葉に従い面を上げる面々、皆、一斉にだから何とも気持ちがいい。

(これもカエリウスが日々指導しているたまものか)

 王座の隣に立つ羽の生えた悪魔は、そんな苦労も微塵に見せることなく今日も仕事に励んでいた。

「本日は陛下に休日を返上してもらいこの場にご足労いただいた。その理由については後程話すが――まずはデミトリ」

「は!」

 比較的後方にいた悪魔が立ち上がった。

「本日よりしばらくの間ゾルト大陸全土の監査を命じる、監査区域拡大については大変とは思うが――」

「お心遣い痛み入ります、ですが問題ありません、必ずやり遂げて見せます」

 一礼してデミトリが跪く。なんとなく目を泳がせ、シュロウガを見てみた。傷だらけで包帯姿の悪魔が申し訳なさそうにしている。――心苦しかった。

「続いてウロフェス」

「は」

 続いて3列目に居た悪魔が立ち上がった。カエリウスと同じ羽の生えた人型の悪魔、どこか飄々とした七将の1人だ。

「サルフェースでの活躍ご苦労だった。お前の活躍で、我が軍は誰一人として被害がなかった。感謝する」

 カエリウスの言葉に頭を下げるウロフェス。カエリウスがアトライアスに視線を送る。

 軽く手を上げて返すアトライアス。

「手ごわい相手だったと思うが、ご苦労だったウロフェスよ。時に一つ聞くが――」

頭を下げていたウロフェスが顔を上げた。

「巫女は殺す必要があったのか?」

 アトライアスが尋ねると、ウロフェスは「――と申しますと?」と聞き返してきた。

「今代の巫女は強力だったのは理解している。事実、カエリウスも大人しくさせるのに魔将では荷が重いとお前に出撃要請をかけた、理解しているつもりだ。しかし、お前ならば殺すことなく事を収められると思い、お前を出したカエリウスに対し、お前は巫女の殺害という返答を返した。この辺りが引っかかってな」

 ウロフェスはにこりと笑うと、頭を下げる。

「そうでしたか、ご期待に応えることが出来ず、大変申し訳ありません。巫女に関しては殺す他ありませんでした。生かしておくにはあまりに危険でしたので。

陛下の作られた世界を護るための行為でしたが、私の実力不足でもあります。今後の課題として真摯に受け止めたいと思います」

「……そうか、細かいことを言って申し訳なかった」

「いえ」

 一礼して跪くウロフェス。正直、釈然としないがこれ以上言っても仕方がない。アトライアスは次に進むよう、カエリウスに合図を送る。

「――では、本日最後の議題だ」

 言われて背筋を伸ばすアトライアス、どの程度に着地させられるかを考える。

「シュロウガ」

「ハ!」

立ち上がるシュロウガその巨体は数日前より明らかに弱弱しい。

(心が痛むな……)

 目をそらしたくなるのを我慢し、シュロウガを見つめるアトライアス。

「数日前、シュロウガがとある人間の一団に敗北した数は7人。リーダー格の人間はシュヴェリア、聞いたものもいるだろう、噂の黒き英雄だ」

(まあ、そうなるだろうな……)

 指名手配をされた気分になり、人知れず頭を抱えるアトライアス。カエリウスはそんなことに気づくわけもなく、次に進む。

「一団には賢者も同行している、恐らく、東の賢者だ。このシュヴェリアは恐らくヒルベルト山脈に無許可で滞在していた悪魔を撃退している。種別はゴーゴン」

 そこまでーー!? まさかの部下の情報収集力に驚愕するアトライアス。なんだか、だんだん怖くなってきた。

「かなりの力を有する存在だ。シュロウガが聴取を行った限りは魔王軍に敵意はないということだったが危険性は高い。故に陛下にも同席を願った」

「それほど強力な力を持つものなら、何かしら対処が必要では?」

 七将筆頭シェスティアルが意見を述べる。第三の目を持つ彼女は2つの目でカエリウスを額にある第三の目でアトライアスを見ていた。

「それほど強力って、シュロウガを倒した程度じゃろう? お主の方がよほど凶悪じゃろうが」

 扇子で口元を隠し呟く翁姫、シェスティアルの3つの目が翁姫に向けられる。

「相変わらずだな女狐、そんなことだから貴様は3流なのだ」

「のほー!! 言いよったなお主! わらわは三魔将じゃぞ!!」

「貴様では七将筆頭は務まらんから私が勤めているにすぎん、貴様こそ、少しは立場をわきまえたらどうだ?」

 いがみ合いを始める2体の魔将。この2人は実は実力的には同格の魔将なのだ。貴族出身で統率力が高いシェスティアルを七将筆頭に選んだのだが、その理由を本人に話したのがよくなかった。事あるごとに、どっちが上かでもめる、もめる。女同士というのもあるのだろうライバル意識がバチバチなのだ。

「確かに魔将がやられたんだ、警戒すべきだよな」「刀剣の巫女みたいにか?」「誰がやるんだ、担当魔将的にはシュロウガとデミトリだが……」「シュロウガがこんなざまじゃな、これ以上デミトリに負担をかけられないだろう?」思い思いのことを口走る魔将たち、恐らくシェスティアルと翁姫の喧嘩で気が抜けたのだろう。もはや雑談場だ。

「……」

 あまりの事態に、カエリウスが立ったまま頭を抱えていた。やれやれ仕方ない――

「静まれ!!」

 たまには部下の仕事を減らしてやるかと声を上げる。瞬く間に静かになる謁見の間、素早く跪くシェスティアルを見て、慌てて跪く翁姫。

「シュヴェリアと言ったか、その男、我らに歯向かうつもりはないのだな?」

「――っ」

 カエリウスが答えようとして言葉を呑んだ。アトライアスがシュロウガの方を見ていたからだ。

「ハ、聴取シタ限リデハソウデス」

「そうか、そして、シュロウガも殺さなかった、と」

「陛下?」

カエリウスが疑問の声を上げると、彼の方を向きアトライアスは続けた。

「その気になればシュロウガを殺せたにも拘らず、シュロウガを殺さなかった。我々と敵対したくなかったからでは?」

 アトライアスの笑みに、カエリウスに嫌な予感が走った。

「シュヴェリアに関しては無害と判断していいのではないか? 我々に害のないところで強者が暴れても何も問題はない」

 ざわつく魔将たち、代表してカエリウスが異議を申し立てた。

「陛下、しかし、すでに実害が――」

「シュロウガ、手を出したのはどちらからだ?」

 アトライアスの問いに、答えるシュロウガ。

「私カラデス、黒キ英雄ノ力ヲ調ベル必要ガアルト思イマシタ」

 恐縮するように言うシュロウガに「よい、間違った判断ではない」と続ける。

「だそうだが」

「……手を出さなければ無害だったと?」

「私はそう思う」

考え込むカエリウス。ウロフェスが手を上げる。

「陛下、意見を述べる機会をいただきたく」

「良かろう」アトライアスの返事を聞き、立ち上がるウロフェス。

「陛下の今の意見は希望的観測が多く含まれていると思います。シュロウガを殺さなかったのは殺さなかったのではなく、殺せなかったのではないでしょうか?」

「というと?」

「単に余力がなかったのではないでしょうか、シュロウガに致命的な一撃を与えたがそれが彼らの限界だったのです」

「なるほど、よくわかった。ウロフェス、ではその程度の敵に我々が警戒レベルを上げる理由を説明してくれ」

「……」

言葉を呑むウロフェス、アトライアスはにやりと笑う。

「もうよいぞ」

「……は」

 ウロフェスが跪くのを確認し、アトライアスは続ける。

「他に意見のあるものは居るか?」

 手を上げるものは誰もいなかった。

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