天使はゲームセンターで微笑む
上野の美術館を出ると、俺たちはアメ横へと向かった。
ゴールデンウィーク中のアメ横は、まさに人、人、人の大洪水だった。
通りの両側には、威勢のいい掛け声を上げる店員たち。食べ歩きを楽しむ観光客。土産物を物色する家族連れ。
あちらこちらから聞こえてくる声が入り交じり、独特の賑わいを生み出していた。
「わあ……! すごい人ですね!」
ソフィアは、目を輝かせながら周囲を見回した。
「そうだな。さすがはゴールデンウィークだ」
「皆さん、とても楽しそうです」
「まあ、せっかくの連休だからな」
俺は、隣を歩くソフィアに目を向けた。
淡いピンク色のブラウスに、黒いロングスカート。
その清楚な装いは、雑踏の中でも不思議と目を引いた。
……まったく。
こんな可愛い女の子と二人で歩いているなんて、以前の俺なら考えもしなかった。
しかも、今日はデートだ。
そう思うだけで、胸の奥がむず痒くなる。
「哲夫さん、あれですか?」
ソフィアが指さした先には、色とりどりの看板が輝く建物があった。
ゲームセンターだ。
「ああ。あそこだな」
「わあ……!」
彼女は、嬉しそうに両手を合わせた。
「ずっと来てみたかったんです!」
「そんなに憧れるような場所か?」
「はい!」
即答だった。
「教会では、あまりこういう場所に来る機会がありませんから」
「……なるほどな」
まあ、シスターがゲームセンターに入り浸っている姿なんて、あまり想像できない。
俺は、入口の自動ドアを指さした。
「じゃあ、行くか」
「はい!」
こうして俺たちは、ゲームセンターへ足を踏み入れた。
◇
店内へ入った瞬間。
ピコピコピコ!
ジャラジャラジャラ!
ドンドンドン!
「……うおっ」
思わず、顔をしかめた。
あちらこちらから、電子音や効果音が押し寄せてくる。
色鮮やかな照明。
点滅するゲーム機。
景品を抱えて喜ぶ子供たち。
まるで、音と光の洪水だ。
「……すごいですね!」
ソフィアは、目を丸くした。
「こんなに賑やかな場所だったんですね!」
「まあ、ゲームセンターだからな」
「ふふっ。なんだか、お祭りみたいです」
彼女は、嬉しそうに周囲を見回した。
……本当に楽しそうだな。
その様子を見ているだけで、俺まで嬉しくなってくる。
「まずは、一階から見て回るか」
「はい!」
一階には、クレーンゲームがずらりと並んでいた。
犬。
猫。
ウサギ。
パンダ。
キリン。
大小さまざまなぬいぐるみが、透明なケースの中に並べられている。
「わあ……!」
ソフィアは、一台ずつ覗き込んでいった。
「可愛いですね!」
「……そうか?」
「はい! この猫さんなんて、とても愛らしいです」
彼女は、嬉しそうに微笑んだ。
……まったく。
ぬいぐるみを見るだけで、こんなに喜ぶのか。
教会では、いつも子供たちの面倒を見ているソフィア。
だが、こうしていると、彼女も普通の女の子なのだと改めて思う。
そんなことを考えていると。
「あっ!」
ソフィアが、突然足を止めた。
「……ん?」
「哲夫さん! 見てください!」
彼女が指さしたのは、一台のクレーンゲームだった。
中には、パンダのぬいぐるみが並んでいる。
だが、そのパンダは少し変わっていた。
丸い体。
半開きの目。
だらしなく伸ばされた手足。
そして、何もかも面倒くさそうな表情。
……なんだ、こいつ。
「……ずいぶん、気だるそうなパンダだな」
「ふふっ。可愛いですね!」
「……可愛いか?」
「はい!」
ソフィアは、にっこりと微笑んだ。
「なんだか、哲夫さんに似ています」
「…………」
……は?
「……ちょっと待て」
「はい?」
「俺、こんな顔してるか?」
「ふふっ。少しだけ」
「……少しだけ?」
「はい。特に、朝起きたばかりの哲夫さんにそっくりです」
「……おい」
俺は、思わずぬいぐるみを見つめた。
半開きの目。
気の抜けた口元。
やる気のなさそうな姿勢。
……いや。
……否定できないのが、腹立たしい。
「……わかった」
俺は、小さくため息をついた。
「じゃあ、こいつを取ってやるよ」
「……え?」
「気に入ったんだろ?」
「はい。でも……」
ソフィアは、少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「無理をしなくても大丈夫ですよ?」
「心配するな」
俺は、胸を張った。
「こういうのは、結構得意なんだ」
……まあ、嘘ではない。
悪魔だったころ、人間の娯楽については一通り調べていたからな。
クレーンゲームの仕組みくらい、理解している。
俺は両替機へ向かい、千円札を百円玉に替えた。
そして、問題のクレーンゲームの前へ戻る。
「……よし」
硬貨を投入。
電子音が鳴り、クレーンが動き始めた。
「……ここだな」
俺は、慎重に位置を合わせた。
狙うのは、気だるそうに寝転がったパンダの胴体。
ボタンを押す。
ウィーン。
クレーンが下降する。
アームがパンダをつかんだ。
「……おっ!」
ソフィアが、期待に満ちた声を上げる。
だが。
ぽとっ。
「あっ……!」
パンダは、途中で落下した。
「……残念でしたね」
ソフィアが、少し寂しそうに言った。
しかし、俺は首を横に振った。
「いや、問題ない」
「……え?」
「今ので、少し動いた」
俺は、景品の位置を確認した。
パンダは、最初よりも取り出し口に近づいている。
「一度で取れなくても、少しずつ動かせばいいんだ」
「……なるほど!」
ソフィアは、感心したように頷いた。
「奥が深いんですね!」
「まあな」
俺は、もう一枚硬貨を投入した。
再びクレーンを動かす。
だが。
ぽとっ。
「…………」
もう一度。
ぽとっ。
さらにもう一度。
ぽとっ。
「…………」
……おかしい。
理屈では、もっと簡単に取れるはずなんだが。
「哲夫さん、頑張ってください!」
ソフィアが、隣で応援している。
……くそっ。
ここで諦めるわけにはいかない。
好きな女の子の前で、格好悪いところなんて見せられるか。
「……次こそ!」
俺は、クレーンを操作した。
アームが下降する。
パンダの体が持ち上がる。
そして。
ころん。
景品は、取り出し口へ落ちた。
「……おおっ!」
「やりました!」
ソフィアが、嬉しそうに声を上げた。
俺は、景品を取り出した。
「……ふう」
ようやく取れた。
使った金額は、千円。
……まあ、悪くない結果だろう。
「ほら、ソフィア」
俺は、パンダを差し出した。
「プレゼントだ」
「……え?」
ソフィアは、目を丸くした。
「私に、ですか?」
「ああ」
「……本当に、いいんですか?」
「そのために取ったんだからな」
すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「……ありがとうございます!」
ソフィアは、両手でパンダを受け取った。
そして、大切そうに胸元へ抱き寄せる。
「……ふふっ」
その表情は、まるで宝物を手に入れた子供のようだった。
……まったく。
千円で、こんな笑顔が見られるなら安いものだ。
「……そうだ!」
ソフィアが、何か思いついたように顔を上げた。
「この子に、名前をつけましょう!」
「……名前?」
「はい!」
彼女は、パンダを見つめた。
しばらく考え込んだあと、満面の笑みを浮かべる。
「……決めました!」
「……何だ?」
「てつお、です!」
「…………」
……は?
「……ちょっと待て」
「はい?」
「……今、何て?」
「てつおです」
ソフィアは、当然のように答えた。
「哲夫さんに似ていますから」
「……いやいやいや」
俺は、思わず顔をしかめた。
「何で、俺の名前なんだよ!」
「ふふっ。可愛いじゃないですか」
「……可愛いって」
「はい」
彼女は、パンダをぎゅっと抱きしめた。
「これで、いつでも哲夫さんと一緒ですね」
「…………」
……っ!
おい。
待て。
その言い方は、反則だろう。
顔が熱くなる。
心臓が、妙にうるさい。
……くそっ。
なんで、ぬいぐるみに自分の名前をつけられただけで、こんなに動揺するんだ。
「……つ、次だ!」
俺は、慌てて話題を変えた。
「次の階へ行くぞ!」
「はい!」
ソフィアは、嬉しそうに頷いた。
その腕には、気だるそうなパンダ。
……俺に似ているらしい、もう一人の哲夫が抱かれていた。
◇
二階へ上がると、そこには体感型ゲームが並んでいた。
レースゲーム。
シューティングゲーム。
リズムゲーム。
そして、パンチングマシン。
「……さて」
俺は、周囲を見回した。
「ソフィア、何かやってみたいものはあるか?」
「はい!」
彼女は、迷うことなく一台のゲーム機を指さした。
「これです!」
「……ん?」
俺は、その先を見た。
そこにあったのは。
パンチングマシン。
「…………」
……は?
「……ソフィア?」
「はい?」
「……これ、何をする機械かわかってるか?」
「もちろんです」
彼女は、にっこりと微笑んだ。
「的を叩いて、点数を競うんですよね?」
「……まあ、そうだな」
「一度、やってみたかったんです!」
……おいおい。
初めてのゲームセンターで、真っ先にパンチングマシンを選ぶシスターがいるか?
普通、もっとこう……可愛らしいゲームを選ぶものじゃないのか?
「……ちなみに、どこで知ったんだ?」
俺が尋ねると、ソフィアは人差し指を唇に当てた。
「ふふっ」
そして、悪戯っぽく微笑んだ。
「乙女の秘密です」
「……そうかよ」
……まあ、本人が楽しそうならいいか。
「じゃあ、やってみるか」
「はい!」
ソフィアは、硬貨を投入した。
機械が起動し、的が現れる。
彼女は備え付けのグローブを装着した。
「……よいしょ」
そして、軽く腕を振る。
シュッ。
シュッ。
……ん?
俺は、思わず眉をひそめた。
今の動き。
妙に綺麗じゃなかったか?
足の位置。
体の向き。
拳の構え方。
……おいおい。
まさか。
そのときだった。
「おいおい、見ろよ」
近くにいた若者たちが、こちらを見て笑い始めた。
「あのお嬢ちゃん、パンチングマシンに挑戦してるぜ」
「細い腕で、どれくらい点数が出るんだろうな」
「お兄さんが教えてあげようか?」
……面倒くさい連中だな。
俺は、ため息をついた。
だが、ソフィアは気にした様子もなかった。
「……では、いきますね」
「あ、ああ」
彼女は、軽く息を整えた。
そして。
「……えいっ!」
――ドゴンッ!
「…………!?」
思わず、耳を疑った。
鈍い衝撃音が、辺りに響き渡る。
的が大きく揺れ、機械の画面に数字が表示される。
だが、次の瞬間。
『ERROR』
「…………」
……は?
「……あら?」
ソフィアは、不思議そうに首を傾げた。
「機械の調子が悪いのでしょうか?」
「……いやいやいや!」
俺は、思わず叫んだ。
「ソフィア! 今の、何だよ!」
「……え?」
「何で、そんな威力が出るんだ!?」
「……そうでしょうか?」
彼女は、きょとんとした顔をしている。
「普通に叩いただけなのですが……」
……普通?
あれが普通?
……冗談だろ。
俺は、先ほどの若者たちへ目を向けた。
「…………」
全員、口を開けたまま固まっていた。
そして、俺と目が合った瞬間。
「……い、行こうぜ」
「……お、おう」
そそくさと立ち去っていった。
……まあ、そうなるわな。
俺だって、驚いているんだから。
「……ソフィア」
「はい?」
「……お前、そんなに力が強かったのか?」
「ふふっ」
彼女は、少し照れくさそうに微笑んだ。
「昔から、護身術を習っていましたので」
「……護身術?」
「はい。清水神父に教えていただいたんです」
「……あの神父が?」
「はい!」
……なるほど。
清水神父。
あの人、いったい何者なんだ?
……いや、今は考えないでおこう。
世の中には、知らないほうが幸せなこともある。
「……と、とにかく」
俺は、咳払いした。
「次のゲームへ行こう」
「はい!」
ソフィアは、楽しそうに頷いた。
……まったく。
今日一日で、彼女の知らない一面をいくつ見ることになるのだろうか。
◇
次に向かったのは、レースゲームだった。
大きなモニター。
ハンドル。
アクセルペダル。
そして、スポーツカーの形をした座席。
「……これなら、普通に遊べそうだな」
俺は、ほっと息をついた。
「ソフィア、運転ゲームは初めてか?」
「はい。こういう大きな機械で遊ぶのは初めてです」
「……そうか」
「でも、車のゲームは少しだけ知っていますよ」
「……ん?」
「教会に、昔使っていたゲーム機があるんです」
ソフィアは、嬉しそうに微笑んだ。
「子供たちと一緒に、たまに遊ぶんですよ」
「……なるほど」
そういうことか。
ゲームセンターには来たことがなくても、ゲームそのものは経験しているらしい。
「……じゃあ、勝負するか?」
「はい!」
ソフィアは、目を輝かせた。
「負けませんよ!」
「……おっ?」
珍しく、やる気満々だな。
俺たちは、並んで座席についた。
硬貨を投入。
車種を選択。
コースを決定。
そして。
『THREE!』
『TWO!』
『ONE!』
『GO!』
「……よし!」
俺は、アクセルを踏み込んだ。
画面の中で、車が勢いよく加速する。
最初のカーブ。
俺は、慎重にハンドルを切った。
……まあ、こんなものだろう。
だが。
「……あれ?」
隣を見ると、ソフィアが妙に落ち着いた表情でハンドルを握っていた。
そして。
キュキュキュッ!
見事なドリフト。
「……は?」
俺は、思わず声を漏らした。
「……ソフィア?」
「はい?」
「……お前、初めてなんだよな?」
「はい。この機械は初めてです」
「……その割には、うますぎないか?」
「ふふっ。ありがとうございます」
彼女は、楽しそうに微笑んだ。
……いやいや。
褒めている場合じゃない。
ソフィアの車が、俺の車を追い抜こうとしている。
「……くそっ!」
俺は、アクセルを踏み込んだ。
負けられるか!
こっちだって、悪魔の王子だった男だぞ!
……まあ、悪魔の王子とレースゲームの腕前に、何の関係があるのかは知らないが。
「……行くぞ!」
「はい!」
俺たちは、画面の中で激しい競争を繰り広げた。
直線では、俺がわずかにリード。
カーブでは、ソフィアが追い上げる。
抜きつ抜かれつの接戦。
そして。
『FINISH!』
「……っしゃ!」
俺は、思わず拳を握った。
一位。
俺が一位だった。
ソフィアは、僅差で二位。
「……ああ、負けちゃいました」
彼女は、少し残念そうに笑った。
「……危なかった」
俺は、深く息を吐いた。
「本当に、危なかったぞ」
「ふふっ。哲夫さん、お上手ですね」
「いや、お前のほうが怖いよ」
「……そうですか?」
「ああ。初めての機械で、あそこまで走れるとは思わなかった」
俺は、肩をすくめた。
「手加減なんて、する余裕もなかった」
「……本当ですか?」
「ああ」
すると、ソフィアは嬉しそうに微笑んだ。
「では、次は勝ちますね!」
「……おいおい」
……なんだ、この負けず嫌いなシスターは。
普段は、あんなにおっとりしているのに。
ゲームになると、急に勝負師になるらしい。
……面白いな。
俺は、思わず笑ってしまった。
◇
「……では、次はこちらです!」
ソフィアが指さしたのは、二人用のシューティングゲームだった。
タイトルは。
『ゾンビパニック』
……おい。
今度は、ゾンビかよ。
「……ソフィア」
「はい?」
「……怖くないのか?」
「……何がですか?」
「いや、ゾンビだよ」
画面には、暗い洋館が映し出されていた。
不気味な音楽。
突然現れる怪物。
そして、プレイヤーを襲うゾンビたち。
普通の女の子なら、少しくらい怖がってもおかしくない。
だが。
「ふふっ」
ソフィアは、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ」
「……そうか?」
「はい。ゲームですから」
「……なるほど」
……強い。
精神的にも、強い。
俺は、思わず感心した。
「……じゃあ、やるか」
「はい!」
俺たちは、硬貨を投入した。
画面が暗転する。
そして。
『GAME START!』
ゲームが始まった。
画面の奥から、ゾンビたちが次々と現れる。
「……よし!」
俺は、銃型コントローラーを構えた。
画面に照準を合わせ、トリガーを引く。
バン!
バン!
敵が倒れる。
……ふむ。
久しぶりだが、なかなか楽しい。
だが。
「……えいっ!」
隣から、軽やかな声が聞こえた。
ソフィアだった。
彼女は、落ち着いた表情で画面を見つめている。
そして。
バン!
バン!
バン!
次々と敵を倒していく。
「……おいおい」
俺は、思わず目を丸くした。
「ソフィア、うますぎないか?」
「……そうでしょうか?」
「……いや、どう考えてもうまいだろ!」
画面に表示されたスコアを見る。
俺の得点。
そして、ソフィアの得点。
……倍近く違う。
「……お前、本当に初めてなのか?」
「ふふっ」
ソフィアは、楽しそうに微笑んだ。
「似たようなゲームなら、教会で遊んだことがありますよ」
「……なるほど」
……また、清水神父か。
あの人、教会でいったい何を教えているんだ?
祈りか?
聖書か?
それとも、ゲームの攻略法か?
……わからん。
「……でも、哲夫さん」
「……ん?」
「そちらから、敵が来ていますよ」
「……え?」
画面を見る。
目の前に、ゾンビ。
「……うおっ!」
俺は、慌ててトリガーを引いた。
間一髪。
敵を倒す。
「……危なかった」
「ふふっ。油断は禁物ですよ」
「……はいはい」
……まったく。
どっちが初心者なんだか。
◇
ゲームは、順調に進んでいった。
ソフィアの正確な射撃。
俺の素早い対応。
二人で協力しながら、次々とステージを突破していく。
そして。
『FINAL STAGE』
ついに、最終ステージへ到達した。
「……おっ」
俺は、画面を見つめた。
「いよいよ、最後か」
「はい!」
ソフィアは、嬉しそうに頷いた。
画面の奥から、巨大なボスが姿を現す。
その周囲には、次々と攻撃が飛び交っていた。
「……なるほど」
俺は、画面を確認した。
どうやら、ボスには攻撃できるタイミングが限られているらしい。
しかも、こちらへの攻撃も激しい。
「……ソフィア」
「はい?」
「……役割を分けよう」
「……役割?」
「ああ」
俺は、画面を指さした。
「俺が、こっちに飛んでくる攻撃を処理する」
「……はい」
「お前は、ボスの弱点を狙ってくれ」
ソフィアは、一瞬だけ考え込んだ。
そして。
「……わかりました!」
力強く頷いた。
「哲夫さん、お願いします!」
「ああ。任せろ!」
ゲーム再開。
ボスが、激しい攻撃を仕掛けてくる。
「……よし!」
俺は、次々と攻撃を撃ち落とした。
その隙に。
「……えいっ!」
ソフィアが、ボスの弱点へ攻撃を当てる。
画面に、大きなダメージ表示が現れた。
「……いいぞ!」
「はい!」
再び、ボスの攻撃。
俺が防ぐ。
ソフィアが狙う。
その繰り返し。
気づけば、近くにいた客たちが、俺たちのプレイを眺めていた。
「……すげえ」
「あの二人、めちゃくちゃうまくない?」
「……もう少しでクリアだぞ!」
周囲から、声が上がる。
だが、今の俺には、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「……ソフィア!」
「はい!」
「……今だ!」
「……えいっ!」
ソフィアが、最後の一撃を放った。
画面に、大きな文字が表示される。
『MISSION COMPLETE!』
「……っしゃあ!」
俺は、思わず叫んだ。
「やったぞ!」
「はい!」
ソフィアも、嬉しそうに笑った。
「やりましたね、哲夫さん!」
「ああ!」
俺たちは、顔を見合わせた。
そして。
「……いえーい!」
ぱんっ!
互いの手のひらを合わせた。
……ああ。
楽しい。
本当に、楽しい。
たかがゲーム。
ただの娯楽。
そう思っていた。
だが、誰かと協力して、同じ目標を達成する。
それだけで、こんなにも嬉しいものなのか。
……人間というのは、面白い生き物だな。
俺は、思わず笑ってしまった。
「……楽しかったですね!」
ソフィアが、満面の笑みを浮かべた。
「ああ。最高だったよ」
「ふふっ。また、来たいです」
「……そうだな」
俺は、彼女を見つめた。
「また、一緒に来よう」
「……はい!」
ソフィアは、嬉しそうに頷いた。
その腕には、気だるそうなパンダのぬいぐるみ。
名前は、てつお。
……まったく。
俺の分身みたいなものを、そんなに大切そうに抱くなよ。
こっちまで、恥ずかしくなるじゃないか。
だが。
……悪くない。
むしろ、嬉しい。
俺は、今日という日を、きっと忘れないだろう。
ゴッホの《ひまわり》を見たこと。
ソフィアと一緒に食事をしたこと。
そして、こうしてゲームセンターで笑い合ったこと。
どれも、以前の俺には想像もできなかった時間だ。
……そうだ。
俺が守りたいのは、こういう日常なのだ。
誰かと笑って。
誰かと喜んで。
明日もまた、一緒に過ごしたいと思える。
そんな、当たり前の幸せ。
それを、もう失いたくない。
……だから。
俺は、絶対に教会を守ってみせる。
そして、いつかまた。
ソフィアと、こうして笑い合える日を迎えるのだ。
――たとえ、俺が悪魔だったとしても。
――今は、ただの人間だったとしても。
この幸せだけは、絶対に手放したくなかった。




