22.真実
あぁそうか、やっとわかった。
あの子は私の弟じゃない。
普段は気丈に振る舞っているけれど意地っ張りで泣き虫で寂しがりやで自分を蔑ろにされても自分以外の命を助けようとした誰よりも優しい子。
私が何よりも守りたかった存在。
「君だったんだな、レイモンド」
そうやって君は最後まで私を諦めないでいてくれたんだな。
「主さまっ!」
ぽんっと弾ける音がして闇の中に現れた火の精霊、レアが胸に飛び込んできた。もう以前のような小鳥の姿ではない、ハヤブサのような本来の姿を取り戻していた。
「レア、すまない。苦労をかけた・・・カノアは最後まで私を守ろうとして消えてしまった」
自分の相棒であった精霊のうち、風の精霊であったカノアは私のために力を使い切って消えてしまった。自責の念にかられていると腕の中にいるレアが首を振った。
「いいえ、いいえ。契約したときより私は主さまのもの。カノアだって同じ気持ちです。あなたの心が選んだ行く先がどこであっても後悔などありません」
兄のように慕っていた精霊がいなくなってしまってもレアは気丈に私を励ます。末っ子のように甘えん坊で私たちの後をついてまわっていた彼女の姿はそこにない。
「ありがとう。レイモンドのことも守ってくれたんだな」
「はい。ですが主さまの魂が食べられてからは動けなくなってしまって・・長い間彼が面倒を見てくれました」
「いいや、よくやってくれた。君は私の願い通りレイモンドを逃してくれたのだから。責められるべきは私の方だ・・・神に逆らって君たちを危険に晒したのだから」
レイモンドを救ったことに後悔はない。けれどそれはあまりに無謀なことだった。私の選択のせいで大切な契約精霊を失ってしまったのだから。
私の言葉にレアが腕から飛び立つと目の前で羽ばたいた。
「いいえ、主さま。まだ大切なことを思い出せていません、なぜ主さまが無謀でも1人で立ち向かったのか。主さまは気づいたんです。神と呼ばれる存在の異変に」
「異変?」
「神は太古の昔から存在し、人間と私たち精霊を見守ってくださいました。神が人に信託をおろし、人は神を崇めていたんです。けれどいつの頃からか信託は人のためのものではなくなってしまった」
「・・・私は・・何に気づいたんだ?」
「ここは奴の体内、つまり主さまの魂がある場所です。魂は元の持ち主に引き寄せられます。強く願ってください、そうすれば主さまの魂は主さまのもとへ帰ってきます」
レアの言葉にそっと目を閉じた。自分が気づいたという事実を求めて祈ると閉じた瞼に光が差した。目を開けるとそこには先ほどと同じような光が目の前に現れた。
吸い寄せられるように目の前に現れた光に触れる。
それは私の記憶だった。再び目の前に現実のような幻が現れ、そこには私と今よりも幾分か年若いカイルがいた。
「団長。何故神はレイモンドを生贄に求めたのでしょう」
「何故って・・そりゃ教皇の息子だからじゃないか?神が人間に慈悲を与えるかわりに人間が生贄を差し出す。昔からそういうもんだ」
「生贄を求められるのも納得できませんが今までは一度に何人も生贄を求められてきた。それが今回求められたのはレイモンド1人だけです。それも不可解です」
「多くの犠牲を出さなくて済むならそれでいいじゃねぇか。あんまりあの子供に肩入れするんじゃねぇぞ」
「・・・」
場面が切り替わり私は1人で机に向かっていた。
「どうして我々は生贄を求められるんだ。神託は何故変容してしまったんだ」
手当たり次第に文献を漁る。
机の上に積まれている文献はどれも古く文字が擦り切れそうなものばかり。それでもわずかな手がかりも見逃さないように目を凝らしていた。
女神によって生み出された人間と精霊
神託の変容
咲かない神の花
求められてきた多くの生贄
レイモンドを求める神の思惑
レイモンドの処刑に使われるかつて魔を払うはずだった聖剣
「もし、この仮説が正しいとすれば全ての辻褄が合う。あれは、我々が神と崇める存在は・・」
ハッと現実に戻ってきて思い出した。
「あれは神ではない。偽物にすり替わっている」
そうだ、だから私は無謀でも抗ったんだ。処刑に使われるはずだった聖剣を使って奴を打ち滅ぼすために。
「主さま、あの子の元へ参りましょう。彼は主さまを取り戻すために必死に戦っています。けれどこのままでは勝てない」
そうだ、彼は今も戦っているんだ。味方のいなくなった絶望的な状況でも運命に抗おうと必死に足掻いている。
「主さまの魂を補填していた彼の力を返しに行くのです。道案内は頼みましたよ」
ピューイとレアが一声鳴くと身体から金色の光がふわりと浮かび上がり、飛んでいった。
「さぁ、参りましょう!主さま!」
「あぁ!」
真っ黒な闇のなか、一番星のように輝く光を頼りに走り出した。
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