12.聖女の憂鬱
「どうして・・」
苛立ちながら呟いた。最近、思うように上手くいかない。全てはあの女が枢機卿の婚約者としてこの教団にやってきてからだ。
「・・・アルフレド、レイモンド様を惑わすあの女についての調べはついてたの?」
「・・・・・申し訳ありません」
これで何回目だろう。まるで壊れたおもちゃみたいに問いかけても同じ答えしか返ってこない。そのことが余計に私を苛立たせる。枢機卿の婚約者として突然やって来たあの女は小さな歯車みたいに私の周囲の動きを乱していく。
(こんなこと今までなかったのに・・)
全部、全部あの女のせい。神の代行者として授けられたの自分の力が弱まっているのを感じる。いや、実際には弱まっていない。でもまるで本能的にあの女の存在を忌避するみたいに思うように力をふるうことができない。
「一体何者なの・・・」
その存在を暴こうとしてもここでは絶対的な権力を誇る枢機卿の守りがある。アルフレドが接触してからというものその守りはさらに強固なものになってしまったため、うかつに近寄ることすらままならない。
「どうしたら・・」
ままならない思いにイライラしているとまるで部屋の主の機嫌を伺うように控えめにドアがノックされた。
「何?」
苛立ちをあらわにしたまま問いかけると扉の向こうから遠慮がちな声がした。
「聖女様、祭事のお召し物をお持ちしました」
「入って」
入室の許可をすると傍仕えにしている神官の1人が衣装を抱えて入ってきた。壊れものを扱うように丁寧に運ばれているそれはもうすぐ行われる祭事で纏う聖女の衣装だった。普段は閉ざされた環境にある教団も、その祭事のときだけは国民が気軽に訪れることができる場所になる。皆、神に感謝を捧げながら普段はその姿を見ることすら叶わない聖女を見にやってくるのだ。
(祭事・・・そうだわ)
まるで天啓を受けたように思いついた。
「ねぇ、枢機卿は儀式のとき以外祭事に触接関わる予定はなかったわよね」
私の言葉に振り返った傍仕えは頷いて肯定する。
「はい、その予定です。なにせ今年は婚約者様がおりますから城下の祭りを見物に行くのかもしれません。聖女様もシュヴェリエ卿と出かけられるのですか?」
返ってきた答えに自然と口角が上がっていくのがわかる。
「・・・えぇ、そうしようかしら。せっかくの祭りですからね」
「楽しんでいらしてください」
(そうよ、何故思いつかなかったのかしら)
守りが固いのなら、その守りから抜けた瞬間を狙ってしまえばいい。人が賑わう祭事ならまたとないチャンスだ。これまでのイライラが嘘のように気分が晴れやかなものになっていく。
「嬉しそうですね、聖女様」
何か勘違いをしたらしい神官が呑気に微笑んでいる。その滑稽さにも笑いがこみあげてきた。
「えぇ、とっても。今からそのときが待ちきれないわ」
これまでのように私の思い通りにするために、あの女を婚約者から引きずり下ろすための計画を頭に思い浮かべた。
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