告白
「あずまさんは、なんの仕事をされてるんですか」
私がそう言うと、東さんが眉をひそめてこちらに顔を向ける。
「急になんだ。別になんでもいいだろ」
ぶっきらぼうにあずまさんが答える。
だけど、さっきまでのとげとげしさはなく、少し柔らかな雰囲気になっているように感じた。
「教えてください」
「なんでだよ」
「知りたいからです」
「だからなんだよ、それ」
「...... 」
数時間一緒にいたことで、あずまさんは実は押しに弱いことに気づいていた私は、一歩も退かないという雰囲気を醸し出した。
「はあ、金属いじって色々と作ってる」
ほら、やっぱり。
「職人ってやつですか?」
「まあ、一応そうだな」
「すごいですね」
「いや、やり方さえ覚えりゃ誰でもできるよ」
「私でも?」
「なんだ、興味あんのか」
少し彼の声色が変わった気がした。
「いえ、そういうわけじゃないんですけど」
「なんだよ。まあ、簡単なものならいけんじゃねーか」
「なるほど...... 」
「お前から聞いてきたくせに、興味なさそうだな」
「すみません...... 」
気まずくなった私は、空気を変えようと別の話をする。
「今日はお休みだったんですか?」
「いや、今は休業中だ」
「そうなんですか」
「ああ。最近、社長が死んじまって。俺の親父みたいな人だったんだけどな。それで
従業員も俺一人だから、今は休業してんだ」
「すみません...... 」
こっちのルートもダメだったと心の中で反省する。
「気にすんな」
そう言うあずまさんのほうに視線を向けてみると、顔には出ていなかったけど、彼
から少し物寂しさを感じた。
「おまけに借金付きでよ、だから逃げてきた」
「...... じゃあ、同じですね」
「え?」
あずまさんは、私のほうに小さく首を向けた。
「私も逃げてきたので」
「...... 」
「お前も—— 」
「あの、そのお前ってやつやめてほしいです」
彼の言葉を遮りそう言うと、あずまさんは苦虫をかみ潰したような顔で少し考え込む。
「名前、なんだっけ」
「覚えてるくせに」
「...... アカリは、何から逃げてきたんだ」
「病院です」
彼が名前で呼んでくれたことが少し嬉しかったこともあり、私は間を置かずに即答する。
「病院って、お前、どこか悪いのか」
「私、もうすぐ死ぬんですよ」
私は淡々と答えた。そう、さっき言おうとした言葉を。
彼はこちらを一瞥することもなく何も返してこない。
私は逆にそれがありがたいと思った。
「私、心臓が悪くて高校の時から今までずっと入院してたんですよ。でもこの前、あ
と一年生きられるかどうかって言われて。それでなんだか馬鹿らしくなって、逃げて
きました」
私がそう言うと車内は静まり返った。
ややあって、彼が口を開く。
「...... そうか。誘拐して悪かった」
「ほんとですよ」
「帰るか?」
冗談っぽく彼が聞く。
「帰してくれるんですか? それにせっかくここまで来たんですし、大丈夫です」
「親御さんは大騒ぎだろな」
「はい、さっき送ったメッセージもすぐに嘘だってバレてるでしょうし」
「連絡は来てないのか」
「電源切ってるので、分からないです」
私はスマホの暗い画面をあずまさんに見せる。
「そうか」彼は顔を前に戻すと、淡々と返事をした。
「なあ、アカリ」
「はい」
「一緒に死ぬか」
この言葉を最後に、会話はそこで途切れる。
車内は私たちの息遣いと、わずかに聞こえてくる車の走行音だけが静かに響いていた。




