【終話】洗礼と理
朝も遅い時間。
満足そうに俺にくっついているリニに、俺は気になっていたことを尋ねてみる。
「あのさ、昨日の発熱って鉱石化の副作用なの?」
くっついたまま上目遣いに俺の方を見上げてくるリニ。少し、首を傾げている。まるでそんなことが気になるの、と言わんばかりの仕草だ。
しかし、ちゃんと俺の質問に答えてくれる。
「そう」
いつのリニなら、お返事はそれだけだろう。ただ、今はとても満たされた笑みを浮かべながら、追加で答えてくれる。
「命ある肉へ、戻る。過剰に力が溢れるから」
「──ああ、なるほど?」
俺はせっかくのリニの説明だが、十全には理解しきれない。
たぶん、石から肉へと戻ることで生命力的なものが過剰に溢れ出す、的な感じなのかなと推測する。
それが熱となってしまうのだろう。
「いつもは、戦って発散。でも、昨日のは激しくて。シドが危険かとおもった」
そういって、額を俺の腕にグリグリとこすりつけてくるリニ。
──確かに、昨晩は激しかった……いや、そこじゃないそこじゃない。体を動かして、溜まった熱を発散する感じなのかな? それにしても、俺の身を案じてくれたのか……
俺はさまざまな思いが胸にくるも、結局最後にまさったのは、あんな状態でもリニが俺のことを気遣ってくれていたということだった。
「あのさ、リニはどうして、俺を、その……」
何と言うのが正解か、悩む。
「選んでくれたの?」
質問してから、急にドキドキしてくる。おこがましいことを言っていないか、今さら怖くなってきた。
「……シドが助けてくれたから」
「ああ、昨日のスケルトンの時ってこと?」
俺は選んでないよという返事が来なかったことで、安堵してしまう。
「ううん。もっと前」
「前……校外学習の前か」
「そう。誰も私を助けることは出来ないはずなのに。シドは助けてくれた。シドは違った」
「助けることが、出来ないの?」
リニが何を言っているのか、急にわからなくなる。
「それが、理」
「──えっ?」
「シドは、洗礼されていて、洗礼されていない。だから、助けられたんだと、思う。そこで、助けることを、選んでくれたから」
ぎゅっと俺に抱きつくリニの力が強くなる。それはまるで幼子のような抱きつき方だった。
一方俺は、今、リニから言われたことで大いに混乱していた。
──洗礼されている、のは俺の転生してくる前のシド=アニキスで、俺自身は洗礼されてないってことだろうけど……。洗礼されていると、理によってリニを助けられない、だって?
俺はそこでふっと嫌なことに気がついてしまう。
──もしかして、洗礼による理って、この世界をゲームの設定の世界たらしめている物なのか? リニがゲーム通り裏ボスへなるのを妨げないように、この世界の洗礼された人間はリニのことを助けられなくなる……じゃあ、洗礼出来なかった赤子を殺すのも、もしかして、ゲームの設定世界に取り込めなくて、邪魔だから?
その想像は、俺の気分をひたすらに悪くしていく。
しかし、それと同じくらい、今のリニにしてあげられることは何かを考えている自分がいた。
結局、俺の最優先はそれなんだなと思いながら、俺はくっついたままのリニを見下ろす。そしてそっとリニの白銀の髪に手を伸ばして、優しく撫でていく。なんとか安心してもらいたくて。
そしてそうすることで、俺自身の気持ちも落ち着いていく。
「大丈夫。大丈夫だよ、リニ。これからも俺は、いつでもリニを助けるから」
俺は、いつまでも裏ボスさんを助けることを誓うのだった。
fin
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。本編はここで終わりとなります。
あと少し、閑話が続きます。




