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敏感

「歪みの、種?」

「そう。今回はシドにあげる。来てくれて嬉しかったから」

「え、あ、その……」


 耳元で囁くように告げられる裏ボスさんの声。その内容に、その吐息に、満足に返事が出てこない。


「あの女に見られる前に食べた方がいい」

「そうなの?」

「うるさいから」


 俺はそこで思わず苦笑する。そのお陰で普通にしゃべれる。しかし、解し作業中にしつこくされたことが裏ボスさんは、よっぽど嫌だったようだ。


「それで、食べるとどうなるの?」


 俺もシスターに聞こえないように、真横にある裏ボスさんの顔に向かって囁く。


「元気になる」

「なるほど?」


 よくわからない。ボスドロップ的な感じで、体力でもつくのだろうか。


 そんなアイテムはゲームの時はなかったよなと俺は一瞬迷うが、ここは裏ボスさんを信じるところだなと思いなおす。そして、そっとイオタの刃先から抜いた種を持ってきていた水ですすぐと口に含む。


 とはいえ、飲み込むにはなかなか勇気がいる。


「シド、どうしました? あ、もしかして先程の戦闘で怪我されましたか?」


 裏ボスさんとは反対側から顔を出して、なぜかとても嬉しそうにきいてくるシスター。

 俺が水を使ったのを、傷を洗ったのと勘違いしたのだろう。


 俺は急に話しかけられた驚きで、口の中の種を思わず飲み込んでしまう。


「ごほっ……ごほっ──大丈夫。水で流したら特に血は出てなかったから」


 そういって、種をすすいだ時に濡れた手をシスターに見せる。

 その手をばっと掴んで、顔を近づけて丹念に眺めていくシスター。


「そう、みたいですね。うーん。傷は無さそうです。でも、もし打ち身でも私の治癒魔法は効きますよ。どちらかと言えば体内の傷である打ち身の方が──」

「邪魔。シドから離れる」

「ひゃん」


 重ねていい募りはじめたシスターを、裏ボスさんが力ずくでその体を押して、俺から離してくれる。


 そんなバタバタのせいで、この時種を飲み込んだことにより体に生じた変化に、俺が気がつくのは、少しあとになるのだった。


 ◇◆


「それで、今回の村人の失踪は、これで解決になるのかな」


 俺は村へと戻りながら、どちらともなく尋ねる。


「終わり。歪みが消えたから」


 裏ボスさんからの短い返事。いつもの裏ボスさんだ。


「そもそもさ、リニはどうやってあの場へ?」


 俺はせっかく裏ボスさんが返事をしてくれたので、気になっていたことを尋ねる。

 ちなみに帰り道ではシスターと手を繋がないで済んでいた。シスターが俺に近づくと、すかさず裏ボスさんが威嚇してくれるのだ。


「呼ばれた」

「あの、スケルトンに?」

「そう。そういう変異個体。生き物を呼び、触れた相手の骨を奪って成長する」


 それで、裏ボスさんが触れないように気を使っていたのかと納得する。

 とっさにイオタを投擲した自分の判断を誉め讃えたい。


「でも、リニアスタさんはどうして呼び声が聞こえたのですか。私もシドさんも聞こえていませんよね?」


 懲りないシスターが、裏ボスさんに質問する。

 無視するかな、と思ったが裏ボスさんは答えるようだ。


「知らない」


 バッサリといく裏ボスさん。なので、俺がかわりに推測を口にする。


「あー。たぶんだけど、釣りをしていたという村人の方たちは長時間釣りをしていたんじゃないかな。メリナは用心深い魚みたいだし」

「なるほど。確かにメリナは釣るのが難しいので、長時間滝壺にいる可能性が高いですね。その時間が鍵だと」

「たぶんだけど、ね。時間をかけて意識に呼びかけるタイプなのかも」

「面白い仮説ですね。いわゆる思念波のようなものを放射していて、距離で減衰、時間で蓄積されるとすれば、可能性はありそうです。それで、リニアスタさんはなぜ?」


 いきいきと話すシスター。こういうときだけは、話しやすい。


「あー。リニはその、敏感なのかも?」


 俺がふと思ったことを告げる。裏ボスさんのステータス値であれば五感も、それ以外の感覚もあるとするなら、きっと、鋭敏なはずだ。


 しかし、俺の発言に、なぜかフイっと顔を背ける裏ボスさん。しかも、無言のままだ。


 ──あれ、俺なにか気に障ること言ったか……


 少し、歩く裏ボスさんが俺から離れた気もする。

 俺はどうやって挽回するか、内心冷や汗をかきながら、村へと帰るのだった。


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