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side セシリア

 ──これは素晴らしいタイミングですね


 リニアスタが消えたと聞いたシスター・セシリアの最初の感想は、それだった。

 現在起きている村人の失踪と十中八九、同一の原因によるものと推測される。であれば、現在進行形で起きているリニアスタの失踪は、捜査の糸口として最適だろうと言うのが、セシリアの見解だった。


 ──それにしても、面白い人。


 セシリアは、リニアスタの失踪を聞いたシド=アニキスの様子を見ながら、改めてそう認識する。


 シスターとした類いまれなる才能を持ち、年齢的な問題で見習いの身分とされているセシリア。しかし、その才を見込まれ、見習いながらに、他のシスターとほぼ変わらない働きをしている彼女は、その年齢に反して様々な人々と関わってきた。


 そんなシスター・セシリアでも、シドは初めて接するタイプの年上の男性だった。


 その目の異能はもちろんのこと、大人びた聡い部分と、非常に無知な部分のアンバランスさ。

 そのわりに、他の誰も知らないようなことや、まるで未来を垣間見たことがあるかのような言動も見られる。


 そして何より、不可触とされるリニアスタ=サーベンタスとの深い繋がりを持つという稀有さ。


 ──本当に、見ていると推測がはかどって、面白いですね。


 シスター・セシリアの周囲に多くいる、底の浅い人々とは全く違うシドから、いつの間にかセシリアは目が離せなくなりつつあった。


 ◇◆


 滝壺について、別々の探索を提案された時は思わずセシリアは反対してしまった。

 シドがどういう動向をするのか、間近で観測したかったのだ。そしてその意向は十分に果たされることとなった。


 ──これがシドの目の異能、パラメータ閲覧というものの限界点、なのですね。すごい、すごいです。このような状態になった人体は、初めて……


 倒れ込んできたシドの体をその身で抱き止め、腕の中にあるシドの体を、自身の体全体で感じるセシリア。


 ──左右の目は、完全に焦点を失っているのに、何かを映しているのは間違いない。痙攣はなし。脳の過負荷が鼻血となって出ているの?


 自らの胸を濡らす熱い熱いシドの血。それは明らかにシドの体温よりも熱く、セシリアの胸を焦がすようだった。


「脳の過剰な熱を、血にのせて排出しているのかしら? 面白い。面白すぎます、シド=アニキス」


 興奮のあまり、思わず思ったことを口走っていたセシリア。セシリアとしてはとても珍しいことだった。それだけ今の彼女の興奮がすごい証左でもある。


 幸いなことに、そんな状態なのでシドにはセシリアの発言は認識出来ていないようだった。


 そしてしばらくして現実に意識を戻したシド=アニキス。

 血を失い過ぎていたようなので、セシリアはシドに治癒魔法を提案する。


 そして、それが彼女にとってはとても衝撃的な出来事となった。


 ──うそ、なに、これ。こんなの初めて……。


 治癒魔法は自身の魔素を患者に浸透させ、負傷部分などを治癒する魔法だ。

 セシリアが最も得意とする魔法でもあった。


 これまで数多の数、かけてきた治癒魔法では、患者は簡単に彼女の魔素を受け入れていた。

 それは、彼女が初めて治癒魔法を使った幼女の頃から変わらない。


 それなのに、シド=アニキスは違ったのだ。


 ──すごい、きつい。柔らかい何かが、シドの体の中いっぱいに、詰まっているような。でも、面白い。魔素を押し込めるわ。進んでいく。あ、これ、いい……


 不思議なことに、魔素をシドの体の中を進めると、その感覚がセシリアにも伝わってくるのだ。きつくて、しかし柔らかなシドの中。


 しかし、セシリアにとっては残念なことに治癒はすぐに終わってしまう。


 ──あーあ、終わってしまった……もっぉと……治癒、してみたい……


 セシリアがシドに向ける視線が、単なる興味から別の何かへと変わった瞬間だった。



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