好意
想像以上に辛い時間にも、終わりはくる。
俺の息は絶え絶えになりながらも、シスターからの治癒魔法がようやく終わった。
体調は確かに回復していた。ふらつきも消え、流した血もまるで強制的に体内で生成されたかのようだ。
「シドさん……あの、体調が悪くなったら、また、いつでも言ってください。本当に、いつでも」
まるで舌なめずりしているような声音で俺の耳元に告げるシスター。
距離がとても近い。
その手が俺の体を触診するかのように触れてくる。
俺はそっと離れながら返事をする。
「……そのときは、是非」
「絶対、ですよ。本当に、本当に、いつでも良いですからね。どんなときでも、シドさんであれば、いくらでも診てあげますから」
とても熱心に告げながら、いつもの笑みを浮かべようとしているシスター。
しかしどこかその笑みは歪んでいるようにも見える。
「とりあえず、もう、大丈夫だから。リニを、探しに……」
余波で、息が切れがちだが、なんとかそこまで告げる。
「はい。行きましょう」
ようやくいつもの天使の笑みを浮かべるシスター。
手が、差し出される。
確かに先程まで、手をつないでいた。
ただ、それは互いに周囲を探索しながら、これどけ繁った森の中ではぐれるのを避けるため。
とはいえ、ここで断るのも変かと、おずおずと俺はシスターの手を取る。
ついさっきまでは滑らかでひんやりとしたその手が、今はなぜか熱く、そしてじんわりと湿っていた。
まるでシスターがひどく興奮しているのかと、思わず疑ってしまうほどに。
藪をかき分け、歩きだしたシスターは、とても機嫌が良さそうに見えた。
◆◇
「近い。手を離しますね」
「あら、もうですか」
俺は自由になった手をそっと見えないように服の裾で拭うと、イオタを引き抜き構える。
ここまでとても大人しかったイオタは、引き抜いても無言だ。
──何でも良いから話してほしい時には絶対しゃべらないよな……
イオタを手にしてからの例の訓練を、俺は毎晩、欠かさず行ってきていた。
今ではイオタを構えている時の方が落ち着くぐらいだ。
俺が準備がいいか背後を確認する。シスターもロザリオを構えている。
俺の乾いた血がついたままの、ロザリオ。それを指先で楽しそうにかりかりと触れている。
俺は見てはいけない気がして急いで前を向き直ると、リニがいるはずの場所へと足を踏み出すのだった。




