治癒魔法
──良かった、生きていた
裏ボスさんが死ぬなんてあり得ないとは思いつつも、生存を確認できた安堵感は本物だった。
そして俺は慎重に、ゆっくりとパラメータ閲覧を解除する。下手に雑にやると揺り戻しがくるだろうというのがわかるのだ。
じっくりと時間をかけて、俺は現実の世界へと戻ってくる。
脳内を占めていたパラメータ情報が消える。
急に顔に感じる、柔らかな感触。
そして薬湯のような、少し臭い香り。
シスターが、何か騒いでいる声が聞こえる。どうやら俺の名を呼んでいるようだ。
五感が戻ってきたのだろう。
気がつけば俺は膝をつき、倒れかかった所をシスターに抱き止められていたようだ。
俺は慌ててシスターの柔らかな体から身を離し、立ち上がろうとする。
ふらりと立ちくらみが襲う。どうやら血を流しすぎたみたいだ。
「す、すまない。服が……」
シスター服の前面には、俺の血がべったりとついていた。大量に流れ出た鼻血がかかってしまったようだ。
「これぐらい、なんともありません」
いつものように天使の笑みを浮かべて告げるシスター。
「それで、リニアスタさんは?」
「いた。こっちにまっすぐだ」
「行けますか」
「──大丈夫」
「いえ、まだふらついていますね。出血が原因であれば、治癒魔法が効くはずです」
「いや──」
俺の返事を待たずして、シスターが俺に向かって治癒魔法を放つ。
暖かな光が俺の全身を覆う。
それを穏やかで心地よいと感じたのは始めだけだった。
急に、俺の体内でモゾモゾと何かが這い回るような幻想に襲われる。
その這い回るものは確かに俺の体内の不調な箇所へと赴き、修理しようとしてくれているようだった。
しかしそれ以前に体内を何かが這い回るような感触が、とても耐え難い。
「あら──抵抗が強い?」
「う、ぐ……あぁ……」
思わず声が漏れてしまう。
必死に耐えながらも、ビクン、ビクンと勝手に跳ね上がる俺の体。
それを眺めるシスターの顔からはいつの間にか天使の笑みが剥がれ落ちていて、とても愉しそうに嗤っていた。




