ギリギリ
「リニっ!」「リニアスタさん!」
俺たちは声をあげながら、それぞれ裏ボスさんの手がかりを探そうと周囲に目をやり、生い茂った森のなかを進む。
道が悪い。というか、道なき道といっていい。
俺のパラメータ閲覧は生き物を拾ってしまうので、木々や草のパラメータが視界を覆いつくすようだ。
それでも、万が一裏ボスさんのパラメータが引っかかれば、絶対に見逃さない自信はあった。
それは理屈的なものではなく、自負と言ってもよい。
ただ、残念なことに俺が問題なく見られる距離でのパラメータ閲覧では、裏ボスさんは見つからない。
「どうですか、シドさん?」
そうやってキョロキョロしながら道なき藪を進むことしばし、シスターが尋ねてくる。
彼女の髪には落ち葉や枯れ枝が絡み、服も藪を進んだことで乱れている。
とはいえ、俺も端からみたら似たようなものだろう。
──この状況を、裏ボスさんに見られるのはなんか嫌だ……なんて考えていたらひょっこり顔を出してくれたりしないかな?
そんな俺の淡い期待は、当然叶わない。
俺はため息を圧し殺し、シスターへと返答する。
「全然、ダメだ。木々と草しかない」
「こちらもです。人どころか、獣の通った形跡もありません。リニアスタさんはそんな芸当が出来るんでしょうか?」
「リニなら、可能かもしれない。……というか獣も形跡がないのか」
これだけ繁った森で全く獣の姿が居ないというは珍しい。
それこそ、まるで消えてしまったのかと、疑うほどに。
「どうしますか。一度滝に戻って……」
「いや、この方向でいい気がする。少しパラメータ閲覧の距離を伸ばそうと思う」
「それは……」
何かを言いかけてやめるシスター。
伏せ目がちになったその瞳の裏では様々な計算が働いているのが伝わってくる。
──論理的で、合理的。そう、それ自体は悪いことではないな……
俺はそんなシスターから視線を外すと返事を待たずして、パラメータ閲覧の距離を伸ばしていく。
──滝壺で釣りをした人だけが後日失踪している事件。消えた獣たち。そして裏ボスさん。それらから推測すると、自らの足で移動してどこかへ行っている可能性が高い。
一気に、俺の中へと流れ込んでくるパラメータ情報が増える。
ポタポタと、やがて、たらりと鼻血が垂れ始める。
──ここら辺に獣や人の通った痕跡が残っていないのは、少し角度がずれているのだろう。
釣りをした人たちはたぶん、村から直接そのどこかへ向かったという可能性もある。だけど、だいたいの方向はこちらで間違っていないはずだ。あとは、生きていてくれれば──
パラメータ閲覧を伸ばしながら、ゆっくりと左右に視線を動かす。
流れ込むパラメータ情報が爆増する。
視界が歪み始める。
歪みすぎて、目で見る現実の世界が、現実味を失い、ただ、パラメータ情報だけが俺と世界を繋ぐすべてとなる。
──ああ、まずい……でも、あと、少し
世界が、歪む。もう、あと一歩でもそちらへと踏み込むと戻ってこられなくなるのが、本能的にわかる。
本当に、ギリギリのライン。
──いた。
そして俺はついに裏ボスさんのパラメータ情報を発見したのだった。




