滝壺
前に俺の経験した魔素暴走の兆候とされるもの。
それは校外実習で訪れたダンジョンでの、現れるはずのない強さのモンスターの出現と、特異個体のモンスターの出現だった。
しかし、今回はギルドによる調査では何も発見出来なかったと、聞いている。
いったいどんな状況なのかと、カサブランカ村長に連れられて訪れたのは村の裏手に流れる川を遡った先にある、滝だった。
「ここです」
「なるほど……それで、魔素暴走の兆候と疑った理由をお伺いできますか」
「あ、説明があとになってしまい、誠に申し訳ありません。こちらの滝は村の者も良く訪れるのです。ここの滝壺でした釣れないメリナという魚がいまして……」
説明を始めてくれるカサブランカ村長。
俺は試しにパラメータ閲覧で滝壺を見てみる。
確かに、初めて見るメリナという魚のパラメータが表示される。どうもパラメータ的に油がのって美味しそうだ。
しかし、周囲にも、ここまで来る間にも、村人らしき姿は見かけなかった。
「その釣りをしに来ていた村人が次々に、姿を消してしまっていて」
「それは──釣りの間に、ということですか?」
だとすると、村長たちが、何か特殊なモンスターがここら辺に現れたと考えてもおかしくない。そしてそれは十分に魔素暴走の兆候と言えた。
しかし、そんな俺の予想は次の村長の台詞で外れることとなる。
「それが、違うのです。釣りをして何日後かに、ふらっと消えてしまうみたいでして……最初はその消えてしまった村人たちの共通点もわからなかったのですが、調べを進めていくうちに、消えてしまった数日前にメリナを釣って食べているのがわかった、という流れです」
なぜかシスターも裏ボスさんも無言だ。
仕方ないので俺は自分で質問を続ける。
「なるほど……ええっと、そのメリナを一緒に食べたご家族などは? いました?」
「いました。しかし、釣った本人以外は誰一人として消えていなくて……」
「そうですか──」
確かに俺のパラメータ閲覧で見える限りでは、滝壺に泳ぐメリナは珍しくて美味しそうだが、怪しいところは見当たらなかった。
そのまま周囲にもパラメータ閲覧を向ける。
「うーん……」
「シドさん、この村には数日、滞在する予定です。とりあえず現状を確認できたので一度、戻りましょう」
そこにシスターが提案してくる。
俺も、妙案もなかったので、それに頷く。
村へと戻ろうと歩きだす俺たち。
「えっと、リニ?」
裏ボスさんがぼーとした表情で、滝壺の近くに佇んだままだった。
俺の声に、ちらりとこちらを向く、裏ボスさん。
しかし、そのままふいっと視線を外すと、村とは別の方向へ歩いて行ってしまうのだった。




