理(ことわり)
そっと、籠から一人目の赤子を抱き上げるシスター・セシリア。
しっかり片手で赤子の首から頭部を支え、反対側の手でお尻を持ち上げるように持っている。とても手慣れた様子だ。
それでも、先ほどまで寝ていた赤子は、急に持ち上げられて驚いたのか、大きな声で泣き出す。
泣いている様子に一切怯むことなく、シスター・セシリアはそっと隣の洗面桶に、赤子の足先から浸していく。どうやら洗面桶に入っているのはぬるま湯のようで、下半身を桶に入れられると、気持ち良さそうに赤子は泣き止む。
それなのに、赤子を見下ろすシスター・セシリアはなぜか浮かない表情だ。
しかし、すぐにいつもの天使の笑みを浮かべると、まるで語りかけるように、シスター・セシリアは洗礼の言葉を唱え始める。
キラリとその首から下がったロザリオが光った気がした。
◆◇
突然、双子の赤子の母親が泣き崩れる。
その肩を抱き、父親が精一杯、慰め始める。
俺たちはそんな家族を残して、家から出ていた。
「シスター・セシリア、いったい、何が──」
俺は洗礼で濡れた両手の水気をぬぐっているシスター・セシリアに、思わず問いかけていた。
「一人、洗礼を授けられませんでした。神の理に適応出来ない子だったのでしょう」
「洗礼、出来ないと、どうなるんだ」
「神の御手にゆだねることになります」
「それって?」
「……間引かれます」
「まび……殺すのか!」
「そうです」
なぜかいつもの笑みを浮かべたまま、とても冷静に告げるシスター・セシリア。
その反応は、まるでこう言ったことが日常茶飯事だとばかりの表情だった。
「洗礼出来ないだけで、殺すのかっ!」
「シド、何をおっしゃっているのですか? 当然でしょう。理の中に組み込まれなかった魂は、魔素によりやがて厄災へと変わり果ててしまうのですから」
「そんな……だからって……どうにかならないのかっ」
俺は思わず声をあらげてしまう。いつもと変わらないシスター・セシリアを信じられない思いで見つめる。
その時だった。
「──シド、静かに。中に聞こえる」
どこからともなく、裏ボスさんのが急に現れる。
そしてさっと指を伸ばして、俺の唇を人差し指で塞いでくる。
こんなときだというのに、その指先の柔らかさは俺の意識を怒りからそらすのに十分だった。
シスター・セシリアから、口許が見えない位置に自然に移動しながら、裏ボスさんは俺の頭を片手で掴むと自分の方へと引き寄せる。
まるで抱き寄せられたかのような形になる。
そして俺の耳元で、裏ボスさんが囁くのだった。
「これもまた、世界の歪み。歪みに怒る君が、私は好き」
そう告げたリニの瞳は爛々と輝いていた。




