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神の御手

 こんこん、とドアがノックされる。


 口にスプーンを突っ込まれて返事が出来ない俺。


「開いてる」


 俺の口内をスプーンで制圧した状態のまま、裏ボスさんがノックの音に答えてしまう。


 シスター・セシリアがドアを開けて、顔だけ覗かすように突っ込んでくる。


「シドさん、お加減はいかがですか」

「ふぐぁ……あ……ふぁ」

「シドは元気。抵抗、著しい」

「そうですか」


 とても可哀想なものを見る、憐れみの視線を俺たち二人に向けるシスター・セシリア。

 裏ボスさんは確かに、その憐れみを向けてられても仕方ない子だろう。

 そこは俺にも、もちろん、異論はない。


 ただ、その同じ視線がシスター・セシリアから、明らかに俺にまで向けられていた。


 非常に解せない。


 とはいえ、舌の動きを完全に制御され、シスター・セシリアにまともに抗弁することが出来ない。


 必死にふがふが言っていると、シスター・セシリアの方へと向いていた裏ボスさんが俺の方へと向き直る。


 次の瞬間、俺の口内から消えるスプーン。

 高速でスプーンが裏ボスさんの手元でパン粥を掬うと、目に求まらぬ速さで再び俺の唇へと突き出されてくる。


 到底、回避が間に合わない速さだ。


 俺は話す暇を一切与えられることなく、裏ボスさんのスプーンによって再び口内が制圧される。


 ただ、唯一、あーんが無かった事だけは幸いだった。

 年下の女の子の前で、それはさすがに恥ずかしすぎる。


 そんな俺たちを天使の微笑みで眺めていたシスター・セシリアは何か諦めたように話し始める。


「こちらの村で、季節一巡りの間に生まれた子供たちへの洗礼は無事、誰一人神の御手に導かれることなく、完了いたしました。明日の朝には次の村へと向けて出発したいのですが、よろしいでしょうか」

「ふがふが」

「よい」

「それでは今晩はこちらの宿にお泊まりくださいと、村長さんがおっしゃられていたので。シドさんはこのままこの部屋に。リニアスタさんと私はあちらに部屋をご用意いただきました」

「ここでいい」

「ここ、ですか? それはせっかくご用意頂いた部屋が無駄になりますよ。ほら、そちらは終わったようですし、とりあえず部屋だけでも見に行きましょうか」


 確かに、裏ボスさんの持ってきたパン粥の皿はちょうど空になっていた。

 そうして、部屋に入ってくると、裏ボスさんの腕を掴んでを引っ張っていく、シスター・セシリア。

 きゅぽんという音をたてて、俺の口からスプーンが抜ける。


 そのまま、なんとシスター・セシリアは有無を言わさず裏ボスさんを引っ張って出ていったしまったのだった。







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