騎獣
「あー、リニさん。それは……」
『あの騎獣はテトラホーンです。モンスターに分類されますが、ごく稀に人に使役され騎獣として運用されることもある種です』
「そう」
なぜか、イオタが俺の疑問に勝手に答える。
──いや、イオタ。それぐらいはパラメータ閲覧で、わかるから。俺が裏ボスさんに聞きたかったのは、そういうことじゃなくて……
俺は内心、イオタに突っ込みを入れるが、すでに一言で答えた風の雰囲気を醸し出した裏ボスさんに、改めて質問し難くなってしまう。
裏ボスさんが騎獣して現れたテトラホーンは、立派な体躯に四本の角を持つ牛型のモンスターだった。
パラメータ閲覧によれば、走ると自転車程度の速さが出るらしい。しかも蹄が特殊で.あの立派な体躯なのに急峻な崖まで登れるそうだ。
「これは、また」「とても立派です」
カノンもシスター・セシリアも呆れと感嘆が半々の様子だ。とても裏ボスさんに質問できる感じではなかった。
「シドと、そこのシスターも」
「え?」
「私ですか?」
ちょいちょいと裏ボスさんが人差し指を動かしている。
俺とシスター・セシリアは顔を見合わせるが、恐る恐るテトラホーンに近づいていく。
近づく俺たちをテトラホーンの分厚い顔の皮膚の間から覗く瞳が、ゆっくり追っていく。
俺たちはテトラホーンに触れるぐらいまで近づくが、テトラホーンは大人しくしていた。
「荷物、そこ。シド、ここ」
自分の真後ろのテトラホーンの背中を差す裏ボスさん。どうやら乗れと言っているらしい。確かにパラメータ閲覧によれば、四人まで騎乗可能なようで、徒歩に比べてかなり旅も、はかどりそうではあった。
「えっと……乗り方はこう?」
俺は言われるがままに荷物を置くと、あぶみらしき器具に足をかけて体を引き上げる。
──た、たけー
端から見るのと違って、実際に乗ると、体感的にはかなりの高さだ。前世で一度だけ牧場で体験した、馬の騎乗よりも明らかに視線が高い。
俺のそんな動揺が伝わってしまったのか、テトラホーンが軽く身震いする。
俺は思わず、目の前にあった裏ボスさんの両肩に掴まってしまう。
「あ、ごめっ」
「いい。どうどう」
華奢な肩だ。高いステータスを秘めているとは到底感じられない。強く握ったら折れてしまうんじゃないかと、慌てて俺は力を緩める。
裏ボスさんはそんな俺の行動を気にした風もなく、テトラホーンを宥めている。
「次、シスター。荷物は反対側」
「──その、横座りでもよろしいですか。あと、はじめまして。セシリアと申します」
「ん。仕方ない」
荷物を置くと、シスター・セシリアが気合いを入れた様子でテトラホーンに騎乗しようとする。
しかし、シスター服はあまり騎乗には向いていないようで、かなり苦戦していた。
俺は裏ボスさんの肩から片手を離すと、シスター・セシリアに向かってその手を伸ばす。
裏ボスさんの体が強ばるのを感じる。
──もしかして、体で支えてくれようとしている?
俺は試しに少しだけシスター・セシリアの方へと体を傾ける。裏ボスさんの体は全く、びくともしない。
──す、すごい。体幹がすごいのかな……
改めて裏ボスさんのステータスの高さを実感しながら、もう少しだけ体を伸ばす。すると、シスター・セシリアの手が届く。
「せーので、引っ張ります」
「はい、お願いします」
「ん」
シスター・セシリアだけでなく裏ボスさんもお返事を返してくれる。
「せーのっ」
掛け声と共に一気に俺はシスター・セシリアを引っ張りあげる。
「あっ」
「おっと……す、すまん、リニっ」
「大丈夫」
俺は無事にシスター・セシリアを引っ張りあげるのに成功はするが、勢い余って裏ボスさんに後ろから抱きつくような格好になってしまう。
顔を押し当ててしまった裏ボスさんの後頭部から、謝罪する俺の口と鼻へ、裏ボスさんの匂いが流れ込む。
「出発する」
「え、ちょっ」
「──私は、大丈夫です」
俺が裏ボスさんの匂いを振り切り、慌てて姿勢を戻す頃には、テトラホーンは軽快に歩きだしていた。
こうして、俺たちの旅が始まったのだった。
背後に、裏ボスさんへの餞別を渡しそびれたカノンを残して。




