出発の朝
あのあとは大変だった。
何よりまず、シスター・セシリアの洗礼巡礼の出発まで時間がなかったのだ。
俺は慌てて教会にアポイントをとると、直接足を運び、カノンが参加出来ないことと、リニアスタ=サーベンタスという人物が同行を希望している旨をシスター・セシリアに告げにいったのだ。
シスター・セシリアはカノンが参加出来ないことは非常に残念がっていたが、裏ボスさんの同行には不思議なほどスムーズに同意してくれた。
俺が保証する人物であれば信用できますと言ってくれたのだ。
──すいません、セス。その子、将来は裏ボスになる子なんです。本当にすいません。
俺はシスター・セシリアからの謎の信頼に心のなかで盛大に詫びるしかなかった。もちろん、現在の裏ボスさんは決して悪い子では無いと、俺は信じている。
裏ボスさんの行動は、確かに不思議ちゃんな部分は多々あれど、どう見ても人助けとしか思えない物が多いのだ。
歪みの対処を続けていく過程で、きっと何かが起きて裏ボスになってしまうのだろうと、俺はこちらに転生してきてからの日々で、確信していた。
そして洗礼巡礼へのその裏ボスさんの同行だが、学園の手続きの方は幸いなことに裏ボスさんが自分で済ませたようだった。
不安に思って教務課に確認すると、すでに申請済みと言われたのだ。
その時の教務担当の教官の微妙そうで何か言いたげな顔は、華麗にスルーしておいた。
裏ボスさんについて、不可侵な雰囲気は相変わらずのようだった。
そしてついに、裏ボスさんとシスター・セシリアの顔合わせをしないまま、洗礼巡礼への出発の朝を迎えたのだった。
◆◇
「シスター・セシリア。この度は洗礼巡礼への同行ができずに申し訳ない。旅のご無事を」
「ご丁寧にありがとうございます、カノンさん。学業もおありですし、無理を言ったのはこちらなのですからお気になさらないで」
出発まであと少しというところで、今回の洗礼巡礼への同行を断ったカノンが見送りに来てくれていた。
「こちら、餞別です。シドも、余計なトラブルを起こすなよ」
朝早くから部屋に居なかったで、何をしていたのかと思っていたが、どうやらわざわざ餞別を用意してくれたらしい。
短期の旅なのに大袈裟だなと思いながらも、ありがたく受けとる。
俺への餞別は魔法薬の小瓶だった。
「鎮痛、鎮静効果のある魔法薬だ」
「お、おう。ありがたくもらっておく」
確かに有用な魔法薬だが、意図がよく読めない。そもそも、俺は余計なトラブルを何か起こした記憶はなかった。
しかし、あまり触れない方が良いかなと、大人しく受け取り、魔法薬の小瓶を荷物入れにしまう。
「シスター・セシリアのは、魔素回復効果があります」
「ありがとうございます。これは、本当にいくらあっても困りませんから」
そう言って天使の微笑みを浮かべるシスター・セシリア。
「それにしても、遅いんじゃないか。本当に参加するのか?」
もう一本、魔法薬の小瓶を手にしたまま俺に訊いてくるカノン。
たぶん、裏ボスさんの事を言っているのだろう。だとすると、カノンの持つ最後の一本は裏ボスさん用の餞別かと、その律儀さに頭が下がる思いだ。
「参加は、すると思うんだが……」
あれだけ、本人がいくと言っていたのだ。
いくらなんでもキャンセルは無いと思うんだが、少し、心配になってくる。
そこに、ようやく裏ボスさんが現れる。
そして俺たちは絶句するのだった。




