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鼻先をくすぐるもの

 学園に、洗礼巡礼の護衛として同行する届け出を終えた俺は、学園の建物の裏手にひっそりとあるベンチでぼーとしていた。


 教会の復興の手伝いに駆り出されたように、学園は地域の手伝いにとても積極的だった。


 それはたぶん、ゲームで色々な種類のイベントを起こす必要性からの設定だったのだろう。


 そのお陰か、シスター・セシリアの洗礼巡礼に同行するための短期休学は速やかに承認された。それどころか、なんと無事に護衛として役割を果たして帰還した暁には、単位認定までしてくれるそうだった。


 ──というか、単位制だったんだな、学園て。


 俺は単位認定用の書類を広げて見ながら、その内容に目を通していく。


 どうやら基本的にはシスター・セシリアに証明書に署名してもらうだけらしい。


 ぼーと目を通していると、急に日が陰る。


 ふと上を向くと、そこには覗き込むようにして、裏ボスさんの顔があった。


「う、……リニ。びっくりした──」


 驚いて、危うく裏ボスさんと言いかけてしまう。


「休学するの?」


 俺の手元の書類を見て、裏ボスさんが見下ろしたまま尋ねてくる。白銀の髪が俺の鼻先をくすぐる。


「──ああ、短期だけど」

『魔素暴走の兆候の調査です』

「イオタっ!」

「神器の機能、解放されたんだ。おめでとう、シド?」


 急にしゃべるイオタ。それが当たり前のような裏ボスさん。

 同じ声が頭の上と俺の腰元からして、なんだかひどく混乱する。


 俺はイオタの声を裏ボスさんに聞かれて、急に顔が熱くなってくる。


 ただ、裏ボスさんは特にイオタの声自体には何も言及してこなかった。


 ──あ、もしかして、あれかな。自分自身の声って、自分には違う風に聞こえるから。ここ、録音装置なんて無いし。もしかしてイオタの声が裏ボスさんのものだって、気づかれてない?


 俺をそんな望みを胸に、見下ろす裏ボスの顔を伺う。ただ、その顔色はやはり俺には読み取れなかった。


「リニは、その魔造精霊の異聞神話って知ってるの?」

「知ってる」

「え。じゃあ、やっぱりイオタは神器、神造精霊なんだ」

「そう言ったと思うけど?」

「ですよね、はは。すいません」

「別に謝らなくていい」

「──イオタがしゃべるようになることも知ってたの?」

「その可能性は。でも、絶対じゃなかった。シドが頑張った結果」

「頑張った、だなんて……」


 訓練に励んだのが、裏ボスさんとあんまり会えなかったからだなんて、到底、口には出来なくて口ごもってしまう。


 その俺に、裏ボスが首を傾げて手元の書類を指さす。

 返事はまだ、との催促だろう。


 なので、俺はシスター・セシリアからの依頼について軽く説明する。

 話すにつれて、俺の顔をくすぐる白銀の髪がだんだん増えてくる。


 気がつけば、前屈みになって上から覗き込む真顔のリニの顔がすぐそこに。

 そしてその白銀の髪が俺の顔中をくすぐるのだった。



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