異聞神話
「インテリジェンスウェポン、ですか」
なぜか俺は今朝と同じようなやり取りを、教会でもシスター・セシリアとしていた。
やはり不用意にイオタが話してしまい、軽く説明するはめになってしまったのだ。ここへくるまでの道中は大人しくしていたので、俺も油断していた。
俺の話を聞き終わったシスター・セシリアは少し窮屈そうに前屈みになり、興味深そうに俺の腰あたりを覗き込んでくる。
どうにも落ち着かない眺めだった。
「──もしかしてイオタさんは神器と呼ばれるものなのでは?」
「じ、神器?」
俺はギクッとする。相変わらずシスター・セシリアは鋭い。
しかも、イオタは教会の下からのびるダンジョンで見つかったものだ。なんだかトラブルの香りがする。
「はい。シドさんは魔造精霊の神話は御存知ですか?」
「……勉強不足で……」
それは本当に聞いたことがなかった。少なくともゲーム本編には出てきてないはずだ。
カノンも不思議そうな顔をしている。
「異聞とされている神話ですから、ご存知なくても当たり前です」
そう告げると、深く息を吸って姿勢を正すシスター・セシリア。
そうすると、まるで宣教を行う本物の聖職者のようだ。とても、立派に見える。
「かつて混沌のみが跋扈する原初の地上に、最初の精霊が生まれました。その精霊は始めに魔素を生み出しました。その生み出されし魔素があまねく大地を覆うと、地上を理が支配するようになりました。その理の中で、今に連なる様々な生命体が混沌より誕生しました」
静かな口調でシスター・セシリアによって語り始められた、異聞とされる神話。
なぜだか、はじめから気になるワードがてんこ盛りだった。
しかし到底、口を挟める雰囲気ではなくて、俺は大人しく続きを聞くことにする。
「魔素の祖にして、造り手たるその精霊は、太古に生まれし人々から、いつしか魔造精霊と呼ばれるようになります。やがて太古の人々は魔造精霊を模倣し、自分達のために三柱の精霊を造り上げたとされます。それが、三たる人造精霊。しかし、それは厄災の始まりでした」
声をひそめるシスター・セシリア。思わず引き込まれるように俺もカノンも軽く身を乗り出してしまう。
「厄災の詳細は散逸してしまい、伝わっておりません。ただ、事態を重く見た神々は救済のために九つの精霊をお造りになり武具の形を与え、神器として地上に遣わしたと。それが九つたる神造精霊とされます。九つの神造精霊は厄災を退けると、その役目を終え、眠りについたとされています」
そこまで話して、口を閉じるシスター・セシリア。
「一たる始まりの魔造精霊。三たる厄災の人造精霊。九つたる救済の神造精霊、か……」
俺は思わず、いま聞いた事を繰り返してしまう。なかなかに意味ありげな神話だった。
「もちろん、インテリジェンスウェポンとされるものは神造精霊以外にも確認されています。さらに言えば、太古の人々は懲りずに神器を模倣して作ろうとしたらしいです」
「それは……いつの時代も人は、度しがたいね……」
「全くです」
「それでその、万が一、イオタが神器だとすると、どうなるのかな?」
「どうにもなりません」
「えっ」
「神器であれば選定されしものは神の遣いに準じます。その行いを積極的に妨げることは、教義で禁じられています。逆に神器を模倣したインテリジェンスウェポンなのでしたら、貴重な武器だとは思いますが、教会の管轄ではありませんので」
「そう、なんだ」
俺はそれを聞いて今更ながらに、なんだか不思議な教義だなと瞠目するのだった。




