好感度
カノンのすやすやとした寝息が微かに聞こえてくる。
今日は、どうやらいつものようにカノンの寝付きが良い日のようだった。
俺はカノンを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。机の上に置いてある、神器、イオタのところへといく。カノンから借りっぱなしのハンカチの上に置いてあるそれをそっと両手で持ち上げる。
──ハンカチ、ちゃんと洗って返さないとな。さて、神器だが……。うん、やはりパラメータ閲覧は表示されてない。
俺は両手で持ったままベッドに戻ると、そのまま腰かけてじっくりとイオタを観察する。
──見た目はやっぱりただのナイフだよな。柄のところの宝石、確か裏ボスさんは神造精霊って言ってたっけ。これだけ異質だ。
そっと俺が神造精霊に触れると、うっすらとそれが光り出す。すると俺のパラメータ閲覧に反応が現れる。
──ふーん。やっぱり光っている時だけパラメータが現れる。つまり、擬似的かもしれないけどいまは命があるってことになるのかな。
その時だった。
カーテン越しにカノンの声が聞こえてくる。
「シド……だめ……そこは、もう……」
俺は慌ててイオタを掴んだまま布団を被る。じっと息を殺して、そのまま待つ。
カノンが起き出してくる気配はない。どうやら単なる寝言だったようだ。いったい、どんな夢なのかは微妙に気になる。
──ま、気にしてもしょうがないか。きっとカノンの事だから俺が何か馬鹿をしかけて止めてくれている夢とかだろうし。
優しい奴だよなと、布団の中で考えている時だった。
イオタの放つ光がいよいよ強くなってくる。
いくら布団で覆っているとはいえ、さすがに外に光が漏れるんじゃないかと俺が慌てた時だった。
俺は気がつけば再びイオタを初めて手にしたときと同じ広間にいた。
「ここは……」
『ようこそ。理に触れたものよ。因果の鎖に囚われしものよ。その鎖を断ち切らんと望みますか』
目の前には、昼間見たのと同じ様に裏ボスさんの姿があった。
それは例によって、裏ボスさんの偽物──俺が最も好感度の高い人物の姿を神造精霊が借り受けたものだろう。
実際、目の前の裏ボスさんは、俺が転生したてに目にしたときと良く似た印象だった。
白銀の髪に縁取られた儚げな顔の少女。表情が抜け落ちたかのような顔の裏ボスさんは、最近の彼女とはだいぶ雰囲気が違っているのだ。
──裏ボスさん……? あ、姿がぼやけてく……?
その時だった。まるでノイズが走るかのように、目の前の偽物の裏ボスさんの姿が揺らめく。そして一瞬、その姿がカノンのものへと変化する。
しかしそれも一瞬だった。
すぐに偽物は、裏ボスさんの姿へと戻る。
──なんだ、今の……。一瞬、あの時のカノンに見えた……。何でだろう。直前まで、カノンの事を考えていたからか?
俺は慌てて、頭をふるふると横に振る。
そして改めて前を見るが、やはり裏ボスさんの姿だった。
そうしている間にも、目の前の裏ボスさんの姿をした神造精霊が再び話しかけてくる。
『鎖を断ち切らんと望みますか?』
「……それは、朝までに終わる?」
俺は質問に質問で返してみる。
『惑星の自転周期と同期、開始します──同期完了。現在地の座標への恒星の光子照射開始での中断は可能です』
「──じゃ、じゃあ、ちょっとやってみようかな」
俺が答えると、前回と同じ様に、俺の目の前へ上から鏡が降りてくるのだった。




