言付け
「おい、なに笑ってるんだ」
「すまんすまん。──カノン」
「なんだよ」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だから」
「なっ……はぁ」
深々とため息をつくと、じろりと俺を睨んでくるカノン。何か怒らせてしまったようだ。今のイケメン風の男装をしていると、なかなかの迫力がある。
しかし、それは裏ボスさんのあの瞳に比べれば、可愛いものだった。
──いや、これは比べるものでは無いな。何せ裏ボスさんは将来、裏ボスになるぐらいだし……あれ、でもそうだとするとカノンもヒロイン枠で主人公の仲間として裏ボスさんと対峙するんだよな……だとすると比べても変じゃないのか。
「おい、何か変なこと考えているだろ、お前」
俺の顔を見て、そんなことを言ってくるカノン。なかなか鋭い。
「いや、カノンもなかなかいい線いってるかもなって思って」
「ちょ……どういう意味だ、それ」
急に小声になるカノン。
「意味もなにも、そのままだが」
「──おい、せめて外ではやめてくれ……」
そんなことを言い出すカノン。言われてみれば確かに往来で話すようなことでもないかと、俺も感じる。
夕方の、寮へと帰る学園の生徒たちが立ち話をしている俺たちの横を通りすぎている。
当然、なかには顔見知りもいて、何してるんだこいつらって顔でこっちを見ていた。
「さて、部屋に戻るか」
「はぁ、心配した俺が馬鹿みたいじゃないか、これじゃあ」
「いや、そんなことないだろう。俺は心配してくれて嬉しかったぞ」
「だから……もういい。それよりな、お前と俺宛にシスター・セシリアから言付けがあった」
「へぇ、セスから? 何だって?」
俺は言付けというところで意外に思うが、良く考えればシスター・セシリアはまだ学園に入学前だった。
「折を見て教会に来てほしい、だそうだ。急ぎではないらしい」
俺は、なるほど、と思う。何か直接話したい用事があるのだろう。だとすると、部外者たるシスター・セシリア本人が直接学園にいる俺たちを訪ねてくるより、俺たちが会いに行く方が気楽なのは間違いなかった。
「りょーかい。それじゃあ次の休みにでも行ってみますかね」
「──忘れるなよ、シド」
「大丈夫だって、たぶん」
「ふん、まったく」
なぜだか少し機嫌のよろしくないカノンと一緒に俺は寮へと戻るのだった。




