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可能性

「もしかして、もう夕日? そんなに時間がかかったのか……」


 俺はダンジョンから外に出たところで、真っ赤に染まる空を見て呟く。


 神器の選定には、俺が思ってた以上に時間がかかってしまっていたようだった。


 ──あれ、その間って、裏ボスさんは何してたんだろう? ただ、ずっと待ってた? え、もしかして俺、裏ボスさんのこと、結構な時間、放置しちゃってたのか……


 そんな可能性に思い当たってしまい、急に寒気がしてくる。


 その当の裏ボスさんは、出口の光が見えたところで先に帰ってしまったのだ。

 俺の服の裾を離したと思ったら、ばっと走り出して行ってしまったのだ。素早すぎて、別れの挨拶すら出来なかった。


 ──あれも実は怒ってた可能性が、ある? 選定が終わった時に出会った、あのいつもと違う野性味あるあの瞳も、もしかして……


 そこまで考えたところで、感じていた寒気がどこかゾクゾクするものに変わってきているのに気づいてしまう。

 俺は思い付いてしまったのだ。再び、あの裏ボスさんの瞳を見られるかもしれない可能性を。


 ──いやいや、何、考えてるんだ……いくらなんでも、それはダメだろ……。


 俺は必死に自分に言い聞かせる。

 いくらあの時見た裏ボスさんの瞳が忘れられないからって、事は命に関わる。

 

 ──何より、わざと怒らせるなんて、裏ボスさんに対して失礼だろう。そうしたらまたあの瞳を向けてくれるかもしれないからって……いや、いやいや。そんなことはしない。しないからな……


 夕日に照らされながらとぼとぼと帰路につく俺は、内心ではそんな葛藤をしていた。


 そのせいか、周囲の状況に気がつくのが遅れてしまう。


「シドっ! お前……」

「あ、カノン」


 寮の近くで、ばったりとカノンと遭遇する。


「抜き身でナイフを持つやつがあるか。とても目立っているぞ。ほら、これを貸すからさっさと隠せ。全く、何やってたんだ、シド。朝からいなかったよな」


 そういって、ハンカチのようなものを差し出してくるカノン。

 俺はありがたく受けとると、その布が切れてしまわないように慎重にナイフに巻き付ける。


「ああ、ありがとう。すまんな、カノン」

「……本当に何があったんだ。話くらいなら聞くぞ」


 心配そうな、それでいて訝しげな様子のカノン。


「俺、そんなに変かな」

「変だな」

「そうか……」


 そんなカノンを見ていると、俺はなぜだか笑みが溢れてきてしまった。

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