イオタ
ダンジョンの出口に向かって、裏ボスさんとポツリポツリと途切れ途切れに話ながら、俺は歩いていた。
相変わらず俺が前で、俺の服の裾を裏ボスさんが握ってついてきている。
俺は、たくさん裏ボスさんに尋ねたいことはあった。
神器のこと、神造精霊のこと。そして歪みと裏ボスさんが、呼ぶものと、裏ボスさんの鉱石化する体のこと。
しかし、俺はどうにも言葉に詰まってしまい、裏ボスさんの口も重かった。
俺が言葉に詰まってしまう理由はとても簡単だった。
消えゆく神造精霊の光の中で最後に見た、裏ボスさんの瞳。
美しく、涼やかなのに、どこか湿り気を帯びていて怪しいほどに艶やかなそれに、俺はぶっちゃけると、魅了されてしまっていた。
まるで肉食獣のように力強く、情熱的なのに、瞳自体の元々の涼やかさは鋭利に研ぎ澄まされた氷河のような荘厳さを併せ持つそれ。
その裏ボスさんの瞳の映像が俺の脳裏にこびりついていて、何か話そうとする度に甦るのだ。
暗く、そのあと何もかもが良く見えなくなっているのも、良くなかった。
脳裏にこびりついた裏ボスさんの瞳は、思い返す度に、どんどんどんどん俺のなかで存在感を増していく。
そして俺の服の裾を掴んだ裏ボスさんの右手。服の裾自体が長い訳ではないので、歩いていると、度々その手が俺の体に触れるのだ。
行きはそこまで気にならなかったのに、いまはもう、それだけでダメだった。
裏ボスさんの手が体に触れる度に思わず身動ぎしたくなってしまう。しかし、歩きながらそんなことをするわけにもいかず、何より、裏ボスさんに変に思われるのが嫌で必死に我慢し続けているのだ。
結果として、会話に全然集中することが出来ないでいた。
しかしそれでも、いくつかの事は聞き出すことが出来た。
俺の持つナイフ型の神器が『イオタ』と呼ばれるものだろうということ。
──イオタってギリシャ文字だとすると、確か九番目だよな。だとするとあと少なくとも八個は神器がありそうだ。
そして、これらのゲーム本編には全く出てこなかった知識を裏ボスさんは、母国であるシレッサンクで、巫呪としての教育を受ける時に習ったということ。
──だけど、巫呪がどういう存在で、裏ボスさんが歪みと呼ぶ例のリンゴみたいなのとどういう関係かは、教えてくれなかったんだよな……
俺はその質問をしてみたときの、急に重々しくなった空気を思い出して、思わず身震いしそうになるのだった。




