side 裏ボスさん5
「──わからない。でも、神造精霊がついている武具が、神器」
「なるほど?」
私の返事を聞いたシドが、背後で神器に手を伸ばす気配を感じる。
どうやら神器の選定に挑戦するつもりのようだ。シドの手が神器に触れて、さほど間をおかずに神器の神造精霊が、光りだす。
叡知の光と呼ばれているものだろう。
それは、選定の始まりを告げる光だった。
私はシドに左手を解してもらってから、いっこうに冷める気配のない熱をかかえたまま、そっとシドの方を向いてみる。
自分でも顔がいまだに真っ赤に染まっている自覚があって、こんな姿をシドに見られたくなかったのだ。
──選定の間はシドは外界を認知出来ない状態になっているはず……うん、大丈夫。
台座に刺さった神器を握りしめたシドの瞳は虚空を向いていて、そこには何も映していなかった。
神器による選定の間は、その体は無防備になる。
そしてその選定にかかる時間は、受けるものの度量によって、大きく異なる。
「私が、その間、守ってあげるから。シド」
私は、ゆっくりと動きを止めたシドの体を順に確認していく。
「これは、シドの身の安全を完璧に見守るための手順、だから。何もおかしいことではない」
何も聞こえていないはずのシドに話しかけるふりをして、私は自分に言い聞かせるように、呟く。
髪の毛一本、皮膚の一欠片まで、怪我することの無いように、まずはシドの体の現状の確認をするのだ。そしてそれをもとに、シドの体の状態を維持するための、最大限の策を講じる。
まずはその神器を握るシドの右手から。
軽くお辞儀をするように前屈みになりながら首を伸ばし、少し顔を傾けながら、シドの右手に触れるギリギリまで私は顔を近づけていく。
ついさきほどまで、私の左手を優しく、しかし情熱的に扱っていた、シドの右手。
滑らかだが男の子らしいゴツゴツと骨ばった右手に吐息がかかるほど顔を近づけると、私の視界一杯にそれが広がる。
脳裏に、握られた左手を通して感じられた感覚が強烈に甦ってくる。
それは例えるなら、生命の喜び。
石から肉へと回帰する際に感じられる命の実感だった。
そして同時に、触れるまであと紙一重の距離にシドへと近づいたことで、シド自身の匂いが私の鼻孔を満たし、頭一杯に満ちていく。
隣にいるだけで、私の鼓動を速め、顔を真っ赤にさせるシドの匂い。それが、この姿勢だと私の全身を包むかのようだ。
「ああ……」
私は思わず満足げに声を漏らしてしまう。
選定はまだ、始まったばかりだった。




