神器の間
俺の手が、台座に刺さったナイフの柄に触れる。
俺がそれを握りしめた次の瞬間だった。
規則的に点滅を繰り返していた、その神器の宝石部分の数値が激しく変動する。
それはまるで、俺が触れたことで目を覚ましたかのようだった。
慌てて俺は手を離そうとする。しかし、離れない。
とても強い力で吸着されたかのように、ナイフの柄を握る俺の手は、指一つ動かせなくなる。
──何が、起きているっ!?
慌てた俺の頭の中で、さらに不思議なことが起こる。急に、世界が二重うつしに見えるようになったのだ。
一つは俺が神器とされるナイフの柄を握り、近くには、そっぽを向いたままの裏ボスさんがたっている世界。現実の世界だ。
そして、もう一つ。
俺の頭の中に人影がぽつんと一つ佇む世界。
次の瞬間だった。その人影が急に話しかけてくる。
しかも、その姿はリニアスタ=サーベンタス、裏ボスさんにそっくりだったのだ。
『理に触れようとするものに告げます。汝の資格を示す準備は、いかに』
俺の目に同時に映る、二つの世界。一つは本物の裏ボスさんが隣にいる世界。もう一つは、何かが化けた偽物の裏ボスさんが俺の目の前に佇む世界。
それは俺の空想か、はたまた何かの幻覚か。
もしくは何者かによって強制的に映像として、脳に見せられているのか。
──最後の可能が、高そう、かな。
『正解です。洞察力は及第点』
なぜか不思議なことに返事が頭のなかで響く。送り主は明らかに目の前の偽物の裏ボスさんだ。
──あー。脳に直接映像と音声を送れるだけじゃなくて、思考も読める相手か。これはまた、厄介な。なにはともあれ、はじめまして。
俺は二重うつしの世界に佇む偽物の裏ボスさんに頭のなかでだけで、挨拶をしてみる。
もちろん、対話が可能か探るのが目的だ。
だが、見た目が裏ボスさんだったから、というのも大きい。見た目だけでも、裏ボスさんというの相手には丁寧に接しなければと、すっかり習い性になっていた。
『度量。及第点。はじめまして』
──貴方もリニアスタ=サーベンタスなのかな?
『答えは、いいえ。貴方の記憶のなかで一番好感度の高い姿を借り受けています。質問は平凡』
──平凡、か。まあ、俺はモブ生徒Aだからな。そこは仕方ない。それよりも俺って、裏ボスさんの好感度が最大なのか……
こんなところでそんなことを言われて戸惑ってしまう。
『私は神造精霊。再度、問います。準備は、いかに』
俺は二重うつしになった世界で、本物と偽物の二人の裏ボスさんの顔を交互にみる。
準備なんて当然、出来てはいなかったが、気がつけば心のなかで目の前の神造精霊に答えていた。
──準備は大丈夫。




