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順応

 固く、鉱石化した裏ボスさんの左手。ひんやりとして滑らかなそれを、俺は両手で包み込むようにして持つ。


「じゃあいくよ」

「ん」


 パラメータを閲覧しながら、魔素をゆっくりと丁寧に流し込み始める。

 すでに一度経験していることではあるが、決して粗雑にならないよう、丁寧に丁寧に進める。


 ──裏ボスさん相手に、雑なことなんて、ダメ、絶対。気合いを入れろ、自分!


 内心、自分自身に発破をかけて、目の前の裏ボスさんの左手にだけ、集中する。


 幸いなことに、鉱石化しているのは左手の人差し指と中指、それと手の甲の一部だけだった。


 肉と鉱石の間に、細く細く研ぎ澄ませた魔素を潜り込ませていく。

 じっと顔を近づけて、魔素とともに、片手の指をゆっくりと裏ボスさんの指の鉱石の縁に沿わせて動かしていく。

 俺の指先に、裏ボスさんの滑らかな肌の感触が伝わってくる。


 俺はついつい、その手のひらがさっきまで俺の体の上を這いまわっていたのを思い出してしまう。


「──んぁっ──ん……」


 その時だった。裏ボスさんが、この前よりも大きな声を漏らす。


「あ、ごめん。痛かった?」

「違う、の……続けて」


 顔を俺から背けて、しかし続けるように指示する裏ボスさん。

 俺は、冷や汗を垂らす。余計なことを考えていて、鉱石を解す魔素の操作を誤ったのかと思ったのだ。


 ただ、パラメータ的には鉱石を解す経過は順調だった。


 ──なんだろう、この前より順調かも。まるで俺の魔素を裏ボスさんの体が受け入れてくれているみたいな……


 もしかしてと、流す魔素を少しだけ太くしてみる。

 パラメータ閲覧で肉へ戻り、数値が表示される部分の速度が順調に増える。


「んんんっ……、あ、……ん」


 大きく顔をのけ反らせる裏ボスさん。


「ほ、本当に大丈夫? リニ」

「──ん、もっと……あ、ううん、大丈夫」


 俺は、どうしようか悩む。しかし本人がもっと言っているのだ。ここはもう少しだけ、魔素の流れを太くし、少しでも早く済ませて欲しいのだろうと推測する。


「わかった。その、あんまり動かないでね」

「そんなの……努力、する」


 顔を背けたまま返事をする裏ボスさん。俺は一つ、大きく深呼吸をするとさらに魔素を太くする。一気に済ませてしまおうと、裏ボスさんの残り少ない鉱石化した部分に勢いよくそれを注ぎ込む。


「ふ、ぁ──むぐ……」


 裏ボスさんが、何か言いかけるも、右手を自分の口に当て、声を漏らさないように塞ぐ。

 俺が鉱石化を解すのを邪魔しないようにと配慮してくれたのだろう。


 俺はその裏ボスさんの配慮を無にしないよう、最大限の早さで、残った鉱石化部分の解し作業に取りかかるのだった。





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