さわさわと
裏ボスさんが倒れこんだ俺の体の上から退くまでの時間は、永遠のようにも一瞬のようにも感じられ──いや、微妙に長かった。
──ど、どうしたんだろ。俺の上にあるのは、たぶん裏ボスさんの手のひら、だよな。まるでなにかを探すかのように……
さわさわと俺の肩から大胸筋周辺を上下左右に動く、手のひらと思わしきもの。
ただ、俺の上から退こうとしているにしてはその動きは、明らかに不審だった。
とはいえ、問いただすなんて、考えるだけで腰が引ける。
万が一問いただすにしても、なんて訊けというのだ。なんで俺の体をさわっているんでしょうか、とか。それとも、すいませんが大胸筋をなぞるようにさわるのをやめてください。
到底、そんなことを口にする勇気は、出てこない。
そんなふうに俺が悩む間に、いつの間にか裏ボスさんの手の平らしきものは、俺の腹部の方へと移動していた。
その移動の動きもさわさわとして、くすぐったい。
裏ボスさんの体の他の部分は、無事に俺の体の上から退いているのを感じる。
なので、俺はそっと上体を起こそうとする。
すると、俺の腹部を通過してかけていた手のひらがビクッとなる。そして、さっと感触が消える。
──起き上がって、大丈夫、だよな?
恐る恐る上体を起こし、俺は、座った体勢になる。
暗闇のなか、裏ボスさんは無言だ。ただ、俺のほんのすぐそこにいるのは感じられる。
呼気の音がはっきり聞こえるぐらいの位置。
俺は、耳元に感じるその音と、先程まで体の上を這いまわっていた感覚に、何を話していいか、急にわからなくなってしまう。
暗闇がまるで湿り気を帯びたかのようだ。その重さが、俺の動きを縛る。
──なにか。なにか、しゃべらないと……
「あ、灯りの……」
掠れてはいたが、声がでた。
一度、声を出してしまうと先程までの湿ったような重さは不思議と霧散していた。
「──え?」
「魔導具、とってくる。灯りが消えちゃったから……」
俺はよたよたと立ち上がると、魔導具を飛ばしてしまった方へ向かう。
目が慣れてきて、何とか周囲の輪郭ぐらいなら見えるし、比較的入り口に近いここはパラメータ閲覧できる苔類も少し生えていた。
それでも地面を這うようになりながら、手のひらを駆使して何とか灯りの魔導具を発見する。
──あったあった。良かった……あれ、スイッチがつかない、だと……
落とした衝撃で、灯りの魔導具は壊れてしまったようだった。
「ごめん、灯りの魔導具、壊れちゃったみたい。つかない」
「そう」
言葉短めに答えてくれた裏ボスさんの声は、どこかホッとしているように聞こえた。




