困ってそうだから
「あと少し、だと思うんだけどな……」
目の前のダンジョンの壁を手探りで調べながら、俺は思わず呟いてしまう。
カノンとシスター・セシリアと落ちてしまった教会したのダンジョン。そしてそこを脱出する際に見つけた、パラメータが点滅する何か。
裏ボスさんの体の鉱石化と何か関係がありそうなそれが、俺は気になってしまって仕方なかったのだ。
だから、無事にダンジョンを脱出したあとも、こうして何度もこっそりダンジョンの探索に来ていた。
最初に脱出に使った出入り口が、ギルドの管理下に置かれてしまい、気軽に使えなくなってしまったが、ここは幸いなことに複数の出入り口があるタイプのダンジョンだった。
そして、このダンジョンの特異性はどうもそれだけではないようだった。
何度もこうして潜っているのだが、ほとんどモンスターが現れないのだ。
最初にいたシャドウエイプを倒して以来、俺は一体のモンスターとも遭遇していなかった。
──まるで別のことにダンジョン内の魔素が使われているかのようだよな……
そんな、とりとめのないことを考えてしまうのも理由があった。
点滅する何かへ、たぶんあと壁ひとつのところまで来ていたのだが、この先に進めなかったのだ。
ゲームで言えば、何かあと一つ、先に進むにはフラグが足りない状況だった。
──なんだろう……ダンジョン自体をクリアしないと開かないとかだと、かなり大変……。でも、なんとなくそれは違うような気もするんだよな。
俺が改めて周囲に何か先に進むためのヒントがないか調べようと、周囲をぐるりと見回し、パラメータ閲覧の閲覧距離を伸ばした時だった。
「え……? 裏ボスさんが、いる?」
俺は思わず固まってしまう。
少しだけ無理をして、伸ばしたパラメータ閲覧距離、ギリギリの所に、裏ボスさんがいたのだ。
どうやら動きを止めてじっとしている。
「何で、裏ボスさんがこんなところに?」
独り言が止まらない。それだけ、俺は動揺していた。しかし、見続ける間にも、裏ボスさんの位置は変わらず、全く動いた様子がない。
「何で、動かないんだろう……ないとは思うけど、もしかして何か困ってる?」
俺の脳裏に、顔を真っ赤にしてこちらを見上げる裏ボスさんの顔がよぎる。俺が裏ボスさんの体の鉱石をほぐし終えた時に見せてくれた顔。
普段、あまり表情を変えない裏ボスさんの見せてくれたそれは、どこかあどけなくて、俺は、実のところとても可愛いな、と思ってしまっていた。
そんな最後に見た裏ボスさんの顔を思い出してしまったら、もうダメだった。
──万が一だけど、困っているかもしれないよな。ほっとけないよ。
気がつけば俺の体は裏ボスさんのいる場所へと向かっていた。




